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話がデカいですとさ

「じゃあ、ロキ」

「何でしょう?」

「聞かせろよ。……四大や二天、唯一神の代行なんて立てて――何考えてやがる?」


 それは、抱かずにはいられない大きな疑問。

 なぜわざわざ、それまで務めてきた役職を、全員が一斉に放棄しなければならないのか。

 それを、どうしても知りたかった。


「……端的に言いますね? 復讐――とは違いますか。そうですね……リベンジとでも言いましょうか」

「リベンジ?」

「はい。リベンジです」


 顎に手を当て言葉を探し。

 出てきた答えはリベンジだとさ。

 ――何に? いや……()()


「それは――」

「あ、言いたい事は分かるので言わなくて結構ですよ。それに対する返答はありませんけど」

「答えたくないってか?」

「いえ、言ったところでピンとこないでしょう? なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()から」


 苦笑しながら答えるロキは、そんなのを知って何になる、と。

 どうせ俺には理解できない、と暗に笑う。


「一つの世界しか知らぬあなた方には到底及ばぬ領域ですよ。……まぁ、簡単に説明しますと私みたいなのが――いえ、私より面倒なのがあと二体ほど存在します」

「それは能力的な意味でか? それとも性格的な意味でか?」

「両方です」


 それでも説明をし始めてくれたロキへ、皮肉を込めて尋ねてみれば、その皮肉は軽く受け流されて。


「私とは違い、全てを物理的に片付ける力を持つ【トール】。そして、私にも理解できない魔法を操る【オーディン】。私はこれらと、()()をしたんですよ」


 想像すら出来ないような。俺には考えが及ばないような説明をくれる。


「こちらの軍勢を上手く使い、相手の陣営を(たぶら)かし、裏切らせ、相打ちさせ、引き入れて。……それでも、私はその戦争に負けたんですよ」


 俺に説明しながらも、自分にも言い聞かせるように。

 まるで今でも、その結果には納得していないかのように。


「だから、再起の時を待った。あの時の陣営に匹敵する戦力を用意しようと、流れ着いたこの場所で一から作り始めたんです」


 俺の横からヘイムダル、ゾロアストの隣へと移動して、二人の顎に手を這わせ、輪郭をなぞるロキ。


「そうして出来たのが、二天と四大。あとは、育てるだけ……だと思ったんですけどね」


 やれやれと両手を広げて首を振り、それだけではなかったとアピールをしてきて。


「本来はもっと早く、それこそ二千年程度早くにリベンジする予定だったんです。……ただ、私も二天も四大さえも、この世界から離れるにはあまりにも大きな存在になり過ぎた。私はそこまで影響は無いんですけど、元々この世界から発生した二天や四大はこの世界が崩壊すると、それに引っ張られるように崩壊してしまうんです」


 想定外でしたね、と笑うロキはしかし。その内心が笑っていないことを語気に含ませる。


「もちろん、そんなことになれば他の二体にリベンジするなんて到底叶いません。……だから、作ることにしたんですよ。二天や四大を引き抜いても世界が崩壊しない代行という存在を」

「その結果が、俺って事か」

「その通りです。……受けてくださいますね?」


 ようやく辿り着いた俺の疑問への解答と。

 もはや拒否権は存在しない俺への要望。

 ここで断る事は俺がいる世界の全ての崩壊を意味し。

 俺に関わった……どころではない文字通り全てがゼロになってしまう。

 俺だって人間だ。無くしたい過去も、思い出したくもない後悔もあるが、それ以上に楽しかった記憶や人との大切なつながり、過去ってもんがある。

 俺一人でだってそうなんだ。あの世界にいる何百万何千万っていう人間全てにそれがあるんだ。

 俺一人の意思でそれらをまっさらになんて……したくない。


「あなたは本当にお優しい。あなたが候補に残ってくださって、本当に幸運ですよ」


 まるで俺の意思など、葛藤などお見通しとでも言いたげなロキは、上機嫌に微笑んでくる。

 その微笑みに、先ほどまでの語気はない。


「何をすればいい?」

「……と言いますと?」

「お前から唯一神を引き継いで、ついでに火の四大の代わりをするってなった時の仕事の内容はなんだ?」

「特には。四大以上の存在理由は、そもそも存在していることが挙げられます。世界を維持する上で、世界が四大以上に依存しているんですよ」

「話がデカすぎて意味が分からん……」

「四大や二天という存在が、世界という大きな布を持っていると想像してください。誰かが欠ければ綻びが生じ、それを防ごうとすれば、誰かが負担が増える、と」

「何となく……分かるような?」


 結構ピンと来てねぇぞ? 話のスケールがデカすぎて。


「まぁ、その負担は正直あまり関係ありませんがね。……あ、そうそう。仕事は特にないとは言いましたが、一つだけ絶対に行ってもらいたいものがありました」

「何だよ」

「記憶にあると思いますが、人間が過ぎた力を手に入れようとしたときはそれを防いでください」


 仕事は無いと言われたのに、これだけはしろと後付けされた仕事の内容は、確かに記憶にあるもので。

 ドリアードの核騒動の時のユグドラシルみたいな感じ……でいいのか?


「人間が今以上に強大な力……もっと細かく言うならば、精霊の領域に足を踏み込もうとするのだけは阻止してください。……最も、それはそう頻繁に起こるものではありませんがね」


 例外のあなたを除いて。そう続けたロキは、


「ではケイスさん。改めてお聞きいたします。唯一神、並びに四大の火の代行。……受けてくださいますね?」


 ゆっくりと握手を求めながら、俺に尋ねた。

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