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黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
レベル3 刻熱砂漠フォルスオアシス
50/277

第50話 情報誌

 予定されていたバトルの当日、俺は爽やかに起床する事ができた。レイコ社長に買ってもらったマントを身に着けて以降、この砂漠での生活は頗る快適なものとなったからな。まあ当然と言えば当然だろう。それに、今の俺には個室の宿が用意されている。こじんまりとしていて質素な部屋ではあるが、しっかりとしたベッドがあるだけでも、今までとは段違いの環境だ。窓の部分にガラスがなく、外との通気性が良過ぎて、たまに砂が入って来るって問題点もあるにはあるが、粗雑な俺にとっては些事に過ぎない。アウトカーストに居た頃に比べれば、天と地の差もあるってもんだよ。


「おーい、シラス! いい加減に起きろ。お前の長い飯の時間を考えると、そろそろ良い時間帯だぞ?」


 シラスが泊っている部屋の前で声掛けをしてやる。どうもあいつは朝に弱いようで、自力で時間通りに起きられるかどうかは、確率にして30%ってところなんだそうだ。何もない日であれば、昨日のように素通りしていたんだが、今夜は例の仕事がある。また夕方まで寝坊されても困るから、仕方なく起こしてやっている訳だ。ったく、俺の娘の方がよほどしっかりしていたぜ。


「あうぇ~……」

「よお、今日は絶好調のようだな? ただ眠いだけで、昨日みたいに餓死寸前って訳じゃなさそうだ」

「うべぇ~……?」


 昨日は寝坊したせいで、朝食と昼食を抜いた状態だったからな。あの時のシラスは本当にやばかった。理性なき獣って感じで、割と本気で恐怖を感じてしまったよ。比喩でも何でもなく、本当に食われるかと思った。


 その後、適当な店でシラスを爆食させ、意識を覚醒させる事に成功。先に飯を食い終わった俺はコーヒーを飲みながら、昨日書店で買った雑誌に目を通す事に。フッ、朝っぱらからコーヒーか。こんな風に柄にもなく、優雅に過ごせるようになるとはな。ある意味、生前よりも平和かもしれない。


 前の世界はどんな時間、どんな場所でもカードバトルを仕掛けてくる殺し屋が出現しやがったからな。今日のような快眠を味わう暇なんて、殆どなかったくらいだ。それに比べれば、シラスの世話程度は何の苦労にも――いや、やっぱそれなりの苦労にはなるが、まだ許容範囲である。


「もぎゅもぎゅ……グラサン、先ほどから本を読んでいるようですが、何の本ですか? エロ本ですか?」

「デリカシーって言葉をお前の頭に叩き込みたい今日この頃だよ、ったく……雑誌だよ、雑誌。この世界の有力なカードマスターを紹介する情報誌でな、昨日書店に行った時に目に付いたから、試しに買ってみたんだ」

「まぎゅまぎゅ……ほう、情報誌。面白い情報はありましたか? 例えば、今日のお相手についてとか」

「残念な事に、この辺のカードマスターの紹介は皆無だな。まっ、今回の特集がトップ層のもんだから、当たり前っちゃあ当たり前なんだが」


 ただまあ、レベル3からスポンサー契約を持ち掛けられるって話だから、どこかのタイミングで新鋭カードマスター枠の特集などが組まれていそうではある。このまま順当にレベルアップしていけば、俺も紹介されるようになるのかねぇ?


「トップ層……その記事、カードマスターが使用するデッキ内容なども紹介されているので?」

「いいや、そういう手の内を明かすような記載はねぇな。基本、そのカードマスターのプロフィール、契約を結んだ企業とかを紹介するくらいだ。そもそも、んなもんを公開したら、契約を結んでいるトップ企業から目ぇ付けられるだろ。今後もその業界で生き残る為に、その辺の線引きはしっかりしてんだろうさ」

「何だ、少し期待してしまいました。まあ私達がトップに躍り出た時も、そういった心配はないのだと喜んでおきましょう。で、美味しそ――いえ、面白そうなカードマスターは居ましたか?」


 無理に言い換えなくても良いって。シラスの本性は理解したからよ。


「やっぱ、特集が組まれている中で一番デカデカと書かれている企業七騎きぎょうななつき、この世界で最強とされている奴らかねぇ」

「企業七騎?」

「クソでけぇ会社と契約している、クソやべぇ奴らだと思っとけ。大体そんな感じだから。ああ、そうだ。チマミレって奴が居ただろ? 前に業火で声だけ聞いた、あの女だよ。あいつも企業七騎の1人みたいだぜ? ほれ、写真も付いてる」

「……?」


 ドレスを纏ったセクシー美人を見せてやるが、シラスは何の事だがさっぱり! といった様子だ。首を傾げに傾げ、そろそろ90度ほど曲がりそうである。


「いや、実物を見るのは初めてだろうがよ、居ただろ? ほら、業火のアナウンスでさ?」

「……?」


 マジか。こいつ、もう忘れていやがる……


「あ、あー……そんな企業七騎の中でも一応の順位はあるみたいでよ、第一席から第七席って感じの並びがあるようだ。さっき言ったチマミレは第二席、七大企業の化粧ブランド『メイリー』と契約している」

「第二席……上から2番目に強いって事ですか?」

「んー、一概に強さ順って訳でもないようだが、大雑把にはそうなんじゃねぇか? 本人は最強を自称していて、この順位に納得していないとか書いているが……あ、でもオジョーが第七席なのはどうなんだ? ぜってぇもっと上だと思うんだが、ブツブツ……」

「グラサン? グラサーン? ちょっと、自分の世界に入らないでくださいよ」

「お、おう、すまんすまん」


 いかんな、俺の中で延々と持論を展開してしまった。ともあれ、企業七騎の内訳は次の通り。


 さっきも言ったが第七席はオジョー、七大企業の中では最も新しい企業である『マドコム』と契約したみたいだ。ここは……機械やシステム全般? の開発を行っているところであるらしい。俺にはよく分からない分野だが、新しい物好きのオジョーらしいと言えばオジョーらしい。写真を見た感じ、容姿も俺の知るオジョーと全く同じ、キッチリと着こなした制服姿もいつも通りである。


 第六席はゴキョージュという壮年の男、眼鏡に白衣という微妙にシチサンと要素が被っているが、こちらは目が優し気で良き先生といった印象を受ける。うむ、鬼畜眼鏡のシチサンとは真逆の眼鏡だな。名前については触れてやらないのが優しさだろうか。ゴキョージュは七大企業『プライマルアカデミー』と契約しており、この見た目の通り、平時はカードの講師もしているんだとか。


「へ~」


 ここまで丁寧に説明してやったが、シラスの反応は淡泊なものだった。興味がないとも言える。なら、次はどうかな?


 第五席はデンガクという全身黒尽くめの……男? 全身がぶかぶかの布塗れだから、いまいち性別が分からない。それはさて置き、こいつは七大企業『アース食品』と契約している。この世界最大規模を誇るフードメーカーで、あらゆる食材を全世界に提供しているんだそうだ。デンガク自身も超級の料理人であるという噂があり、姿と場所を変え人知れず店を出しているらしい。


「そ、それは本当ですか、グラサン!?」

「少なくとも、この記事にはそう書いてる」


 想像通りの食いつきぶりだった。


 続いて企業七騎第四席のリボンハライ、こいつは所謂アイドルというやつで、宣伝広告を主とする七大企業『レイゾクプロモーション』と契約している。可愛らしい大きなリボンに煌びやかな衣装、オジョーとチマミレに並んで抜群に顔が良く、どんな時でも笑顔を絶やさない――これだけ聞くとマジなアイドルのようだが、本人と企業の名前が何か……いや、俺には関係のない話か。


 で、次は企業七騎第三席になるんだが……こいつは一番おかしな姿をしている。名前もプレジデントと大層にインパクトのあるものだが、見た目はそれ以上だ。俺よりも長身かつ筋肉質な体型、そこに高級そうな白スーツを纏い、更には謎の鉄仮面を装着していやがる。どこに居ても目立つ輩だが、その顔を見た者は居ないらしい。怪しさ満点、その上契約しているのが七大企業『ブラッドスミス』という軍事会社で、ここまでくると中身はサイボーグなんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。まあ、この世界で兵器は何の意味も成さないから、実態は子供用の玩具メーカーのようだが……実銃が水鉄砲みたいな扱いなんだろうな。


「そして第二席が最初の話に戻ってチマミレに――」

「――グラサン、そろそろ飽きました。デザートを注文しましょう、デザート。あ、これとか美味しそうですよ」


 一番良いところで止めるとか、お前さぁ……あと、今からその甘味を作っているデザート&デザートを潰しに行くんだが、自覚はおありで?

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