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黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
レベル3 刻熱砂漠フォルスオアシス
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第48話 意外な斡旋

「……一体何だったんだ?」

「さあ、お腹でも空いたんじゃないですか? あれだけ叫んでいましたし、私なら確実にお腹が空きます。あ、空きました。一杯食べなくちゃ……!」


 赤髪のヤンキーがこっちに来たかと思えば、今度は金髪ギャルの方もこっちにダッシュして来て、更には連絡先を押し付けられてしまった。確認してみると、通話とメールの連絡先にクロマという名前が追加されている。レイコーポレーションに続いての登録だが、カードマスター相手は初めての事だ。つか、こういう形で連絡先を増やせるものなのか。色々と確認したいところだったが、その間にクロマがダッシュでおさらば。気が付けば仲間達と一緒に、遠くにまで行ってしまっていた。


「……」

「お、おい、ジャンク? 大丈夫か?」

「考えようによっては、あっちが逃げて行ったんだ。俺らの勝ちみたいなもんだぜ?」

「そうそう、だから元気出せ――あ、駄目だこれ。俺らの声、全然届いてねぇわ」

「仕方ねぇ、俺らで運ぶぞ。ったく、無駄に図体でかい癖に、変なところでメンタルは繊細なんだからよ……」

「クッ、お、重い……!」


 残されたヤンキー側のグループも、なぜか硬直している赤髪を抱え、そのまま去って行ってしまった。そして砂漠公園にポツンと残される俺ら――さっきまでの喧噪が嘘みてぇに静かである。


「チッ、トータルで考えると見所が少なかったな。もう少しでカードバトルに発展しそうだったんだが」

「それよりもグラサン、どうするんです?」

「あ? 何がだよ?」

「さっき女の子から、連絡先を貰っていたでしょ? 礼儀として、何かしらの接触をした方が良いのでは? ほら、あの子のお仲間が一目惚れ云々とか言っていましたし」

「お前、そういうところはちゃっかり聞いてんのな……さっき腹が減ったからだの、そんな事を言っていたのによ」

「そう言うグラサンも、しっかり聞いていたんじゃないですか」


 まあ、俺は耳が良いからな。去り際だろうが、あんな声のボリュームで喋っていたら、普通に聞こえちまうよ。にしても、面倒な事になりそうだ。ギャルの方は明らかにそういう態度だったし、ヤンキーの方もギャルに惚れているような反応だった。これは扱いを間違えると、グループ間での爆弾になっちまいそうだ。となれば……よし、無視しよう。


「俺は向こうに連絡先を渡してねぇ。なら、この回線は今のところ一方通行ってこった。わざわざ俺から連絡する必要はねぇだろ」

「え、それで良いんですか? 篭絡してご飯を貢がせる、またとないチャンスですよ?」

「この一瞬でそんな思考に行き着く、お前がよく分からねぇよ……んな事しなくたって、俺らの衣食住はレイコーポレーションに保障されてんだろ? わざわざ面倒事にかかわる必要もないし、俺らにとってこのレベルは通過点に過ぎねぇ。この砂漠でまた偶然出会う確率は奇跡的、こっちから連絡しない限り、もう会う事はねぇだろ」

「ふーん? まっ、グラサンがそれで良いのなら、私からはこれ以上とやかく言いません」

「ああ、そうしてくれや。妻子持ちの男に寄って来たって、若い奴に良い事なんて何もねぇからな」

「……は?」


 急にシラスが真顔になり、食事の手を止めた。


「何だよ、その顔は?」

「その台詞を言いたいのは、むしろ私の方ですよ。グラサン、その顔で結婚していたんですか?」

「ナチュラルに失礼な事を言うね、お前さんは? そりゃあ、俺だって良い歳だぜ? 結婚のひとつやふたつはするだろ?」

「ふたつもしてるんですかッ!?」

「いや、すまん。今のは言葉の綾だった。結婚も妻も子供も唯一無二、1回と1人ずつだ」


 俺の説明に納得してくれたのか、漸くシラスの食事が再開される。


「そ、そうだったんですね。ですが、グラサンがこの世界に居ると言う事は……」

「あー、別に変に気を遣う必要はねぇよ。元々いつ死んでもおかしくない仕事をしていたんだ。もしもの時には備えていたし、あいつも覚悟はしていた。まあ心残りがないっつったら、それは嘘になるけどよ。大きくなった娘を見たかったし、その成長過程もアルバムに纏めておきたかったし、反抗期も未だに体験してなかったし、カードの腕にも絶対に光るものがあったし最終的には俺を超えてほしかったし――」

「めちゃくちゃ未練が残っているじゃないですか」


 当たり前だろ、どんだけ覚悟してても残るものは残るわッ! 正直無念だわッ!


「うるせぇよ。だとしても、今はできる事に全力投球してぇんだ。新たな後悔を生み出したくねぇからな」


 それにオジョーやオジキと違って、あいつらはこの世界でも本当の名前が呼べる。ああ、それが唯一の救いだ。なら、今優先すべきは思い悩む事ではなく、オジョー達の安全の確保だ。……まあ前に言った通り、あの2人は俺の助けが不要なくらいに強いんだが。うん、腕も心も強いんだが。


「分かりました。私もこれ以上後悔しないよう、全力で食を堪能したいと思います」

「おう、それと一緒にされるのはぶっちゃけ複雑だが、やるからには全力で頑張ってくれや。そういう訳で、あのギャルの連絡先は消しておく――ん? メッセージが来てる?」

「む、私の方にも来てますね」


 あー、飲むのと野次馬に夢中で、夜のメッセージチェックがまだだったな。そして俺とシラスに同時となれば、おのずと送信元は特定される。そう、レイコーポレーションからだ。


「仕事の斡旋の件か。そういや、今日中に連絡を寄越すと言っていたっけ」

「何々? ……ええと、裏闘技場でバトルをすれば良いんですね。はい、了解ですっと」

「お前、もう少し詳細を確認しておけよ……俺の日時は明後日の夜、フレイムタンって企業の代理カードマスターとして派遣されるみてぇだな。裏闘技場はライツロブって団体、業火みてぇにダメージに痛みが伴う事はねぇが、負けた側のカードマスターは一様に人権が奪われる。別名、奴隷化施設――なるほど、そういう趣向な訳だ」


 奴隷つっても、相手企業の労働力的な意味での奴隷のようだがな。要は強制社畜化である。


「業火のように、カードマスター間で報酬を決める形式じゃないって事です?」

「ああ、あとは個人で利用するってより、企業同士の裏取引で活用される場所のようだ。商売の為に自社の有力なカードマスターを出して、それで負けたら両方を失うって寸法だろう。逆に、勝ったらその両方を得る」

「ふむ、どちらにせよ勝てば良いんですよね? なら、単純な話です。あ、ちなみに私も全く同じ日時と仕事内容なので、その辺よろしくです」

「へいへい、何となく予想はできていたよ」


 全てを理解しました! と、スッキリした様子で食事を続けるシラス。まあ極端な話、勝てば良いってのはその通り。負けても死なないって時点で、今回の団体は大分温いまである。だが、問題はそれよりも……


「なあ、シラス。この相手企業に聞き覚えはないか?」

「相手企業ですか? ええと……デザート&デザートに、ラクダンビフ・レーシングって書いてありますね。心なしか、どちらも美味しそうな名前です。まる」

「お前さぁ、さっきの今のなのに、最初に出て来る感想がそれかよ……分からないか? 言い争いをしていた金髪ギャルと赤髪ヤンキー、その2つの企業の所属だぞ。つまり明後日に戦う相手、あいつらの可能性がある」

「……早くも再会の予感、ってやつです?」

「そういう事だよ。ったく、一体どんな因果なんだか……」


 仮にそうであった場合、負けるのは問題外だが、勝ったら勝ったで新たな問題が発生しそうである。明後日のバトルの相手が違う事を祈りつつ、今夜のところは解散。俺達は宿へと向かうのであった。


「シラス、流石に宿は別々の部屋だからな?」

「何を当たり前の事を言っているんですか? ハッ! もしやグラサン、あの娘よりも私の方が好みで、それで……!?」

「もうツッコミを入れる気力もねぇよ……」

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