第51話 オアシス獲得戦
その後、約束の時間になったところでレイコ社長が到着、共にライツロブの裏闘技場へと向かう事となる。ここの会場も地下にあるようで、砂漠のへんぴな場所にて階段を発見。これ、今の装備がなかったら暑さで訪れるのも大変じゃね? などと考えながら、俺は会場入りを果たすのであった。
「中は……業火とそう変わらねぇな」
「という事は、ご飯も美味しい……!?」
「貴方達がいつも通りで心強い限りよ。さ、時間になる前に軽く挨拶をしておきましょうか」
周りを気にせずガンガン突き進むレイコ社長。俺達も続いていくと――その先には、スーツ姿のおっさんが居た。いや、そう言うと俺ももろに当て嵌まるんだが、こっちはサラリーマンの管理職って感じのおっさんだ。その後ろにもスーツ姿のおっさ――いや、部下らしき男が控えている。
「や、やあ、レイコ社長。ええと、そちらのおふたりが、今日の……?」
「ええ、そうです。私自らスカウトした強者ですので、どうか安心してお任せください」
ああ、なるほど。彼らが今回の雇い主、フレイムタンの幹部連中って訳だ。俺らよりも緊張しているのが丸分かりなところを見るに、今日のバトルはよほど負けられないものなんだろう。まあ、今は社交辞令やら何やらのターンだろうから、俺らからアクションを起こす必要はねぇか。黙って突っ立っておこ。
「あの、フレイムタンって焼肉屋さんなんですよね?」
と、そんな風に俺が思っていたのも束の間、いつも飯の事しか考えていない筈のシラスが、自ら動き始めてしまった。いや、飯の事しか考えていない故に、動いてしまった。
「あ、ああ、その通りだが……」
「焼肉屋さんって、つまり肉を焼く専門店って事ですよね? 今日のバトルに勝ったら、美味しい焼肉が食べれたりします? 高級な! 焼肉がッ! 食せるチャンスだったりしますッッッ!?」
「……」
シラスの圧の押され、そのまま黙ってしまうフレイムタン一同。一方の俺はやっちまったと天を仰ぎ、レイコ社長は爆笑するのを必死に堪えていた。
「……うちの子がこう言っていますが、お邪魔しても? もちろん、お代は私がお支払いしますので」
「い、いえいえ、その際は無償で招待させてください。そちらのお兄さんも、是非」
「色々と申し訳ねぇな……まっ、それでこいつのモチベーションが限界突破するからよ、許してくれや。俺も勝ちをもぎ取ってくるからよ」
「そ、それは何とも心強――」
「――グラサァ~~~ン!」
会話を遮り、俺の死角より唐突なタックルをかましてくる奴が居た。ああ、この声には聞き覚えがある。前に連絡先を押し付けてきた、あの金髪ギャルだ。黒マスクのクロマだったか?
「って、何で躱すの!?」
「誰だって攻撃されたら躱すだろ」
「攻撃じゃないっての! 愛の抱擁だっての!」
「おい、クロマてめぇ! 何を勝手に走り出してって、ああっ!? てめぇらは!?」
どうしたもんかと考える暇もなく、厄介事がまたあちらからやって来た。言うまでもなく、あの赤髪ヤンキーである。
「あら、グラサンったらこの子達と知り合いだったの? これから人権を奪って社畜化する事になるけど、大丈夫?」
「知り合いってほどの相手じゃねぇよ。向こうも自分でこの場に立ったんだ、何の問題も――」
「――ちょっと待て、何他人みてぇに言ってんだ! つか連絡先渡したよな? 何で連絡してくれないの? ねえ、何で!? 何で何で何で何で何で……!?」
「え、クロマ……?」
ええっ……? 俺の気のせいだったら良いんだが、何かこいつ、やべぇ方に流れてないか? ヤンキーの方も引き気味になってんじゃねぇか。
「へっへっへ……騒がしと思えば、フレイムタンの奴らを見つけたのか。ジャンク、バトル前の宣戦布告中か?」
「おやおや、皆さんお揃いのようで。クロマ、貴女は我が社の顔なんですから、あまり喧嘩腰になってはいけませんよ?」
ただでさえ混乱している最中だと言うのに、新たにライダーっぽい奴とパティシエっぽい奴が参入――なのだが、そろそろお腹一杯である為、中略して進めたいと思う。
話を聞くに、こいつらはラクダンビフ・レーシングとデザート&デザートの社長なんだそうだ。自分の手駒であるカードマスターの騒ぎを聞きつけ、ここにやって来た――訳ではなく、ある宣言をしにフレイムタンのおっさん達の下へ、わざわざいらっしゃったんだと。で、その宣言というのが今回のバトル、その共同戦線を張るという話だった。
まあ、要はレイコーポレーションの傭兵を雇ったフレイムタンに、強い危機感を抱いたんだ。当初は三社による複数人の総当たり戦、2対2の戦いを2セット行う予定だったんだが、これをフレイムタンと二社連合の戦い、2対2の戦いオンリーに変更するらしい。二社は互いにエースとなるカードマスターを選出し、勝利した際も合同でオアシスを活用する事に合意。結果、こうなった訳である。
当然、こんな事を一方的に決められては、フレイムタンとしては黙っている訳にはいかない――のだが、レイコ社長はそんな反論の声を遮り、それで構わないと承諾してしまった。
「それって、バトルの総数が減って早く終わるってだけの話ですよね? むしろ大歓迎です。私もこれから別の予定が入っていますし、無駄に話し合っている暇なんてありませんから」
「レ、レイコ社長!?」
と、こんな調子である。勝敗の有無による報酬に変化がないのなら、こちらとしては単に仕事量が減るだけって考えのようだ。世は正に効率化の時代、定時退社の為に無駄な会議を省くのは正義、仕方のない判断という事で、片づけられてしまったようだ。つかこいつら、レイコ社長の性格を分かった上での策だったな、これ。
「へっへっへ……言質は取ったぜ?」
「おやおや、豪胆ですね。ですが、現実はそう甘くはない。甘いのは我が社の商品だけで十分です」
レイコ社長の返答に満足し、そのまま去って行く相手側の社長達。ちなみに今日のバトルに出るのは俺とシラス、その相手側がクロマとジャンクになるんだそうだ。うん、予定調和っつうの? この流れだと――
「グラサン、アタシと戦いな。奥手なアンタも趣深いけど、アタシはそんなに待ってられない。この戦いでグラサンに勝って、アンタを貰うから! それならずっと一緒、うん、ずっとずっとずっとずーーーっと一緒だから……!」
「え、ええっと……そっちの女、シラスとか言ったな? 神聖なラクダンビフにケチをつけた事、忘れてないぜ。この戦いでお前に勝って、ラクダンビフの素晴らしさを叩き込んでやる! そして、一流のレーサーにしてやるからな!」
――ああ、こうなってしまうよな。かくして俺とクロマ、シラスとジャンクの対戦が組まれてしまうのであった。
「……? グラサン、あの人さっきから意味不明な事を言っているのですが、一体何なのでしょうか? ラクダンビフ肉の素晴らしさ、私は既に知っていると言うのに」
「ああ、俺の方も困惑しているところだよ。てっきり、もっとカラッとした性格だと思っていたからな。一瞬しか会っていないってのに、何でまた、こんな面倒な事に……だがレイコ社長の言う通り、やる事は同じだ。勝つぞ、後腐れなくな」
「ですね。焼肉が私達を待っていますし」
ライツロブの裏闘技場はバトル会場が複数あり、俺とシラスの戦いは同時並行して行うようだ。オアシス獲得の権利はそれだけで注目の戦いとなるらしく、戦いが始まる前だと言うのに観客席は満席状態である。少しはそんな周りに気を遣ってほしいんだが……
「グラサングラサングラサン……!」
……眼前に現れたクロマの瞳には、最早俺しか映っていない様子だ。殺気とも愛憎とも受け取れるそんな視線に、若干のやり辛さを覚えてしまう。流石の俺も若い娘相手に、こんなものを向けられるのは初めての経験だよ。新たなデッキの門出だってのに、何とも不穏なスタートになりそうだ。
「「――バトル」」




