動き出しますとさ
突然響いた声の主であるトゥオンと、その他俺が装備している全員を一通り紹介し、セレナからの圧力に手伝ってもらい、無理矢理ナイアードとアルセードを納得させて本題へ。
「それで、先ほど口にした霧の話と今回の件は何か繋がりがあるのですか?」
「関係は正直分からねぇ。けど、その霧も五十年前に発生していたって記録が残ってた」
「当時がどうかは分かりゃしませんが、少なくとも今回の霧を発生させた裏には、国絡みの陰謀が見え隠れしてたんでさぁ」
「先ほどからの仮定ですと過去にあった出来事の繰り返しの様でございますし、全くの無関係という可能性は低いかと」
「力を、手に入れた、人間、単純。すぐに……ひけらかす」
「どうしてこうも国ってやつは、力を求め続けるのかねぇ! HAHAHA」
どうやら装備達の中ではもう霧の騒動を起こさせた国、ハルデ国が一枚噛んでいる事が決定しているようで、端から勘ぐっている様子だった。
「そのハルデ国というのが怪しいのかい?」
帽子を被り直しながらぶっきらぼうに尋ねたアルセードに対して、答えたのはセレナだった。
「怪しさ、という点ではハルデ国じゃの。後はハルデ国と敵対しとるエポーヌ国も怪しさとしては高いと言えるかの」
「まぁ、妥当なところだわなぁ。俺がいる国だからあまり悪くは言いたくは無いが、信用出来るかって言われると答えはノーだな」
装備達と違って、セレナの意見は俺と同じのようだった。
ハルデ国が怪しいならエポーヌ国も怪しい。
敵対同士の国両方を疑うのが筋というものだろう。
動機など、相手国よりも優位に立つため、これだけで説明が付くのだから。
「ひとまずは情報収集をせねば始まるまい。アルセード、ナイアードよ」
「何でしょうか?」
「汝ら、ハルデ国内の情報を集めることは可能か?」
唐突に何を言い出すかと思えば、セレナは精霊達に密偵をさせる気らしい。
「可能か? も何も、容易なことですが? そもそも我々は人間には視認出来ないのが当然なので」
「であったか。では汝らはハルデ国内で情報を。妾達はエポーヌ国で情報を集めるとしよう」
「期限はどうする? あまり悠長にも出来ないんだろ?」
「どこまで魔の手が伸びているか分からぬ以上、早期解決が望ましいです。――情報収集に最長でも3日といった所でしょうか」
「情報が手に入り次第連絡を寄越すのじゃ。こちらも情報が手に入ったら連絡を送るでの」
さっさと日程を、行動を決め、顔つきの変わった面々は――。
「では、後ほどな」
セレナのその言葉でそれぞれ行動に移った。
……どうせ急ぐからとかいう理由で、また恐怖の連行飛行をさせられるんだろうな……。
*
ケイス達が問題を解決するために動き始めた頃、ケイスが元居たパーティ――現在はラグルフを替わりに入れたハーレムパーティは、とある依頼を受けて町の外のとある場所へと赴いていた。
ラグルフが持ってきたその依頼は、モンスターの持つ腐敗毒により森の一部が死滅してしまったというもので、これ以上広がらないようにその周囲を炎の魔法で焼いて欲しいというものだった。
「どっから持ってきたのよ、こんな怪しげな依頼……」
依頼主を明かさず、その割に難易度に見合わない報酬を前払いで半金受け取ってきたラグルフに投げかけられたのは、疑惑の目と疑いの言葉。
けれども、どんなに一方的であっても。誰が受けていたとしても途中で破棄してしまえばパーティ全員の評価に繋がってしまう手前、無碍に依頼をキャンセルするというわけにもいかず、仕方なく渡された地図通りの場所へとやってきた一同。
街道沿いにある森の中、その中心部が話の通り草が木が葉が、まるで地面に沈むように腐敗して朽ち果てていた。
遠目で見ても分かるほどには異常であり、辺りには瘴気が蔓延していた。
「うっわ……。ここ私近寄りたくないんだけど!?」
「健康に悪そうな所はパース。ラグルフ、依頼受けたの貴方なんだから貴方が何とかしなさいよ?」
「俺一人じゃ焼き切れないって。援護頼むよ……」
「まぁ、魔法が使える分あいつよりはマシ――なのかしら」
「やることやってさっさと帰りましょう? また病気になってしまいますわ」
結局、パーティメンバー全員で炎の魔法を連発し、周囲を燃やすことに成功したのだが――。
そもそもの依頼は腐敗毒が広がらない為の措置であったはずなのに、一向に広がっていない点。
そして何より、冒険者としての心得である素性の分からない者の依頼を受けてはいけない、という教訓を無視したラグルフの行動。
これらを気付いているのか、はたまた気が付いていないのかはさておいて、この行動のせいで、ケイス達の事態はより深刻となっていくことを、当然ながら誰も知ることは出来なかった。