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黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
レベル3 刻熱砂漠フォルスオアシス
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第49話 高級焼肉フレイムタン

 時同じくしてレベル3のとある場所、とある空間にて。そこは絶えず煙が立ちのぼる密室であった。部屋の中央に焼き網を置いたテーブルがあり、どうやら煙はそこから出ているようである。席に座る人影は2つ、片方はふくよかな体型をした中年の男性であり、若干きつそうなスーツの上に紙エプロンを纏っている。そんな彼と向かい合うようにして座るのは、金髪碧眼の美女にしてレイコーポレーションの社長、レイコ――そんな彼女もなぜか、ファンタジー職強めのスーツの上に紙エプロンを装着していた。一体なぜこのような格好を? と問われれば、その答えは1つである。ここは高級焼肉店フレイムタン、そのVIPルーム。焼肉を焼いて食っていたのだから、紙エプロンをしていても何ら不思議ではないだろう。まあ、スーツに臭いは付いてしまいそうだが。


「契約内容の協議はこれにて終了ですね。それでは、私は一足先に失礼致します」

「レ、レイコ社長、もうよろしいのですかな? 肉はまだまだ準備しておりますが……」


 肉を口にするのもそこそこに、席を立とうとするレイコ。そんな彼女を呼び止めた男は、何を隠そうこの焼肉店の社長であった。


「いえ、十分堪能させて頂きました。これだけ質の良い肉を提供するのであれば、高価ながらも一定の層に人気を博す事でしょう。ましてや、その店がオアシスの中にあるのです。オアシスの完璧な環境に釣られ、そこに充満する肉の香ばしい匂いに釣られ――結果、来店する者が続出するかと」

「お、お褒めに預かり光栄です。しかし、本当に大丈夫、なんですよね? 私共は相当な額を御社に投じました。その上で仮に、仮にですよ? 万が一に負けでもしたら――」

「――へえ、私が派遣するカードマスターが、負けるとでも?」


 不意に襲い掛かる死の予感。それは滝の如き汗を男にもたらした。


「い、いや、そんな事は決して! で、ですが、此度のオアシスを賭けた戦いに、負ける訳にはいかないのです。先の万が一が起きれば、その……」

「その、何です? 万が一が起こった場合、カードマスターを失うのは派遣した側である我が社、受け取ったゴールドも損害分のお金を添えて全てお返しすると、先の協議で決まった筈では? 私共はそれだけのリスクを負っているのです。勝利時に相手カードマスターの処分をこちらで決める権利があるのも、前払い分を相応の金額で頂けるのも、至極当然の事だと思いますが……それとももしや、まだ何か文句があるので?」

「あっ、う……」


 焼かれた肉から溢れ出る煙が、レイコが発する圧によって四散していく。それは並みの人間が、いや、例え上位存在であったとしても、正面から受けて良いものでは決してなかった。現にフレイムタンの社長は言葉を発する事もできず、ただただ震えてしまっている。


「……フフッ、冗談です。どうかご安心を、我が社の方針は安全第一ですので。絶対に成功すると踏んだ仕事しかしませんし、裏を返せばそれが依頼の成功率に結びついています」

「せ、成功率99%、でしたか?」

「イエス、100回に1回しか失敗しません。まあ、実際は失敗なんてした事がなくて、数字に現実味を持たせる為に、99なんて半端な数にしているんですけどね。どうです、安心されました?」

「え? あ、はい、恐らくは……」

「それは良かった。誤解も解けたようですし、今度こそ失礼しますね。ではでは」


 帰り際に肉をひょいと摘まみ上げ、パクリとひと口で平らげるレイコ。その動作が“これ以上の文句を垂れるな”と言っているようで、フレイムタンの社長は彼女を黙って見送る事しかできなかった。


「しゃ、社長、大丈夫ですか!?」


 それから少しして、部下らしき男が駆け足気味に姿を現す。どこかで部屋の様子を監視していたようだ。


「あ、ああ、私は大丈夫だ。しかし、彼女の相手はしんどいものだな。今回の協議で寿命が減ったように思えるよ」

「社長、またご冗談を。である我々に寿命なんてものは、存在しないじゃないですか。それよりも……あの女、何て不遜なんだ! 確かに企業としては我が社よりも上の格付けかもしれないが、あんなの脅しと同じようなものですよ! 取引相手にするような態度じゃない!」


 先ほどのレイコの態度がよほど気に入らなかったようで、部下の口撃の矛先は完全に彼女の方へと向いていた。尤もな意見ではある。普通であれば、そう考えてしまうのが自然だ。しかし、フレイムタンの社長は微塵もそのような感を出していなかった。


「止めなさい。この場所が私達のテリトリーとはいえ、どこで彼女が聞いているのか分かったものじゃない」


 むしろ、率先して部下を止める始末である。そんな社長に対しても、部下は少し不満そうだ。


「如何されたのですか、社長? 何かあの女に弱味でも?」

「そういう訳でもないよ。だが、そうだな。君は知らないんだったな」

「……? 何をでしょうか?」

「君がさっき言った通り、神である私達には寿命が存在しない。大昔ほどではないにしても、下界の者達では成し得ない奇跡を扱う事ができる。この世界は少々特殊だが、その他世界の運営を見守る立場にも居る。だからこそ、我々は神であると自認している訳だが……彼女、レイコ社長はその神の中でも特別なんだ」

「特別、ですか?」


 網に置いた肉を焼き過ぎないよう、手元の小皿にそれらを移しながら、社長が話を続ける。


「君がまだ生まれてもいなかった大昔、それこそ我々が今と比較にならないほどの力を得ていた時代、この会社にある役職にように、神にも階級が存在していた。無論、その上に行けば行くほどに持ちうる力と責任は大きくなり、人数も絞られていく。レイコ社長はそんな厳しい環境下で、神の最上位層にまで行き付いたんだ。私如きじゃ直接話す事も躊躇われるような、そんな雲の上の存在だった」

「……大昔の話は知識として知ってはいますが、あの女が? 本当なのですか?」

「これが嘘だったら、協議の時にあんな風に緊張したりしないさ。あの時代の彼女は本当に恐ろしくて、どこまでも冷酷だった。最高神にもよく喧嘩を売っていたみたいだし、何をしでかすか全く予想ができない存在で――ハハッ、あの頃の話を続けたら、キリがないくらいさ。ともあれ、だ。今あれだけ丸くなっているのが、正直信じられないくらいだったんだよ」

「あれで、丸く……?」


 社長は身震いしながらも、取り終わった肉を食べ始める。そして、また焼く。一心不乱に、これが自分の信じる道だと言わんばかりに。


「ほら、君も食べなさい。この日の為に気合いを入れて肉を用意したから、まだまだ残っているんだ。一度客席に出したものは再提供できないからね、私達で堪能してしまおう」

「ご、ご相伴に与かります。あの……そのような者と取引をして、よろしかったのでしょうか? 本人は成功率100%などと言っていましたが……」

「うん? うん、どうだろうね? 彼女は劇薬中の劇薬だ。どう転ぶか分かったものじゃない……が、この世界における契約の履行は絶対。だからこそ、恐怖を押し切って再三の確認もした。最悪は回避できる筈だ。あとは座して待つだけだよ。私達がベットとした相手が、勝ち馬になる事をね」


 翌々日、社運を懸けた三つ巴のバトルが開始される。デザート&デザート、ラクダンビフ・レーシング、高級焼肉フレイムタン、果たして勝利の女神が微笑むのは……?

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