見えてきましたとさ
「冗談――って訳じゃあ無さそうだな……」
「むしろ君の口からその説が出てきたことの方がたちの悪い冗談に思えるけどね。人間は同族を守らないのが普通なのかい?」
「善悪の判断がつく程度には知恵はあると自覚してるさ。もっとも、自分の事じゃあなく、他人のことを客観的に見た時だけだがな」
「まぁ少し過去の話じゃ。お主はまだ子供の頃の話じゃろうが、不埒にもこやつら精霊の領域に足を踏み入れんと画策する人間……というよりは国じゃな。そんなやつらがおったのじゃ」
セレナの普段とは違う神妙な顔に当時の状況をある程度察する。
人間では想像できないほどに大変だったのであろう。
精霊を吸収せんとする国と、精霊との言うなれば戦争というものは。
「俺が子供の頃って話だったがざっと三十年位前って認識でいいのか?」
「そこいらだったはずじゃが? ……ナイアードかアルセードよ、詳細を覚えておるか?」
「おおよそ五十年前ですよ。僕らにとっては些細な違いですが、人間にとっての二十年は大きな差になりますので訂正しておきます」
そうか、五十年前の話なのか。
「――俺、その時おぎゃーすらまだなんだけど?」
「おお、そうじゃったか。たかが二十年程度の誤差なぞ影響無いと思ったのじゃが……人間とは急かしい生き物なのじゃな」
「だからこそ、文明等の発展や風習の興廃が早いのかも知れません。一長一短ありますかと」
ナイアードがフォローなのか何なのかよく分からない事をセレナに呟いて。
セレナはそれを聞きながら腕を組み頷いている。
「かくも人間とは面白き生き物じゃな。いずれ観察でもしてみるのもいいかもしれぬの」
「とりあえずセレナ? 当時のことで知ってる事を教えてくれるとありがたいんだが?」
「む、そうじゃな。承知した」
老後の計画、なんて言ったら怒られるであろう様なことを言い、一人しみじみしているセレナへ当時の事の説明を求めた。
「何というか、最初は確か詠唱を分解する所から始まったのじゃったか? 詠唱の中にある精霊に語りかける部分をうまく繋いで任意の場所に精霊を具現化させる」
地面に落ちていた木の枝を拾って左右に振り、まるでこれが精霊の代わりだ、とでも言いたげに見せつけてくる。
「具現化した精霊を対抗関係にある精霊の魔法を用いて拘束。精霊を具現化状態のまま保持させる」
草原の草を僅かに千切り、その草で枝をグルグル巻きにしていくセレナ。
「様々な魔法や魔法道具を精霊に直接使用し、弱体化を図りながらどのような反応が起こるかのデータ採取を行う」
ナイアードから滴る水に晒して見たり、地面に擦りつけてみたり。
俺と同じく話を聞いているセレナードやナイアードはどのような感覚なのか分かるのだろう。
顔をしかめ、なるべくセレナの持つ枝を視界に入れないように顔を横へと背けていた。
「ところでケイスよ」
「なんだ?」
「精霊に“死”という概念は無く、あるのは休眠と消失じゃ。それぞれどんな状況か分かるか?」
「休眠はまぁ、文字通り眠ってるような状態なんだろ。……時間が経てば復活出来るような状況って事か。消失はどれだけ時間をかけても精霊として戻ってこれない状況、でどうだ?」
いきなり話を振られて若干驚きはしたが、そんなに遠くない解答にはなっているはずだ。
「大きくは間違えておらぬし、人間ならばその程度の認識でも問題ない。さて、この捕まり弱体化させられてしまった精霊は、この後どうなってしまうと思う?」
持っている枝を真っ直ぐに俺に突きつけて聞いてくるセレナの目は、僅かに怒りの炎が揺らいでいる様にも思える。
どうなるかって言っても……。
「吸収される。じゃないのか? その経緯の話なんだろ?」
「正解じゃ。極限まで弱った精霊は己を守るために休眠へと状態を変える。この時、核を残して自身の魔力を、自身に起因する物へと移すのじゃが……」
「人間は、それまでの研究で人体に様々な依代を埋め込むことに成功していました」
言い辛そうに口ごもったセレナの後を継いだのはナイアードで。
発せられた内容は聞いていて気持ちがいい物では無いことは確かだった。
「人体魔改造計画か。――それだけは知ってるな」
とある依頼の折、消えた少年を探していてぶつかったその計画は、まだ年端もいかない少年少女に苦痛を課して、国に従う兵士を作り上げるという歪んだもの。
公に出来るわけも無く、当時のパーティでその計画を頓挫させ、あらゆる資料や機材、アイテムを破棄し少年少女達には記憶忘却の魔法をかけて家に帰さざるを得なかった胸くそ悪い計画。
「けど俺がその計画を知ったのはここ数年の話だぞ? セレナが言ってるのは五十年前の事なんだろ?」
「妾も気になったのじゃ。――が、ここに一つ仮説を立てるというのはどうじゃ?」
「仮説……ですか?」
アルセードがしかめていた顔をさらにしかめてそう問えば。
「うむ。人間が、どこからか過去の記録を手に入れ、同じようなことをしようとしておる。という仮説じゃ」
「せめてどこの誰がやってるかの見当が付かなきゃ……待てよ。五十年前? ――どっかで……」
だからこその仮説なのだろうがあまりにも範囲が広すぎるその仮説は、とある出来事に合わせると俺の中で綺麗に合致してしまい……。
「旦那! この前の町があの霧に覆われたのは五十年前にもあったという話でしたぜ!!」
突如として響いたトゥオンの声に驚いて目を見開いたナイアードとアルセードを尻目に、俺は苦く重い物が喉を通り過ぎるのを確かに感じ取った。




