第八話(Oxygen):ジパング
柚紀はスカーレットと共にヒューストンの工房で、電池の改良を進めていた。工房の片隅では、ヒューストンとレイリーがペニシリンの生成に励んでいた。柚紀は、二酸化マンガンを含む鉱物や、塩化アンモン鉱(塩化アンモニウムを含む)をスカーレットにエルムヴィレッジの商会に入手させ、一般的な乾電池の製作を試みていた。
「……二酸化マンガンは、電池の正極活物質として使える。木炭の粉末と混ぜて、電解液には塩化アンモニウムを使う。これで、より安定した電池が作れるはずだ。」
(マンガン電池は、二酸化マンガンや亜鉛、炭素棒(今回は木炭)を用いた電池で、現代でも広く利用される乾電池であるが、二次電池の普及により衰退しつつある。)
柚紀は、試行錯誤を繰り返し、ついに乾電池を完成させた。完成した電池を電球に接続し、点灯テストを行った。
「……よし、成功だ!この電池なら、長時間の使用にも耐えられる。」
柚紀は、完成した乾電池を持って、エルムヴィレッジの商会へと向かった。商会の主人は、柚紀の新たな発明に目を輝かせた。
「……これは、また素晴らしい!この電池があれば、電球の利用範囲がさらに広がる。ぜひ、この新しい電池もライセンス販売させてほしい。」
商会の主人は、柚紀の乾電池を高く評価し、売上の20%を柚紀が受け取る契約を結んだのち、柚紀に、この世界の地図を手渡した。
「……これは、この世界の詳細な地図だ。柚紀様の研究に役立ててほしい。」
夕暮れ時、柚紀はヒューストンの工房で、電球を灯し、地図を広げた。地図をじっくりと見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「……これは……地球とは全く違う……!」
柚紀は、地図に描かれた大陸や島々の形状に目を奪われた。彼らがいるエルムヴィレッジは、ギリシャのような複雑な島や海岸の入り組む地方に位置し、北半球の中緯度にあることがわかった。そして真下にはオーストラリアのような大陸が存在していた。
エルムヴィレッジのある国、「アルカディア」は、この地方と巨大な大陸、そして各地の島々を支配する大国であり、スペインやイギリスのような覇権国家の様相を呈していた。
さらに驚いたことに、エルムヴィレッジから少し東に行った場所に、「ジパング」という島国が存在した。ジパングは、まさに過去の日本のような国であり、独自の文化や技術を持っていた。
「……ジパング……!まさか、この異世界にも日本のような国があるなんて……!」
柚紀は、地図に描かれたジパングに強い興味を抱いた。彼は、この異世界にも航空機を復活させ、空からこの星を眺めることを夢見た。
「……いつか、この異世界を空から見てみたい。そのためには、航空機の開発が必要だ。まずは、この世界の技術水準を詳しく調査しなければ……」
柚紀は、地図をじっくりと見ながら、今後の研究計画を練り始めた。