意見を求められましたとさ
最初に出てきた時のような草のざわめきは無く、文字通り生えたという表現が合うような登場をしたアルセード。
そのアルセードを追いかけるように水が湧いてきたかと思えば、その水は広がらず上に登っていって、水柱を形成する。
その水柱の水が集まり徐々に人間の輪郭のようなものが出来上がってきて。
そこから現れたのは本当に神々しいと思う神様のような姿だった。
踊り子のような動きやすそうで露出度高めの服装に、代名詞とも言えるヒラヒラの付いたアームウィングリスト。
地に着きそうなほどに長い空色の髪は真っ直ぐに降りていて、腕のヒラヒラと髪の先端からは絶えず雫がしたたり落ちている。
「有事であると聞き駆けつけましたが、何故人間の子もお出でなのでしょうか?」
格上であると説明を受けたセレナへ挨拶をするよりも前に俺がこの場にいる事への不満を投げてきて、
「道中説明しただろ。白龍様を救ったらしいって」
「このような人間がですか? にわかに信じられませんが……」
「我が母上の鱗を所持しておった事が何よりの証拠じゃ。――この場にいる事に異論あるか?」
アルセードから説明を受けていたらしくも未だに疑心暗鬼の水の踊り子のような精霊は、セレナの発言で一瞬固まる。
「これは聖白龍様。挨拶が遅れました。お変わりございませんか?」
「いつも通りじゃ。……アルセードから聞いたとは思うがドリアード、ないしユグドラシルの異常の疑いがあるでの。それについて何か知らぬかと思うてこうして呼び出したまでじゃ」
あからさまに俺の時とは違う態度なのだが、格上と格下への対応の違いはまぁ、こんなもんだろう。
いきなり殺されなかっただけでもマシな筈だ。うん。
「はて? 私には何も感じられないのですが?」
「実は僕もなんだけど、ドリアードは僕からの供給が止まったって言ってるらしいんだよね」
「今現在もドリアードを感じる力に変化とかないのか?」
精霊同士の会話にふと思いついて口を挟んだが、二精霊に思い切り睨み付けられてしまった。
これだけで寿命縮むな……。
「こやつを威圧しても仕方が無かろう。それで? どうなんじゃ実際。妾は今でもドリアードを探ると違和感しか感じらんが?」
うまい具合にセレナが俺の言ったやって欲しかった事を促してくれて、それに従って二精霊もドリアードの探知を始めてくれたらしい。
辺りを包む静寂と、頬を撫でる優しい風が過ぎる事僅か。
ゆっくりと閉じていた目を開いた二精霊は、
「変……ですね」
「変……でございますね」
と呟いた。
「じゃろ?」
いや、セレナ。じゃろ? じゃなくてだな……。
精霊を感じる事が出来ない俺に、どう変か説明をして欲しいところ何だが。
「ドリアードの気配が希薄というか……広範囲に広がってるような感覚ですね」
「ナイアード、君もそう感じたのかい?」
「アルセードも……という事ですよね。何故今までこの事に気が付かなかったのでしょう……」
精霊感覚でいまいち分からないのだが、闇の中から殺気を向けられて、敵がいるのは分かるのにどの辺りにいるか分からない感覚と同じだろうか。
「妾も近寄るまで気が付かなんだからな。となるとドリアードの異常と言うことで良いかの?」
「私としてはそう判断されるのが妥当かと」
「ユグドラシル様の異常だったら僕たちにも影響が出ているはずですからね。ドリアード側の異常と思います」
セレナの問いに肯定を示すナイアードとアルセード。
ふむ、と頷いたセレナは、
「ケイスよ、お主はどう思うのじゃ?」
いきなりこっちに話を振ってきた。
「――どう思うも何も、感じられない俺が言えることなんて無いしなぁ。……しいて言うならだけど、これが序の口だって可能性は無いのか?」
「序の口?」
「例えばの話、この異常が人間からのものだったとするだろ? けど人間なんて精霊様からしたらちっぽけな存在で、まともに相手をするのも馬鹿らしい存在の筈だ。そんな存在が精霊の力を奪おうと考えたとして、いきなりユグドラシルなんて存在を相手にすると思うか?」
話を聞きながら思っていた一つの考え。
この騒動が、もし人間が仕掛けたものだったら?
その目的が精霊の力を手に入れることだったら?
「答えはノー、だ。そんな愚かとも言える考えに至る連中ってのは決まって自己分析だけは完璧だ。いきなり全部に喧嘩を吹っ掛ける真似なんて絶対にしない」
精霊達は何かを言おうと口を動かすが、それをセレナに止められる。
俺の意見を最後まで聞け、と言うことなのだろう。ありがたいこって。
「だったら、少しずつ削っていくしかないだろ? その最初の標的がドリアードだったってだけで、これからアルセードやナイアード、果てにはユグドラシルすら取り込もうと考えてるかも知れない。と」
先ほど口を挟もうとしていた二精霊は急に神妙な面持ちになり、腕を組んで何かを考えている様子。
「あくまで可能性の話で、実際にそうだと決まった訳では無いけどな」
最後に予想が外れても大丈夫なように保険だけかけといて口を止めると、
「お主は見ておったのか? それともそう文献に残っておるのか?」
とセレナが不思議そうに顔をのぞき込んできて。
「何のことだ?」
意味が分からずそう返せば、返って来たのは驚きの答え。
「お主の言ったとおりの事が、過去に起こっておるのじゃ」