第55話 森の咆哮
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『伝統の隠し針』
分類:戦略 レア度:C コスト:黒1
【領主】1体を対象とし、1のダメージを与える。
【メイド】の【領主】1体を対象に【継承(メイド)】【領主】1体を対象とし、1のダメージを与える。
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グラサンが『メイドの暗殺者』に装備させたのは、Cの超低コストカードであった。効果も1のダメージを与えるに過ぎないものだが、塵も積もれば何とやら。【継承】の効果も重なれば相当な影響を盤面に与える刃と化す。
「さて、これで漸く1体目か。まだまだ敵さんが居やがるってのは、先が思いやられるぜ。俺はこれでターンエンドだ」
「……私のターン」
少しずつ場の流れが変化している。誰よりもそれを肌で感じていたのは、他でもないクロマだった。終始変わる事のないグラサンの余裕が、彼女に若干の焦り、そして更なる恋焦がれた気持ちを形成させていく。しかし、未だ戦況が有利であるのも、またクロマである。
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4ターン目
クロマ ライフポイント20 手札4
『蜘蛛の狩り場レベル2(緑2)』=『慟哭のスパイダーキッズ(3/1)』
『慟哭蜘蛛の巣レベル2(無1)』=『空』
『青の領土レベル1(青1)』=『空』
『慟哭蜘蛛の巣レベル1(なし)』=『喜悦のスパイダー(2/2)』
グラサン ライフポイント19 手札4
『悪魔の屋敷レベル2(黒2)』=『メイドの暗殺者(1/1)』
『天使の屋敷レベル1(白1)』=『空』
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何せライフポイントに手札の枚数、横に並べた【領主】と【領土】の数と質、そのどれもがグラサンと同等以上のものを誇っているのだ。【リタイアゾーン】が活用できない分、唯一手数という意味では劣っているようにも見えるが、『喜悦のスパイダー』などの青のカードを有する彼女にとって、それは弱点になり得ない。
「ドロー! 『青の領土』をレベルアップして、もう一度ドロー! ……グラサン、その暗殺ちゃんは良いカードだよ。召喚酔いの最中は『隠密』で身を潜め、次の行動を確実に行う。【カードマスター】に直接攻撃するにしろ、【領主】を【暗殺】するにしろ、な? 特にアタシみたいな緑使いは、気軽にジャイアントキリングをかます【暗殺】に、今まで何度も泣かされてきた。その厄介さは身に染みてる」
「だろうな。でけぇ【領主】の使い手なら、避けては通れねぇ道だ。あと、うちのメイドを褒めてくれて嬉しいぜ!」
「わっ、ニヒルな笑顔も素敵……!(アタシは思った事を言っただけだ)けどよ――」
浮かれている心の声(実際の声)を押さえ付ける為、ひと呼吸置くクロマ。
「――その【暗殺】の力、【継承】との噛み合わせが少しばかり悪いんじゃねぇか? 確かにその力はどんなに強大な【領主】が相手だったとしても、一撃で屠る事ができる。けど、それは諸刃の剣ってやつだ。戦闘時に手痛い反撃を食らって、自分も破壊されちまう。そうなれば折角積んだ【継承】の力もパァ、全部無意味だ。【領主】を無視してアタシに攻撃するって手もあるが……それだとあんまりうま味はねぇな。少なくとも今の段階じゃ、1のダメージにしかなんねぇもん」
「……へえ、やっぱよく考えていやがるな、クロマ。まあ、全部お前さんの言っている通りだ。で、その考えを踏まえて、これからどう行動する?」
「決まってる! 恐れず臆せず、でけぇ【領主】を置くんだよぉッ! 緑2に青2、無1と全部の【税】を使って、アタシはレベル2の『慟哭蜘蛛の巣』に『調和のマザースパイダー』を召喚する!」
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『調和のマザースパイダー』
分類:領主 レア度:SR コスト:緑2青2無1 タイプ:蜘蛛
攻撃力4/防御力5
全ての【蜘蛛】の【領主】を+1/+1
戦闘で相手【領主】を倒した際、フィールド上の【蜘蛛】の数だけドローする。
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勢いのままクロマが繰り出したのは、彼女の切り札の1枚であった。緑と青のストライプという色合いが毒々しい雰囲気を晒す、巨大なる母蜘蛛である。『調和のマザースパイダー』は登場と共に虫が出したとは思えぬ咆哮を上げ、その振動が森や蜘蛛の巣へと伝わっていった。
「おまっ、SRカードかよ……!」
「グラサン、余裕が崩れてきたんじゃねぇか!? 早速だけどよ、調和マザちゃんの召喚時能力が発動! フィールド上の全ての【蜘蛛】、その攻防値を1アップさせる! あ、ちなみにマザちゃんも【蜘蛛】タイプだから、しっかりとこの効果を受けるからな!」
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『慟哭のスパイダーキッズ』 攻撃力3⇒4 防御力1⇒2
『調和のマザースパイダー』 攻撃力4⇒5 防御力5⇒6
『喜悦のスパイダー』 攻撃力2⇒3 防御力2⇒3
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マザーの咆哮に共鳴してなのか、他2体の蜘蛛達も何らかの手段で音を奏で始める。野性的な音楽が辺りに広がり、それが収まる頃には強靭な陣営が誕生していた。
「おうおう、これは……」
「さあ、これでカチコミの下準備は完了。グラサン、覚悟しろよ? そっちのメイドちゃんには攻撃できないけど、逆に言えばグラサンは全くのノーガードって事だからな? って事で、慟哭スパちゃんと喜悦スパちゃん、【カードマスター】に直接攻撃ッ!」
「ぐぬッ……!?」
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グラサン ライフポイント19⇒12
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強化を施された蜘蛛達による容赦なき連続攻撃、これによりグラサンのライフポイントは一気に12にまで減少してしまう。
「……ったく、4ターン目でこの展開力かよ。末恐ろしいぜ、クロマ」
「惚れた? アタシの惚れちゃった!?(フッ、アタシのあまりの強さに泣きそうになっちまったか?)」
「ああ、このバトルで負けたら、ひょっとしたらそうなるかもな」
「ッ! 今の言葉、撤回は許さないぜ!? よっし、これでアタシはターンエンド! ほら、早く早く、グラサンのターン! グラサンのターンだから!」
「……俺のターン」
今の問答でテンションが爆上がりしたクロマが、バトルの進行を急かしに急かす。
「ドロー」
「ふふっ、ふふふふふっ……! グラサン、言っておくけど【暗殺】でどのスパちゃんを破壊したところで、相打ちは避けられないからね? 戦闘での効果発動は、スパちゃんが破壊されても働くから。あ、でも慟哭スパちゃんは無理かな? 【暗殺】は攻撃が当たってこそ効果が発揮するもの、慟哭ちゃんは攻撃を当てる前に【先制】して、問答無用で倒しちゃうもんね」
「へっ、ご忠告どうも」
ご機嫌になったせいなのか、らしくもなく事前に忠告(?)を行うクロマ。確かに【暗殺】持ちの『メイドの暗殺者』であれば、たとえ攻撃対象が『調和のマザースパイダー』であったとしても倒す事ができる。が、その場合は彼女の言う通り『メイドの暗殺者』も破壊され、マザーの大量ドロー効果が作動してしまうだろう。だからこそクロマは【暗殺】を恐れず、大型の【領主】を召喚したのだ。
「……ふう、そろそろ良いとこ見せねぇと、クライアントに文句を言われそうだな。クロマ、俺も本領発揮とやらをするからよ、しっかり受け止めてくれや」
「えっ、愛を!?(お手並み拝見してやるぜ!)」
「ッ……」
ずっこける寸前だったが、グラサンは何とか堪えるのであった。




