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現れちゃいましたとさ

 ゾクリ。

 背筋を凍らすほどの膨大な存在を認知して。

 セレナとハウラは顔を見合わせる。

 それと同時に、同じくその二人の方へと目を見開いた表情を向ける藤紅の姿。

 周囲でケイスを捜索するアイナ達を尻目に、元も含めた二天の眷属たちは、その存在が気を悪くしないことを、心の底から祈るしかなかった。



 突然の事態。しかし、俺はこの目の前を覆う闇を目の当たりにするのは初めてではない。……気がする。

 降魔重ねて藤紅とイフリートを相手にした時、吹き飛ばされて降魔が解除される瞬間に見た気がするんだよな……。


(あー……思ったより早かったっすねぇ)

(? 何か知ってんのか?)


 思いっきり冷や汗をかきながら独り言を言うトゥオンへと問いかけるが、その答えは闇の中から聞こえてきた。


「平伏せ。我、二天の闇也」


 まるで耳に溶け込むような……いや、無理矢理に浸透させられるような。

 不気味なほどに心地がいい声が響いたかと思えば、闇の中から一人の少女が姿を現す。

 およそ健康とは思えない、薄すぎて白とすら見間違う青紫色の肌。

 そして、肌とは違い正真正銘純白の髪と瞳。

 髪は足元まで伸びていて、その先端にはなんと蛇の頭が鎌首もたげて舌がチロチロと見え隠れ。

 ……今二天って言ったか?


「ゾロアスト様……」


 俺の疑問を確証に至らせたのは、信じられないという表情で現れた少女を見つめるヴァーユの姿。

 俺と戦っていた時の熱はどこへやら、その瞳にははっきりと恐怖の感情が見て取れる。


「大義。下がって良し」


 しかし、そんなヴァーユに視線すら移さず、じっと俺を見つめ続けるゾロアストは一言、下がれ、と。


(あ、旦那、こっから不要な発言は存在消滅に直結するんで普段と違って考えて発言してもらえますかい?)

(まるで普段は考えてないとでも言いたげだな)

(考え、てるの?)

(うっそだろ相棒、考えてたら精霊や眷属相手へのタメ口は辞めるぜ? HAHAHA)

(ええと、本当に認知出来ずに消し飛ばされる可能性がありますので、ご主人様……くれぐれも――)


 なんて、装備全員に諭されていた時である。


「人よ、答えよ」

「何だ?」

「今至りて何を望む」


 わぁ、何を聞かれてるのかちっとも分かんねぇ。

 メルヴィ、解説。……ってか通訳。


(……多分、私達、装備全員の力……を、何のために、使うか、聞いてる。……多分)


 聞いては見たけどメルヴィも確証ない感じか。

 多分って二回言ってるし。


「確認、いいか?」

「?」

「俺がこいつらと一緒に何をしたいか聞いてるって認識でいいの?」

「是」


 よく分からんけど多分、正しいんだよな?


「じゃあ、特に何も。今まで通り暮らせればいいし、死なない程度に生活出来ればいい」

「それは無くても可能。あって何が行うかを問う」

「だから、特にない。こいつらが居ても居なくても、多分やることは変わんねぇよ」

「そうか。……そうか」


 俺の答えを聞いて満足したか、それとも、不満を持ったか。

 表情からは探れず、むしろその前に闇へと姿を変えて俺の周囲を漂い始める。

 ――すると。

 カチャン……。と。

 音を立てて、鎧の留め具が外れ、俺の体から落ちた。


「は?」

「呪解した。なおも同解答を吐くか?」


 つまり、ゾロアストは俺をどうしたい?

 装備があっても変わらないなら、装備がなくても変わらないなら。

 このままでヴァーユと戦えと? それとも、帰れ、と?


「? 答えよ」


 いや、さっきと同じことを言えるかどうか試してる……のか?

 装備の力で思い上がらず、自分の実力だけでも同じことを言えるか考えろって事か?


「……変わらないさ。出来る範囲が狭まるだけで、俺は俺に出来る事しか出来ない。……当然だよな」

「そうか。……トゥオン」

「は、はい!」

「問う。この者を喰らえるか」

「えーっと……命令ならやりまさぁ。けど、拒否していいってんなら拒否しますね」

「魅せられたか?」

「はい。一緒にいると、楽しいんで」

「そうか」


 俺の目の前で再び少女の姿を象ったゾロアストは、顎に手を当ててそうか、そうか、と繰り返しながら頷き続ける。

 ……すると、不意に。


 ――チュ。


 唇に何かを押し付けられて。

 予想外、想定外。なんのリアクションも出来ぬまま、押し付けられたそれは離れ、ゾロアストはニコリとほほ笑む。


「刻んだぞ。励め」


 よく分からない言葉をかけられ、満足そうな表情を浮かべたゾロアストへ口を開きかけると……。


「あーっもうゾロっち勝手に抜け駆けしてズルイズルイズルイあれだけ一緒に出ようって約束したのに勝手に行っちゃうんだもん今のはフェアじゃないです不公平ですやり直しを要求しま~す」


 俺の言葉を遮り、超早口でどこからともなく捲し立てるその声は。

 外から染み入るゾロアストの声とは対照的に、俺の内側から響くような不思議な声で。


「先の先」

「ズルはよくないんだよ!!」


 ゾロアストの背後から、一体いつからそこにいたのか一人の存在を認知する。

 少女のようなゾロアストの後ろから出てきたはずなのに、ゾロアストよりも高い背丈は少女よりもお姉さん。

 白ばっかのゾロアストとこれまた対照的に、褐色の肌に黒髪で。

 果てには何故だかパラソルまで持って登場したそのお姉さんは多分……。


(ヘイムダル様……だと思います)

(ゾロアスト様にああまで絡めるのはヘイムダル様くらいでしょうねぇ)


 だよなぁ。

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