繋がっていましたとさ
「は!?」
「つーわけでこの場に全員揃ってるぜ」
よく分からないうちに後継者に指名され、それについて特に応答をしてもいないのに進められそうになり。
「待て待て待て! 何の話だ!?」
抗議の声をあげれば、
「イフちゃんそうだよー。ケイスはそもそも唯一神が指名してるしあなたが選べる場所に居ないんだよねー?」
もっと訳が分からん事を口走るヘイムダル。
今、なんて?
「そっちも何の話だ!?」
「でも兼任出来ないなんて話は無かっただろ? だったら、代行を兼任しても問題ないんじゃねぇのか?」
「無視すんな!」
俺には反応すらせず、勝手に話が進んでいきそうで。
けれども、そもそも人間なんてちっぽけな存在を意に介していない精霊たちは、やっぱりそのままスルーを続けようとして。
「あ――」
「うん?」
突如として、精霊たちはさっきまで動かしていた口が止まり、表情は険しくなり……。
そして、ゆっくりと傅いた。
「何が――」
「ケイスさん、ごきげんよう」
そして、そんな精霊たちの前へと現れたのは――。
「……キックスター」
……何でここに、なんて、聞かねぇぞ。
今俺らが居るのは精神世界で、本来は人間が足を踏み入れられない領域。
四大クラスから無理矢理引っ張られるか、俺みたいに『降魔』を行う事でしか入り込めない禁聖地。
そんな場所に当たり前に出現し、こうして四大どころか二天すらも頭を垂れているならば、それはもう答えみたいなもんだ。
「お前が……唯一神」
「はい。僕が唯一神ですよ」
感情の起伏は無く。いつも通りに柔らかい笑みを浮かべる目の前の存在は、足を動かすこともなく俺の目の前へと滑って来る。
「もう少し驚かれると思ってたんですけどね。もしかして、僕が唯一神だって気付いてました?」
「いや。全く。ただ、誰が来ようと驚かないって決めてただけだ」
少しだけ不満げに。俺へと尋ねたキックスターは、俺の答えを聞いて口元を歪める。
「ええ。最高です。素晴らしいです。十分ですねぇ」
キックスター本人にだけしか理解できないであろう納得の言葉を吐いたキックスターは、俺の傍を離れてイフリートの傍へ。
「あなたもケイスを後継者に指名した、と?」
「ああ。兼任についての取り決めはない。それに、見込みのあるやつはあいつしかいない」
「なるほど。……ケイスさん」
「何だ?」
「唯一神代行に加えて、四大の火も兼任いただけますか?」
何を聞いてくるかと思えば、しっかりと代行を任せると告げられて。
しかも、唯一神の代行と来たもんだ。
「え、いや、無理だけど?」
「だそうです。……では、世界を作り直しましょう」
俺の答えを聞いたキックスターは、知ってたと言わんばかりにあっさり頷いて。
パンパンと二回手を叩くと……精神世界から見える外の景色が――崩壊し始めた。
「なっ!?」
「とある事情があって代行者を立てなければならないんですが、拒否されたならば仕方ありません。また一から作り直しましょう」
「ま、待て!」
残念がるキックスターに、それが俺のそういった反応を引き出すためと分かっていたとしても。
俺は、キックスターのやろうとしていることを止めるように言うしかなく。
「? どうされました?」
俺が代行の話を引き受けなければ比喩でも何でもなく、世界をまた作り出すであろうキックスターは、どうやらその言葉を俺自身に言わせたいようで。
「なんで……俺なんだ?」
それを言いたくない俺は、至極当然の疑問をキックスターへとぶつける。
それが、何の抵抗にもならないと知って、なお。
「なんで……? はて? 仰っている意味が分かりません」
「だから、なんで俺に代行を任せるんだ?」
嘘偽りなく、俺の言っている言葉が理解できないと首を振るキックスター。
何か俺が間違えているのかと、今さっきまでの話を確認の為に口にすれば――。
「あなたを代行にするために、わざわざお膳立てをしてきたのに? なぜ代行に? と?」
そもそもの根本から、俺が間違えていると理解した。
今までの過程があって、俺を代行に指名したわけでは無く。
そもそも代行にするために、今までの過程を巡らせたのだ。
……恐らく、唯一神の権限を使って。
「その表情だと理解出来たみたいですね」
「……最初からか?」
「はい。産まれた時から。あ、でも勘違いなさらないでください。候補は億ほどいました。それらから、判断や能力などで篩にかけ、残ったのがあなたであるだけに過ぎません」
どこか上機嫌に俺へと話すキックスターは、さらに。
「産まれてから様々なイベントをこなさせ、成長と挫折を繰り返させ、精神的にも、肉体的にも丈夫な素材を作る。時間はかかりましたが楽しかったですよ?」
だとさ。
「力に溺れないか四大や二天の力を内包した装備を与えてみたり、権力に溺れないか立場を優遇してみたり」
呪いの装備の事や、恐らく特別な冒険者証の事を口にして。
「私怨に走らないかパーティから追放して泳がせたり、自分よりも強い存在に出会わせて怠けないかを確認したり」
「待て。てことは俺がパーティ追放されたのって――」
「私のせいですよ? 大体、それまで世話になってきた人を素性も知らない占い師から言われた程度で追放なんてしないでしょう?」
……アイナ達ならやりかねないと僅かだけど思ってしまった。
――とはいえ良かった。あの追放はあいつらの本心じゃないのな。
「本当にあなたはようやく出てきた代行候補なんです。なので、どうか私にもう一度代行選定をさせないでください」
代行選定……なんて言ってるが、それは結局さっきみたいに世界を崩壊させて作り直すって事だろ?
……させないさ。
「キックスター……」
「あ、そう言えばですけど、その名前適当に考えた偽名なので、本名をお教えしますね?」
俺が名前を呼んだ事に反応したキックスター――唯一神は。
「私、【ロキ】と言います」
初めて俺に本名で自己紹介をした。




