第56話 拡散する死
「俺は『天使の屋敷』をレベルアップし、追加ドロー。白1と黒1の【税】を支払い、こいつを使う。装備対象は当然、『メイドの暗殺者』だ」
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『秘伝の古包丁』
分類:戦略 レア度:R コスト:白1無1
【メイド】の【領主】1体を対象にこのターンのみ、攻撃を全ての相手【領主】に与え、この【領主】が受ける戦闘ダメージを0にする。但し【カードマスター】には攻撃できなくなる。
【継承(メイド)】継承した【領主】を+2/+0
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グラサンが『メイドの暗殺者』に持たせたのは、1本の古い包丁であった。しかし、その包丁はこれまでグラサンが使っていた『伝統の古包丁』とは何かが違っていた。尤も、相対するクロマにとっては双方とも初見となる為、どちらにせよ今この場で能力を見極めるしかないのだが。
(また装備系の【戦略】カード? ええと、何々? このターンのみ、攻撃を全体化して戦闘ダメージを0にする? へえ、その戦闘のみダメージがなくなるって事かな? なかなか面白い能力じゃ――って、んんんんッ!?)
再びその説明文を見直すクロマ。攻撃の全体化、これは初めて見るタイプの能力だ。このターンのみという制限付きとはいえ、使い方次第では強力な攻撃になり得る。本来であれば、攻撃した手数分の手痛い反撃を食らうところだが、次の能力である戦闘ダメージの無効化が、そのデメリットを帳消しにしている。これでは慟哭の【先制】が働いたところで、先手で破壊する事はできない。なるほどなるほど、見れば見るほどに良い能力のカードだと、クロマは感心し切りだ。そして一通り感心した後、考える。
(Rカードなだけはあるよね、うんうん。……あれ? これってもしかして、もしかしなくても?)
ある嫌な予感がクロマによぎる。そう、彼女は考えてしまったのだ。『メイドの暗殺者』が持つ【暗殺】の力、それも全ての攻撃に乗るんじゃね? ……と。
「おっ、何か察したような顔になってんな。まあ、今考えている通りだと思うぜ? 『メイドの暗殺者』の【暗殺】は全体に伝播し、こっちだけ戦闘のダメージが0になる。そうなれば俺のメイドが戦闘で破壊される事はなくなるし、そっちのスパイダー軍団の効果は発揮されない」
「グ、グラサン、いくら何でもそれは無法が過ぎるんじゃ……?」
「いや、仮にそっちのスパイダー軍団の誰かが【暗殺】を持っていたら、『メイドの暗殺者』も普通に破壊されていたからな? そうなれば、逆にそっちの効果も全部働いて、俺にとって悲惨な事態になっていたんだが……まっ、全体攻撃ってのは、そういう危険性もあんだよ。ただ、今回は俺に運が向いたってだけだ。運も実力の内とは言うけどな」
グラサンは続ける。そういう訳で、と。
「――『メイドの暗殺者』、全体攻撃開始だ」
主の命令の下、自前のナイフ、そして新たに手にした包丁を構え、飛ぶ斬撃を周囲一帯に放つ『メイドの暗殺者』。蜘蛛達もこの攻撃に対し反撃を行うも、そのことごとくが迫り来る斬撃の前に打ち消され――その結果、蜘蛛達は斬撃の波に呑まれ、大小問わずその全てが破壊されてしまう。
「こ、こんな、事ッ……!」
「ククッ……! そう、こんな事、カードバトルじゃ特段珍しくも何ともねぇ。よく分かってるじゃねぇか」
恐らく、今のはグラサンの方からのすれ違い発言であった。
「それに、ここまでやっても未だ有利とは言えねぇ。だからよ、まだ俺の手番は終わらねぇぜ? 残りの白1黒1の【税】を使い、『シルバートレイの運び手』を【継承】召喚!」
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『シルバートレイの運び手』
分類:領主 レア度:C コスト:白1無1 タイプ:人間、メイド
攻撃力1⇒4/防御力1
【隠密】(new!)
デッキから【コスト3】かつ【メイド】の【領主】をランダムに1枚手札に加える。
【継承(メイド)】デッキからランダムに1枚手札に加える。
【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+0、【隠密】を付与。(new!)
【継承(メイド)】【領主】1体を対象とし、1のダメージを与える。(new!)
【継承(メイド)】継承した【領主】を+2/+0(new!)
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召喚された『シルバートレイの運び手』には数多くの【継承】が付け加えられていた。その多くが装備に由来するものだが、一度のみの【継承】召喚でここまでの数を引き継ぐのは、グラサンにとっても初の事である。
「ふう、漸く1回目の【継承】か。手間取ったぜ」
「ぐっ、やっぱ【隠密】状態で召喚されんのな……!」
「でなくちゃ防御力1の【領主】なんて、直ぐに倒されちまうからな。まあ【隠密】があろうとも、さっきみたいな全体に攻撃や効果が波及するもんが相手だと、もれなくやられちまうんだが……っと、それよりも効果を処理していくか。『シルバートレイの運び手』の召喚時効果により、デッキから対象となる【メイド】カードをランダムに1枚、手札に加える。そろそろ手札が心許なかったからよ、マジで助かるぜ」
グラサンの手札が増え、計4枚に。
「次、【継承】で引き継いだ召喚時の1ダメージ効果だが、敵味方の中に対象となる【領主】が居ない為、今回は能力が発動しないぜ。唯一存在するうちのメイドも、例の如く【隠密】状態だからな」
「チッ、【隠密】さえなければ……!」
【隠密】がなければ、自身の効果で『シルバートレイの運び手』は破壊されていた。時に自身を脅かすデメリットともなるこの効果だが、今回グラサンは上手くそれを躱したようだ。
「ラスト、『悪魔の屋敷』の効果で【メイド】カードをランダムに1枚、【リタイアゾーン】へ……うし、これで俺のターンは終わりだ。クククッ、これで戦況は五分か? 面白くなってきたなぁ、クロマ?」
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5ターン目
クロマ ライフポイント20 手札4
『蜘蛛の狩り場レベル2(緑2)』=『空』
『慟哭蜘蛛の巣レベル2(無1)』=『空』
『青の領土レベル2(青2)』=『空』
『慟哭蜘蛛の巣レベル1(なし)』=『空』
グラサン ライフポイント12 手札4
『悪魔の屋敷レベル2(黒2)』=『シルバートレイの運び手(4/1)』
『天使の屋敷レベル2(白2)』=『空』
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フィールドに居る【領主】はグラサンが有利、残りライフポイントと【領土】はクロマが有利、現在はそういった状況だ。確かに五分と言われれば五分かもしれないが、クロマとしてはむしろ不利なように感じていた。
(疑似的に永続の【隠密】を得たメイドちゃん、そして今の今まで【リタイアゾーン】に送り続けた大量のカード……それらを使って、グラサンは絶対に何か悪さをする。見た目の状況より、この戦況はずっとずっとやばい。こうなるのが嫌で速攻の大軍勢で決めにかかったのに、ああ、もうッ!)
正直言って、クロマ的に流れは完全に悪い方へと向かっている。ならば、どうする? 潔く諦める? いいや、クロマはそんな選択なんてしない。たとえ勝ち目が99%なくなったところで、蜘蛛の糸にすがってでも勝利を貪欲に目指す――それが彼女だ。
「グラサン、勝負はまだまだこれからだよ! アタシのターン、ドロー!」




