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報酬の話ですとさ

 小鳥の(さえず)りが、耳に心地よく届く。

 ……もう、朝か。

 昨夜はみんなでバカ騒ぎで飲みまくったからな……、もう少し寝てたい。

 目を開けずに寝返りを打とうとして――


「流石に起きぬか貴様よ」


 枕元から明らかに不機嫌なやや低い声が聞こえて来た。

 薄く目を開けて確認すると、そこには退屈を爆発させたような顔のセレナが立っていて。


「さっきからずっと声を掛けておるのに反応すらせず、あまつさえ再度惰眠を(むさぼ)ろうとするなど、少し怠惰(たいだ)が過ぎぬか?」


 怒りでは無く呆れの顔で、そう俺に投げてくる。


「朝ってのは眠い。だから、寝る。何かおかしいか?」

「早朝ってんならまだ分かりますが、旦那? もう日は高い所まで昇ってますぜ?」


 これ以上ない簡潔な俺の意見は、トゥオンによって粉砕された。

 おっさんな、昨日呑み過ぎて二日酔いなの。

 年のせいか最近朝に弱いの。

 だからよ、もうひと眠りさせて?


「却下ですよ。大体、過去に同じ事言って、夕方まで寝ててパーティメンバーに呆れられていたのはどこの誰ですかい?」

「? トゥオンよ、こいつは何と申したのじゃ?」


 即座に否定された俺の脳内のお願いは、わざわざ声に出さなかったにもかかわらず、トゥオンによって装備全員とセレナに晒されて。


「こやつ、いい加減にせぬか!」


 結果怒ったセレナに布団を剥がれる事態に陥り、それを防ごうと全力で布団の奪い合いに発展。

 魔の悪い事に、起きてくるのが遅い事を心配し、俺の様子を見に来た宿屋のおばちゃんに目撃され、物凄く気まずい雰囲気が俺の部屋を支配する事となった。


*


「お、英雄のお出ましだぜ?」


 階段を降り、酒場へと向かえば、そんな事を言って俺を囃し立てる冒険者達。


「思ってもねぇ事ありがとよ、んでもって、一つ聞かせろや」


 軽くあしらい、こちらも盛大に煽らせてもらうとしよう。


「パーティ組んで無いおっさんと幼女に解決できた依頼を達成できなかった奴らはどんな気持ち? なぁ、今どんな気持ち?」

「よっしゃ! 表出ろやクソが!」


 全員揃って荒々しく席を立つって、お前ら絶対に示し合わせてるだろ。

 座れ座れ、とジェスチャーをして適当なテーブルに着き、いつも通りパンとスープを注文。


「もう薬草湯はいいのかい?」

「おかげさまで。見ての通り治ったからな」


 おばちゃんには色々迷惑かけたし、ここの宿代は少し色を付ける事としよう。

 セレナに注文を聞いても反応無かったし、とりあえず俺と同じものを注文し、いつも通りにパンをスープで流し込み完食する。


「そういや、さっきギルドの子があんたを探してたよ? 後で行ってあげな」


 情報板に目を通している時に、おばちゃんにそう声を掛けられて。

 そういえばまだ報酬を貰っていない事を思い出し、おばちゃんに一声かけてからギルドへと向かう。

 料金は帰って来てから払う、と。


*


「うっす、嬢ちゃん。……居るかい?」

「あ、ケイスさん。お待ちしてました」


 騒動以前、とは行かないまでもチラホラと人が増えて来たギルドは、活気を取り戻してきた、と言っていいものか。

 そんなギルドの中で、いつも通りに受付で仕事をこなしていた受付嬢は、俺の姿を見るなり手を伸ばして振ってきて、アピールしてきた。


「報酬のお話と、それとは別に一つお話をしなければならないので、奥の部屋へ来ていただいてもよろしいですか?」


 近寄るなりされた話がそれで、俺は心底驚いた。

 ギルドの奥の部屋、それは簡単に言ってしまえばVIPルームであり、普通、入る事無く生涯を終える冒険者ばかりである。

 奥の部屋に入れる冒険者ともなれば、どこかの国の王直属の兵士となれるようなヤベーやつらばかりという噂だ。

 そんな所に招かれて、一体どんな話があるというのか、考えただけで嫌な予感しかしない。

 が、俺には従うしか無い訳で。

 受付嬢の後ろを付いて歩く事ほんの僅か。

 厳重に施錠(せじょう)された部屋へと通された俺は、思わずその部屋の内装に息を飲んだ。


「なんだこりゃ。……こんな風になってたのか……」


 別に黄金で作られているという訳でも無ければ、格別に広いという訳でも無い。

 見た感じはごく普通の一室なのだが、俺が息を飲んだのはその部屋にある家具というか、テーブルとソファであり。

 大理石を削って作られたテーブルは当然高いのは当たり前だし、ソファの表面の皮は紅蓮狐の皮を使用していた。

 紅蓮狐、名前の通り炎属性の狐だが、魔力量と素早さ、さらに賢さが他の魔物よりも抜きんでている厄介極まりないモンスターであり、その毛皮ともなれば最高レベルの防炎効果が期待できる代物で。

 ソファに使うなど、贅沢以外の何物でもない。

 そんなソファに腰を掛けていいものか、と躊躇っていると、セレナが躊躇い無く、というよりはもう勢いよくソファへと飛び込んで、その毛皮の手触りや感触を楽しみ始めた。


「おまっ! そんな乱暴に……」

「作られておる時点で使わねば損であろ? 何を言っておる」


 言われてみれば確かにそうだが、流石に勢いよく座る勇気は俺には無く、結果、非常にゆっくり、いつもの倍くらいの遅さで腰を下ろす事にした。


「お待ちしておりました」


 俺らが座った頃を見計らって部屋に入って来た男は、笑顔というよりは嘘くさい笑みに見える表情でそう俺らに声を掛ける。


「早速ですが……、まずは今回の報酬の件でお話をさせていただきますね」


 いくつかの持参した資料をテーブルに起き、腕を組んで話し始めた男の言葉に、俺は僅かに身構えた。

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