第46話 パック開封
その後、結局行動を共にする事になってしまった俺達は、適当にブラブラした後にカードショップへと赴き、当初の目的であった新パックの解放を行った。解放は無事に完了、もちろん、その後にそのパックを購入しようとした訳だが――
「「何これたっか!?」」
――俺達はその値段の高さに驚愕する事となる。何せ、基本のメイドパックの10倍もの価格だったのだ。業火で荒稼ぎし、衣食住が無料となった俺達なら買える範囲ではある。あるが、流石にこんな価格を提示されると気後れするってもんだ。
「思えば不思議だったんだ。レベル3に来た事のあるフミタオシが、未だに単色デッキを使っていた事が。なるほどな、デッキを構築できるほどのパックが買えなかったのか」
「あー、あの実力だとレベル3で勝てるかどうか、怪しいところでしたからね。私達のようにスポンサー契約も結んでいなかったようですし、かと言って節約できるタイプとも思えません」
フミタオシの境遇を勝手に納得、その後奴の存在を秒で忘れ、新パックをあるだけ購入する俺達。次いでフリースペースらしき場所に腰を下ろし、パック剥きに集中する。
「相変わらずレアカードの封入率がしょっぱいな……おっ、でもRが出たわ」
「フフッ、まだまだ甘いですね、グラサン。私なんてSRが1枚出ましたよ。パックを剥く時にピカピカ光る演出が入りました」
「えっ、んな演出が入るものなのか!? つか、この数日に間に引けるような確率じゃねぇだろ、SR……! クッ、俺の周りには豪運野郎が多過ぎる……」
「野郎じゃないです、ガールです」
そんなこんなでパック剥きが終わり、出たカードでデッキをどう強化できるかの試行錯誤を開始。とりあえずの形になったところで、共に行動をしている利を活かしてシラスとのフリーバトル、バトルの反省をしてデッキを改良、フリーバトル、改良、フリーバトル――そんな事を何度か繰り返しているうちに、あっという間に時間は過ぎていった。気が付けば、もうすっかり日が沈んでいる時間帯である。
「グ、グラサン、私、お腹が空きました……もう限界、です……ぐふっ……」
「おう、もうそんな時間か」
まあそれに気付いたのは、シラスが餓死寸前になったからなんだが。しかし、やっぱこいつ強いわ。調整をしながらのバトルだったとはいえ、勝敗はお互い譲らずの五分五分だった。これだけの強者と気軽にバトルができるのなら、行動を共にするのも悪くねぇな。
「できれば野良バトルで、このデッキがレベル3でも通じるかどうか、確認しておきたかったんだが……」
「大丈夫ですって通じますって。それよりもご飯、ご飯に行きましょう。私、今夜はがっつり食べたい気分です!」
「お前、昼もがっつり食ってたじゃねぇか……って、そういや今日はポテトブタフライしか食ってなかったっけ、俺。流石に腹が減ったな。適当にその辺りを見て回った時、屋台がずらっと並んでいる場所があったよな? そこなら酒もあるか?」
「お酒はあの一杯で済ませるとか、そんな事を言ってませんでした?」
「夜の酒は別腹なんだよ、別腹」
「……なるほど、別腹なら仕方ありませんね!」
今日一日行動して、こいつの扱い方も上手くなったもんだ。とまあ、そんな訳で俺らはカードショップを出発して、お目当ての屋台街へ。事前にリサーチしていた事もあって、特に迷く事もなく辿り着く事ができた。
「ふい~、もしかして昼間とは違って冷えてるか?」
「そう言えば、砂漠は温度差が激しいとか言っていましたね。まあ、この姿となった私達は無敵なので、あまり関係ありませんが」
「着替える前はマジで死にそうだった癖して、よく言うよ。にしても……へえ、串焼き系が多い感じかね? 風変りなおでんみてぇなのもあるし……おやじ、ここって熱燗とかあるか?」
「あるよ~」
「ほう、おでんですか? 知らない料理ですね。とりあえず、全品ひとつずつください。あ、レイコーポレーションのツケで」
「はいよ~」
何とも緩んだ雰囲気のおやじである。しかし、だからこそのやり手と見た! 俺達は謎のおでん屋の屋台に乗り込み、それぞれの注文を済ませていく。いつものように画面から注文を済ます形式である為、店員NPCに話す必要性は別にないんだが、まっ、こういうのは雰囲気も大切だからな。おっ、この黒い大根、味が染みててうめぇな。砂漠の寿とかいう酒にもよく合う。
「おお、この謎肉もなかなか……!」
「謎肉ってか、牛筋だろそれ。ん? いや、メニューには牛筋がねぇな? おやじ、これって何の肉だ?」
「ラクダンビフだよ~」
「……すまん、謎肉だったわ」
と、そんな風に束の間の食事タイムを楽しむ。砂漠の夜は静かと聞くが、ここは飲み屋街という事もあって、そこそこの喧噪に包まれている。ああ、何だか少し懐かしく感じてしまうな。うんうん、こんな賑やかな中で飲む酒も、また良いもので――
「あ゛あ゛!? てめぇ、今何て言いやがった!? もう一度言ってみろやぁッ!?」
「何度でも言ってやんよ! オアシスの利権、アンタらみてぇなクソ企業の下っ端にはもったいないって、そう言ってんだ!」
――うん、そうそう。飲み屋街に喧嘩は付きもの、時折こういったドスの効いた叫び声も耳にするもんなんだ。ああ、懐かしい。
「おやじ、ちょいと喧嘩を見物しに行けてぇんだが、この謎おでん、皿のまま持ってても良いか? あと酒も」
「良いよ良いよ~。器は食べた後に自動回収されるから、気にせず持って行って~」
「あっ、抜け駆けするつもりですか、グラサン? ちょっと待ってください、私も買い溜めして観戦したいです」
「なら急げ、早くしないと殴り合いが始めっちまうぞ!」
俺とシラスは観戦用の酒と料理を抱え、叫び声のする方へと急いだ。
「居た、あそこだ!」
眼を飛ばし合いながら対峙する、不良の集まりらしきグループを2組発見。幸い、まだ殴り合いには至っていない。ふう、間に合った! ……いや、今更だがこの世界、殴り合いの喧嘩には発展しないか。となれば、やっぱカードで決着? まあどちらにせよ、何かは起こるだろ。
と、そんな期待を胸に、近くに等々席がないかを物色する。運が良い事にここは砂に塗れた公園であるらしく、ちょうど良いところにベンチがあった。おお、これは場所といい形状といい、良いベンチだ。
「ふう、間に合った間に合った。流石に冷やになっちまうが、一升瓶があれば持つだろ。盃は珍しい形だが……まあ、飲めれば問題なし!」
「温度は気になりませんが、外で食べると砂ぼこりが酷いですね。まあ、それもまた隠し味のひとつ。じゃりじゃりして食い応えがあります」
俺達はベンチに座り、それぞれのお楽しみを手に不良グループに目を向ける。どうもタイミングが良かったようで、視線で散らしていた火花が最高潮に達しようとしていた。
「俺らのどこが下っ端だオラぁッ!? 天下のラクダンビフ・レーシングを舐めんじゃねぇぞ!?」
「何がレーシングだボケぇ! んなもん砂漠のどこでもできるだろうがよぉ!? オアシスで食べるスイーツが、どれだけ最高か知らない低脳なんですかぁッ!?」
あ、まだ口撃を続けるのか。案外気の長い奴らだな。グループの代表者は……片や大柄の赤髪ヤンキー、片や黒マスクをした金髪ギャルか。どっちも十代後半、シラスよりも少し年上って感じかね。如何にもやんちゃそうだが、レベル3に居る以上、相応の実力はあるんだろう。へへっ、楽しみ楽しみ。
「グラサン、あの人達もどこかの会社と契約しているんですかね?」
「なんたらレーシングやらスイーツやら、そんな単語がボチボチ出てたな。まっ、多分そうなんじゃねぇの?」
「ラクダンビフ・レーシングですよ。さっきのお肉の名前と一部同じです」
え、謎肉に乗ってレースするのか?




