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10話 名前はまだない

「憤怒の大迷宮。それが見つけた大迷宮なんだけど……」


 何時か、一度でも行ってみたいとさえ思っていたその大迷宮の誘いは俺の中の何かを燃えたぎらせた。


「行こう。誘いに来たということはそういう事だろう?」


「何も絶対って訳じゃ……それにただこの事を黙ったままでいたら気が狂う程怒るでしょ?」


 確かに怒りかねない。ただ、レイミアは古くからの知人なだけあってそういったところはしっかりとしてくれる。


「流石専属情報屋なだけはある。で、何処に入口があるんだ?」


「大迷宮の入口は見つけたんだけどそれには……ちょっと鍵が足らなくてね」


「鍵か?」


 大迷宮の入口は見つけられてもその入口の前には大抵複数の鍵がされており、開かない。鍵を見つければ別の話だがその鍵もまたかなり多くある為、一つの大迷宮をアンロックするだけでも凄い手間がかかる。


「それなら私の触手を鍵穴に入れて……そこで硬質化すればいい話じゃない?」


「その手があったか」


 なんか反則のようが、特にそんな事考えなければいい案だ。


「私もその話には興味があるから。自分のことを知る為にも手当り次第調べたいし」


「わかった。それよりもそのフェンリルちゃんには名前は無いの?」


「フェンリルとしか呼んでいないが」


 俺にはネーミングセンスの欠片も無いからな。こういうのは弱い。


「ご主人様!! 名前付けてください!!」


 足に擦り寄ってくる。可愛い。毛を掻き乱してやりたい。


 それはそうと何にも良い案が出てこない。


「いい毛並みだよねぇ……ちょっと触っても」


 俺の背後へ隠れる。相当警戒しているようだ。


「酷いなぁ……」


「嫌われてるな?」


「うぅ……」


 俺は背後にいるそのフェンリルを抱える。


「ご主人様……?」


 そのモフモフの毛並みを全身で、それもレイミラの前で堪能する。


「私にも触らせろぉぉ!! 良いだろう!? 減るもんじゃないし!!」


 正確には信頼というものが減っている。


「ご主人様、少しあの人に近付いてもらってもいいですか?」


「構わないが」


 二歩ぐらい進み、悔しそうにしているのレイミアの前に立つ。


 するとフェンリルのその小さな手がレイミアの肩に置かれ、次第にレイミアの目に涙が浮かぶ。


「可愛いなぁ!! もふもふさせろぉ!!」


 置かれた手を裏返し、肉球を触り始める。


「はふぅ!?」


「可愛い声出しちゃって!! この!! この!!」


 ただ肉球を触っているだけなのにフェンリルは俺の腕の中でうねうねと動いている。


 そしてしばらくして……。


「参ったか!!」


「はうぅ……屈辱的です……」


 床に対して仰向けになり、荒い呼吸を繰り返している。


「じゃあ私はその君が攻略したダンジョンの様子を見てくるから。大迷宮の件はまた後でね!! じゃあね、可愛いフェンリルちゃん!! スライムガールちゃん!! ふんっふふんっふふーん」


 鼻歌を歌いながら軽快に出て行った。


「ま、悪いやつじゃ無いんだ」


 悪いやつじゃない……筈だ。

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