《第五話》 簡単に言うと、OSの存在しないパソコン
「うぅ、寒い!」
僕は全裸でいったい何をやってるんだ。
遠い目をして、少年漫画みたいなセリフを心の中で言っていたが、自分が全裸な事に変わりはなく。
ただ、空を見上げて思い悩む全裸の男という......傍から見ればただの変態じゃないか!
僕は急いで、箱周辺に散乱した装備の中で衣服類を探した。
すると、ケースの横にパンツと黒い長袖のインナー、カーゴパンツとベルト、黒地に赤いラインが入ったパーカーとファーの付いた白いロングコートがあった。
多分、パーカーが普段着るもので、コートが寒い地域で着れるようになっているのだろう。
でも、異世界でまさかパーカーに出会うとは思ってなかった。
その横には安全靴? だろうか、爪先に金属部で出来たブーツがあった。
最後に、何故か他の散乱物とは違い、少し離れた位置に指ぬきグローブが落ちていた。
僕は、風で飛ばされたのだろうと指して気にする事も無く拾うとケースの上に置いて、いそいそと着替え始めた。
「う、う~ん・・・パンツは調整できるように紐が付いていて良かったんだけど。」
着替えたは良いが、ベルトが長すぎて調整しないと一番短い物でもウェストに空きができてしまい。
パーカーに至っては、大きすぎて埋もれてしまう。
それに文句を言っても......これは予備装備、全体的なサイズが成人男性基準で用意されているのは当たり前。
逆に、人それぞれにあったサイズを用意している方がおかしいだろう。
...17歳にもなって、身長が150cmも無い、自分の身長が恨めしい。
「ヒナギクさん、この剣みたいな物って?」
『マスター、呼び捨てで構いません。
それは、チェーンブレードと呼ばれる機体内から装甲を破壊して脱出する為に使われるツールです。
ベルトを切る為ならば、その状態で鋸の様に使用することを進めます。」
「へぇ~、これってもしかして回ったりするの?」
『肯定、魔素を流せば刃の部分が高速で回転します。
使い慣れない人物が使用すると、指を切断する恐れがあります。』
「......やっぱり、どこの世界でも工具を使う時は気をつけるよ」
僕は手に持った、チェーンソウとナイフを組み合わせた様な工具を慎重に使ってギーコギーコしていた。
魔素とか良くわからないけど、多分、チェーンソードの近くに置いてあった、銃の様な物も魔力で動くんだろう。
銃器モドキとは言え、早く撃ってみたいな。
「よし、準備完了!」
『そちらの、グローブは装備しないのですか?』
「ああ、忘れてた」
ベルトやブーツの調整に地味に時間が経ってて、グローブの存在を忘れてしまっていた。
僕は片方しか無い、変なグローブを着けると、少しチクッとした痛みを感じた。
それと同時に僕の頭の中に声が響く。
《神器との連結を確認しました。》
《これより、融合を開始します......対象の魔力適合率80%、侵食を開始します。》
その声には聞き覚えがあり、その声は僕をこの世界に呼んだあの声だった。
それと同時に、グローブから光の管が伸び、右腕の肘辺りまでを包み込んだ。
「う、うわ! なにこれ! どうなってるの?」
『魔力を探知しました、魔力識別不能、データバンクには存在しない対象です。
攻撃的な術式は確認されません。』
いや、冷静な解説してる場合じゃなくて、助けてヒナギクさん!
今、目の前で仮とは言えマスターが、変な光に侵食されてるんだよ!!
《侵食を完了しました、新デバイス、新OSのインストールを完了しました。そう、i○honeならね》
光は腕を包むと、グニャグニャ形と不定形の様に形を変えていく。
光は蠢き続けると、徐々に収まっていった。
そして光が消えた後には、先ほどと形を変えたグローブだけが残っていた。
どこが、変わったのかと言えば、手首までの長さだったグローブが、一つ目は右腕の肘前まで伸びた事。
二つ目は何かの差し込み口が付いた事、三つ目は空中にスマホの液晶代のディスプレイが表示されている事だ。
......最後の声でもしやとは思うが。
これは、僕が寝る時に握り締めていたスマホの慣れの果では無いかと。
あの声の人...何勝手に人のスマホ魔改造してくれてんの!?
別にメールも来ないし、連絡帳は家族と学校しか登録されてなかったけども。
やめよう、また悲しくなる。
「え~と・・・ヒナギクさん、どうしようこれ。」
『マスター、呼び捨てで構いません。』
「・・・ヒナギクさん?』
『マスター、呼び捨てで構いません。』
「・・・ヒナギク、これどうしたらいいと思う?」
『グローブのついている差し込み口には、メンテナンス用ケーブルとの互換性を確認できます。』
つまり、この僕のスマホはこっちの世界用に魔改造されたって事かな?
とりあえず、つなげるなら繋いでみよう。
あまり深く、考えると事態が進まなくなる。
「繋ぐ場所は?」
『コックピット無いの外部端末から行えます。』
あの座席の前にあった、コンピューターか。
僕は、非常食等を踏まないように、コックピットにもう一度入った。
「これかな? 横に止められてるケーブルでいいの?」
『そのケーブで問題ありません』
「わかった。」
僕は、外部端末の横に纏められたケーブルを外すと、グローブのアダプターに差し込んだ。
『端末へのアクセスが可能になりました。
これより、端末の確認を行います、マスター認証許可してください。』
「え~と・・・認証を許可します?」
『認証許可受諾、アクセスを行います。』
すると、映し出されていた、液晶に光が灯り。
その中には、デフォルメされたアブロガーレが走っている。
なにこの、無駄なオプション!?
まぁ、可愛いからいいけども。
しばらく、アブロガーレが走っているのを見つめていると、正面ディスプレイにヒナギクが映し出された。
『端末内部の確認が完了しました。
端末には、機能やデータは存在しませんでしたが、魔導術式に強い互換性があるものと考えられます。
それと同時に、この端末を通じて、マスターとの互換共有や知識共有が可能です。』
「・・・・・・ごめんなさい、もう少し分かりやすくお願いします」
『・・・この端末はこちらからで、新しい機能を追加することが可能であり。
同時に、この端末はマスターと同期しています。
マスターの嗅覚や味覚、知識までも、この端末を使えば共有が可能だということです。』
「え!? それって、この端末と僕が融合してるって事?」
『肯定です、マスターは肉体の大半は破損しました。
そして、それを修復する為に魔素を使い、肉体を培養して修復しました。
ここまではマスターでも理解できますか?』
「何となくでは、あるけど理解したよ」
『では、続けます。
その為、マスターの肉体は魔素との適合率が通常の人間より高くなったのだと予測されます。
この端末は、マスターの魔力を自動的に引き出す事で機能しているのですが。
マスターから魔力を引き出す為の回路を繋ぐ際に、適合率の高い肉体と魔術的繋がりによって繋がったものと考えられます。』
つまり僕の体を治療する時に、魔素を使って肉体をIPS細胞みたいに培養した。
元が魔素だから、魔力を使って動くこのグローブが僕の体と動力を繋ぐ際に、一緒に僕の感覚を取り込んでしまったって事かな?
『肯定です』
「うわ! え、また念話繋がってた?」
『否定です、先程も言った通り、この端末には知識の互換性もあります。
マスターが考えたことが、マスターの記憶に残れば、こちらが読み取ることも可能です。』
「なるほど、大体分かってきた。」
このグローブがあれば、ヒナギクのサポートがより受けやすくなるという事か。
『肯定です、マスターの知識を読み取ることで、操縦に関するサポートやこの世界に関するサポートの効率も上がるでしょう』
「本当に、助けて貰ってばっかりで申し訳ないです。」
『私の支援型AIです。
マスターのサポートをする事が存在理由になります。』
「それでも・・・ありがとうございます」
本当に、この世界でヒナギクに出会えて良かったと、僕は改めて思う。
きっと、この世界で一人で放り出されたら、きっと何もできなかっただろうから。
......て、これも記憶に残るんだよね! うわぁ~恥ずかしい。
『マスターの準備をするついでに、機体のバックバックの側面のハッチの固定部分をチェーンソードで切断をしておいてもらえないでしょうか?』
「固定部分だけ?」
『ロックに異常が見られ、正常に作動しないようです。」
「わかったよ、後でチェーンソードに魔力を流す方法を教えてね」
『よろしくお願いします、それと端末を暫くお貸しください。
準備している間に、マニュアルや必要な記録をコピーしておきます。』
「うん、了解」
僕は、ケーブルを繋いだまま、グローブを座席に置いて外へ出ると、一度全部出してしまった予備装備の整理を開始した。
ここで、作者からの蛇足。
アブロガーレのイメージは、パトレーバーのグリフォン+ブレイクブレイドのデルフィングを2で割って、尻尾を足してスリムかつ獣よりにした感じ。
魔改造グローブ、OSの入っていないスマホをイメージ。
作中で言っていた《新デバイス、新OSインストール》というのは、デバイス=魔改造グローブ、OS=魔力対応、という意味です。




