第50話 情報誌
予定されていたバトルの当日、俺は爽やかに起床する事ができた。レイコ社長に買ってもらったマントを身に着けて以降、この砂漠での生活は頗る快適なものとなったからな。まあ当然と言えば当然だろう。それに、今の俺には個室の宿が用意されている。こじんまりとしていて質素な部屋ではあるが、しっかりとしたベッドがあるだけでも、今までとは段違いの環境だ。窓の部分にガラスがなく、外との通気性が良過ぎて、たまに砂が入って来るって問題点もあるにはあるが、粗雑な俺にとっては些事に過ぎない。アウトカーストに居た頃に比べれば、天と地の差もあるってもんだよ。
「おーい、シラス! いい加減に起きろ。お前の長い飯の時間を考えると、そろそろ良い時間帯だぞ?」
シラスが泊っている部屋の前で声掛けをしてやる。どうもあいつは朝に弱いようで、自力で時間通りに起きられるかどうかは、確率にして30%ってところなんだそうだ。何もない日であれば、昨日のように素通りしていたんだが、今夜は例の仕事がある。また夕方まで寝坊されても困るから、仕方なく起こしてやっている訳だ。ったく、俺の娘の方がよほどしっかりしていたぜ。
「あうぇ~……」
「よお、今日は絶好調のようだな? ただ眠いだけで、昨日みたいに餓死寸前って訳じゃなさそうだ」
「うべぇ~……?」
昨日は寝坊したせいで、朝食と昼食を抜いた状態だったからな。あの時のシラスは本当にやばかった。理性なき獣って感じで、割と本気で恐怖を感じてしまったよ。比喩でも何でもなく、本当に食われるかと思った。
その後、適当な店でシラスを爆食させ、意識を覚醒させる事に成功。先に飯を食い終わった俺はコーヒーを飲みながら、昨日書店で買った雑誌に目を通す事に。フッ、朝っぱらからコーヒーか。こんな風に柄にもなく、優雅に過ごせるようになるとはな。ある意味、生前よりも平和かもしれない。
前の世界はどんな時間、どんな場所でもカードバトルを仕掛けてくる殺し屋が出現しやがったからな。今日のような快眠を味わう暇なんて、殆どなかったくらいだ。それに比べれば、シラスの世話程度は何の苦労にも――いや、やっぱそれなりの苦労にはなるが、まだ許容範囲である。
「もぎゅもぎゅ……グラサン、先ほどから本を読んでいるようですが、何の本ですか? エロ本ですか?」
「デリカシーって言葉をお前の頭に叩き込みたい今日この頃だよ、ったく……雑誌だよ、雑誌。この世界の有力なカードマスターを紹介する情報誌でな、昨日書店に行った時に目に付いたから、試しに買ってみたんだ」
「まぎゅまぎゅ……ほう、情報誌。面白い情報はありましたか? 例えば、今日のお相手についてとか」
「残念な事に、この辺のカードマスターの紹介は皆無だな。まっ、今回の特集がトップ層のもんだから、当たり前っちゃあ当たり前なんだが」
ただまあ、レベル3からスポンサー契約を持ち掛けられるって話だから、どこかのタイミングで新鋭カードマスター枠の特集などが組まれていそうではある。このまま順当にレベルアップしていけば、俺も紹介されるようになるのかねぇ?
「トップ層……その記事、カードマスターが使用するデッキ内容なども紹介されているので?」
「いいや、そういう手の内を明かすような記載はねぇな。基本、そのカードマスターのプロフィール、契約を結んだ企業とかを紹介するくらいだ。そもそも、んなもんを公開したら、契約を結んでいるトップ企業から目ぇ付けられるだろ。今後もその業界で生き残る為に、その辺の線引きはしっかりしてんだろうさ」
「何だ、少し期待してしまいました。まあ私達がトップに躍り出た時も、そういった心配はないのだと喜んでおきましょう。で、美味しそ――いえ、面白そうなカードマスターは居ましたか?」
無理に言い換えなくても良いって。シラスの本性は理解したからよ。
「やっぱ、特集が組まれている中で一番デカデカと書かれている企業七騎、この世界で最強とされている奴らかねぇ」
「企業七騎?」
「クソでけぇ会社と契約している、クソやべぇ奴らだと思っとけ。大体そんな感じだから。ああ、そうだ。チマミレって奴が居ただろ? 前に業火で声だけ聞いた、あの女だよ。あいつも企業七騎の1人みたいだぜ? ほれ、写真も付いてる」
「……?」
ドレスを纏ったセクシー美人を見せてやるが、シラスは何の事だがさっぱり! といった様子だ。首を傾げに傾げ、そろそろ90度ほど曲がりそうである。
「いや、実物を見るのは初めてだろうがよ、居ただろ? ほら、業火のアナウンスでさ?」
「……?」
マジか。こいつ、もう忘れていやがる……
「あ、あー……そんな企業七騎の中でも一応の順位はあるみたいでよ、第一席から第七席って感じの並びがあるようだ。さっき言ったチマミレは第二席、七大企業の化粧ブランド『メイリー』と契約している」
「第二席……上から2番目に強いって事ですか?」
「んー、一概に強さ順って訳でもないようだが、大雑把にはそうなんじゃねぇか? 本人は最強を自称していて、この順位に納得していないとか書いているが……あ、でもオジョーが第七席なのはどうなんだ? ぜってぇもっと上だと思うんだが、ブツブツ……」
「グラサン? グラサーン? ちょっと、自分の世界に入らないでくださいよ」
「お、おう、すまんすまん」
いかんな、俺の中で延々と持論を展開してしまった。ともあれ、企業七騎の内訳は次の通り。
さっきも言ったが第七席はオジョー、七大企業の中では最も新しい企業である『マドコム』と契約したみたいだ。ここは……機械やシステム全般? の開発を行っているところであるらしい。俺にはよく分からない分野だが、新しい物好きのオジョーらしいと言えばオジョーらしい。写真を見た感じ、容姿も俺の知るオジョーと全く同じ、キッチリと着こなした制服姿もいつも通りである。
第六席はゴキョージュという壮年の男、眼鏡に白衣という微妙にシチサンと要素が被っているが、こちらは目が優し気で良き先生といった印象を受ける。うむ、鬼畜眼鏡のシチサンとは真逆の眼鏡だな。名前については触れてやらないのが優しさだろうか。ゴキョージュは七大企業『プライマルアカデミー』と契約しており、この見た目の通り、平時はカードの講師もしているんだとか。
「へ~」
ここまで丁寧に説明してやったが、シラスの反応は淡泊なものだった。興味がないとも言える。なら、次はどうかな?
第五席はデンガクという全身黒尽くめの……男? 全身がぶかぶかの布塗れだから、いまいち性別が分からない。それはさて置き、こいつは七大企業『アース食品』と契約している。この世界最大規模を誇るフードメーカーで、あらゆる食材を全世界に提供しているんだそうだ。デンガク自身も超級の料理人であるという噂があり、姿と場所を変え人知れず店を出しているらしい。
「そ、それは本当ですか、グラサン!?」
「少なくとも、この記事にはそう書いてる」
想像通りの食いつきぶりだった。
続いて企業七騎第四席のリボンハライ、こいつは所謂アイドルというやつで、宣伝広告を主とする七大企業『レイゾクプロモーション』と契約している。可愛らしい大きなリボンに煌びやかな衣装、オジョーとチマミレに並んで抜群に顔が良く、どんな時でも笑顔を絶やさない――これだけ聞くとマジなアイドルのようだが、本人と企業の名前が何か……いや、俺には関係のない話か。
で、次は企業七騎第三席になるんだが……こいつは一番おかしな姿をしている。名前もプレジデントと大層にインパクトのあるものだが、見た目はそれ以上だ。俺よりも長身かつ筋肉質な体型、そこに高級そうな白スーツを纏い、更には謎の鉄仮面を装着していやがる。どこに居ても目立つ輩だが、その顔を見た者は居ないらしい。怪しさ満点、その上契約しているのが七大企業『ブラッドスミス』という軍事会社で、ここまでくると中身はサイボーグなんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。まあ、この世界で兵器は何の意味も成さないから、実態は子供用の玩具メーカーのようだが……実銃が水鉄砲みたいな扱いなんだろうな。
「そして第二席が最初の話に戻ってチマミレに――」
「――グラサン、そろそろ飽きました。デザートを注文しましょう、デザート。あ、これとか美味しそうですよ」
一番良いところで止めるとか、お前さぁ……あと、今からその甘味を作っているデザート&デザートを潰しに行くんだが、自覚はおありで?




