第93話 学園との別れ
俺とのバトルが終わった後も、ゴキョージュ先生にはクロマ、シラスとのバトルが残っていた。短い休憩を挟んだ後、予めじゃんけんで決めた順番通りに二戦目、三戦目のバトルを実施。一戦目から俺が勝利するという、生徒側からすればまさかの展開になった訳だが、そこはカードを学びに来ているだけあって、しっかりと気持ちを切り替えているようだった。で、そんなバトルの結果だが、クロマとシラスはゴキョージュ先生に敗北を喫してしまう。
「くぅぅぅぅ! あと少し、あと少しだったのにぃぃぃ……!」
大型の【領主】を次々に並べて殴りに殴る! そんなスタイルのクロマは善戦したが、レア度という性能差的な暴力、そして純粋な技量で負かされた。この悔しがる反応から察せると思うが、結構良いところまで行ったんだぜ? 見応え十分、観戦していた生徒達としても文句のつけようのないバトルだったと言えるだろう。
「……いえ、別に悔しくなんてないですし。技術などの関与以前に、相性とか諸々の問題があった訳ですし」
一方、シラスのバトルは惨敗も惨敗だった。まあシラスが自分で言っている通り、こればかりは相性が悪かったんだ。ガッチガチに守りを固めるゴキョージュ先生に対し、フィールドをロックし攻撃を封じる事を得意とするシラスの戦法は、全くと言っていいほどに刺さらなかったのだ。戦況が硬直する中、ゴキョージュ先生の【勝利】カウンターのみが貯まっていき――まあ、そんな感じで特殊演出を見る事ができた訳だ。いやあ、鐘がリンゴンと凄い事になっていたよ。見応え満載だった。
「おう、2人ともお疲れさん。しかし、ククッ……ゴキョージュ先生に勝てたのは俺だけだったみたいだな? これで俺らの中での格付けは、もう決まったようなものか?」
「は? 何を言っているのです? 今回のバトルで格付けを決めるなんて不公平極まりないです、ええ、不公平です。事実、私とグラサンの勝敗は五分五分じゃないですか」
「うーん、アタシはグラサンに負けっ放しだし、特に言い返せる要素がねぇかな? んな事よりも、企業七騎とあんだけ戦えた事が嬉しいっつうか、へへっ♪」
不満タラタラなシラス、結構満足そうなクロマと、バトル後の2人の様子は面白いくらいに違っていた。
「悪い悪い、ちょっとした冗談だよ。まあ確かに、今回のバトルは俺のデッキと相性が良かったからな。ゴキョージュ先生のは攻撃力0の【領主】が殆どだったからよ、反撃を気にせずガンガン攻撃を仕掛けられたし、【継承】も問題なく重ねる事ができた。これが同じレア度で構築された攻撃的なデッキだったら、結果は違っただろうな」
「そうです。むしろ攻撃的なデッキだった場合、私の勝敗の結果も違っていた筈。故に今回のバトルだけでどうこうなんて言えません……!」
「皆さん、バトル後の感想戦で白熱しているようですね」
「おう、ゴキョージュ先生」
「ぐぐっ、私の天敵……!」
天敵ってお前……まあ良いか。バトル後、ゴキョージュ先生は学園の卒業生に取り囲まれていた筈だが、どうやらそちらはひと段落したようだ。人気の教師ってのも大変である。
「今日のバトルは良い経験になったぜ。改めて礼を言うよ」
「いえいえ、礼を言わなければならないのは、むしろこちらの方ですよ。私の無茶振りで、卒業生を見送るバトルショーに参加してくださったようなものですから」
「無茶振りって認識はあったんだな……」
「ええ、慣れない事をしてしまいました。ですから昨日の卒業試験のものとは別に、報酬金も用意しています。どうかお受け取りください」
これまた予想の斜め上の展開と言うべきか、昨日ほどとは言わないまでも、結構な金額のGを頂戴してしまう。おおっ、これならまたパックの大人買いが捗りそうだ。
「何から何まで行き届いてんのな。じゃ、ありがたく頂戴しておくよ。今後の為にもな」
「よっしゃ、これでデートの資金がまた増えた! レベル5に行くのが楽しみだな、グラサン!」
「え? あ、あー……うん、そうかもな」
「へへっ、風の噂でメイリー社の化粧品もそこから販売され始めるって聞いたし、マジで楽しみだぜ!」
「レベル5、ですか。確かに食事が楽しみですね。まあ全部経費に落とせるので、使い道は別になると思いますが」
「ったく、お前らはレベル5に行っても全然変わらなそうだな」
まあ、そう言う俺も変わらないんだろうが。
「ほう、皆さんはもうレベル5に行くつもりなのですか? 流石と言いますか、レベルアップ速度もオジョーさんに匹敵していますね」
「おいおい、動向を最初から知っていた風に言うなよ、先生? 一応、俺らにもプライバシーってもんがあるんだ」
「ハハハ、これはまた申し訳ない。職業柄、どうにも知識欲が勝ってしまいまして」
爽やかに笑うゴキョージュ先生だが、実際問題その情報収集能力は怖いんだよな。レベル1全土に生徒候補を調査する為の諜報員が居るって話だが、その他のレベルにも潜ませていそうな感がある。こういうタイプはあまり敵に回したくねぇもんだ。
「ああ、そうそう。ゴキョージュ先生に1つ聞いておきたいんだが……」
「はい、何でしょうか?」
「今度やるって言う先生とオジョー、所謂企業七騎同士のバトルってよ、俺らも観戦ってできるもんなのか?」
「おっと、興味がおありで?」
「ああ、大いにな。つか、俺らはカードを生業にしてんだぞ? 興味がない訳ねぇよ」
「そうですか? 私はそこまで興味ないですけど」
「……お前は例外としておこう」
まあ、俺としても今日の手加減マシマシのデッキではなく、企業七騎が扱う本気のデッキが見たい気持ちが半分。あとはオジョーと会う機会を何とかして作りたい、って気持ちが半分なんだけどな。
「うーん、そうですねぇ……」
「その反応、無理っぽいか?」
「いえ、レベル5に行けるのであれば、観戦できる可能性はあります。何せ表の大会の殆どは、レベル5のエリアで行われていますから」
「えっ、そうなのか?」
それは初耳である。そういやレベル5の情報って、レイコーポレーションの本社があるって事しか知らなかったっけ。
「はい、企業七騎の順位戦もそこで開催されますよ。ただ最高位の試合になりますので、観戦するだけでも、いえ、入場券を入手するのも相当に競争率が激しくなるかと。その入場券自体も相応の値段がするでしょうし……」
「お、おお、思ったよりも現実的な問題だったか……ちなみによ、企業七騎の権限とかで、観戦席を融通してくれたりは……?」
「しませんね(にこっ)」
爽やかな笑顔でやんわりと、しかし即断るゴキョージュ先生。まあ、だよなとしか言えねぇわ。
「私に頼るよりも、ご自身のスポンサーに確認した方が良いと思いますよ。確か、レイコーポレーションでしたよね? あの企業であれば、何名か観戦に連れて行くくらいの事はできる筈です」
「うちの? あー、そういや今日はレイコ社長が不在だったからな。言われてみれば、確かにそうだ」
秘密にされていたオジキの件もあるし、ちょうど良い機会だから併せて聞いてみるか。
「うし、何とかなりそうだ! ゴキョージュ先生、今日は本当にありがとな! 俺はオジョーを応援する事になるが、密かにアンタの事も応援しているぜ!」
「それは有難いのですが……もう行かれるのですか? この後に卒業生を見送る食事会も予定しているのですが、よろしければ皆さんも如何でしょうか? 生徒達も喜ぶと思いますし」
「食事!? グラサン、折角招待されているのだから、ここは素直に受けておくべきです! ご厚意に甘えましょう!」
「いや、遠慮しとくわ。シラスが行ったら、絶対に食事会どころじゃなくなるからな。飯の在庫的な意味で」
「グ、グラサン!?」
「あー、言われてみれば、それもそうですね」
「私の天敵!?」
驚愕する最中のシラスを脇に抱え、このまま持ち運びできるようしっかりとホールド。折角学園との縁ができたってのに、食事が原因でぶち壊す訳にはいかねぇ。だからシラス、潔く諦めろ。
「最後にグラサン、これを」
「ん? これは……ゴキョージュ先生の連絡先か?」
「ええ、フリーバトルだったとは言え、私に勝って何もなしは少々味気ないと思いまして。何かあれば、そちらに連絡してください。人生相談くらいの事なら、いつでも乗りますよ」
「ククッ、そいつはありがてぇ話だ」




