第45話 その気
「じゃ、俺はこれにすっかな」
「えっ?」
画面が表示されて数秒、俺は選択肢のひとつに指を当てて決断を下した。まだ絶賛お悩み中であったがシラスが、そんな俺の行動に驚き声を上げている。
「あら、そんな即断即決しちゃって良いの? これ、別にスタートデッキを決めた時みたいに、急ぐ必要なんてないのよ?」
「俺は考えるよりも勘で動いた方が、上手くいきやすいもんでね。そもそも、この説明文じゃどんな効果になるのかが想像できねぇし、それなら好みのビジュアルで選ぶのも、手のひとつなんじゃねぇか? 俺が最初にメイドデッキを選んだのも、それが始まりだったしよ」
「フフッ、グラサンらしいわね」
「な、なるほど、そうやって決めるのもアリなのですね……! 考えてみれば、私も食材の冷凍保存ができて便利、これでいつでも持ち運び可能な弁当状態だ! という宣伝文句に釣られたのが始まりでした!」
「そ、そうなのか?」
こいつはこいつでどんな選択肢が並んでいたんだろうか。少し気になる。
「……決めました、私はこれにします」
「シラスも無事に決まったみたいね。この食事が終わったら、ショップに行って正式に解放して来なさいな。それで選んだパックが買えるようになっている筈だから」
「で、そいつを購入してデッキを強化、次の仕事に備えつつ、大目標であるレベル5を目指すって寸法か。ま、妥当なところなんじゃねぇの?」
となれば、今日はデッキ調整日になりそうだな。野良バトルを噛ませつつ、俺好みに仕上げていくとしますかね。
「あの、レベル5に行くまでの仕事は、どんな感じで受ける事になるんですか?」
「ええ、それについても説明しておきましょう。仕事は最低でも週1回はやる義務があって、内容はその時々によるわ。我が社の表向きの仕事である警備が回ってくる事もあるし、裏での厄介な仕事が舞い込む事もある。完遂難度は選ばせてあげる事もできるけど、それ次第で給与も変動する感じね。今の貴方達だとレベル3までのエリア内、その中で行ける仕事に限られるわ。当然の事だけど、うちの看板を背負ってやるからには、絶対に遂行なさい。失敗は許さないから」
「む、厳しいところはともかくとして、意外と暇だったりします? てっきり、もっとガンガン仕事を入れてくるものかと」
「いくら命を軽んずるうちの会社だって、そこまで鬼畜じゃないわよ。と言うか、週1で命の危機に瀕するこの労働環境に、思うところはないの?」
「……? いえ、特には」
「うん、素晴らしい狂い具合ね。流石私、良い子を選んだものだわ」
「変なところが評価点に繋がっている気が……まあ、別に良いけどよ。で、肝心の仕事の連絡はどうやってする?」
「契約を交わした時点で、レイコーポレーションとの通信機能がメニューに備わった筈よ。通話とメッセージの両方が可能だから、そのどちらかで連絡が行くわ。緊急性が高いと通話だけど、基本はメッセージかしらね。最低でも朝昼晩、1日3回はチェックしておきなさい。見忘れも許さないからね?」
「……グラサン、私、朝にちゃんと起きられるでしょうか?」
「俺に聞くな」
朝が弱いらしいシラスを適当にあしらいつつ、その機能とやらを確認する。お、マジであった。ふむふむ? ああ、これなら普通に使えそうだな。
「暇な時があれば、表と裏、どれかの闘技場に勝手に参加しても良いのか? 仕事をするのも良いが、こちとら、レベルアップはガンガンしていきてぇんだが」
「正式に契約を結んだ今、レベル5へ行く方法は何でも良いわ。野良バトルを重ねて表に参加、一発を狙って裏の闘技場に殴り込むのも良いし、希望があるのなら、時期を早めて我が社が仕事を斡旋しても良い。私としてはガンガン仕事を引き受けて、死ぬほど働いてくれると助かるわ。あと裏の闘技場へ行くのなら、仕事じゃないにしても、レイコーポレーションに仲介させた方が楽よ? いちいちバトルの交渉をする必要がなくなるからね」
「確かに、裏は表と違って団体ごとの特色が違うらしいからな。スポンサー様を間に挟んだ方が、まあ安牌か」
「なら社長、私に仕事を斡旋してください。私が行けるエリアの中で、一番難しそうなやつが良いです。具体的に言うと、一発でレベルアップができそうなやつがベスト」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。グラサンはどうする?」
「俺もシラスと同じだ。レベル3がどの程度のもんか、そこそこ野良バトルで確かめるにしても、表の大会に出る為の経験値50を地道に稼ぎ直すのは、流石に怠い。レイコ社長のお眼鏡にかなう、タフな依頼を回してくれ」
と、俺らは要望を提出。今日中に具体的な仕事の連絡をするという事で、話は纏まるのであった。
「よし、こんなところかしらね。それじゃ、私はそろそろ行くから」
「おう。社長、今日はわざわざありがとな」
「ご飯代もありがとうございます……!」
「礼なんて要らないわ。それよりも仕事の結果を出して、さっさとレベルを上げて頂戴。貴方達を推薦した私にとっても、それが一番なんだからね。っと、そうだ。新しいパックを買ってデッキを強化するのも良いけど、少しはこの辺の散策もしてみたら? レベル2までにはなかった店とかも結構あるから、ちょっとした気晴らしになるかもよ?」
「店? ああ、そういや服屋以外にも色々あったっけな。本やら楽器やら」
仮宿住まいには荷物がかさばりそうで、そんなに買えたものではないが。
「謎の生き物が並んでいる店もありましたね。あれはもしや、精肉店?」
「いや、アレは動物の背に乗って移動する、レンタサイクルみたいなものだから……間違っても食べようとしちゃ駄目だからね?」
シラスの言葉に若干の不安を覚えつつも、レイコ社長は店を出て行った。まあ、食おうとしても物理的に倒す事ができないから、そこまで心配する必要もないと思うが……いや、迷惑行為だけでも犯罪になる可能性はあるのか?
「……シラス、店以外で肉を食おうとするのは駄目だからな? 結果がどうであれ、犯罪になるかもしれねぇ」
「む、それなら仕方ありませんね」
「チャレンジするつもりだったのかよ……」
ああ、やっぱ不安に思って正解かもしれん。
「じゃ、俺もそろそろ行くわ。今日の一服タイムも終わった事だしな」
「ですね。では、行くとしましょう」
「ん? お、おう?」
どうやら、シラスも俺と同じタイミングで店を出るようだ。レイコ社長が言っていた通り、支払いは全てレイコーポレーションの方へ。食費がタダってのは、やはり有難い。まあ俺の場合、今回は酒代だが。
「さて、レイコ社長のアドバイス通り、まずは適当にブラブラしてみっかな」
「そうですね、ブラブラしてみましょう」
……ん?
「おい、シラス。何で俺に付いて来るんだ?」
「え、何を言っているんです? 私とグラサンは同志でしょう? 一緒に行動するのは当然じゃないですか」
「いや、同じなのはスポンサーっつう後ろ盾だけで、別にんな事をする必要はどこにもねぇよ……レイコ社長の指示で同じ仕事をする事は今後あるかもだが、プライベートは全くの別だろ。こっからは各々自由行動、お前も自分の好きなように行動しろよ」
「ふむ、ならば私はグラサンに付いて行きましょう。ひとりきりは寂しいですからね、感謝してください」
「いやいやいやいや」
一体何を言っているんだ、こいつは?
「グラサン、私って結構な上玉ですよ! そんな私を放っておくのですか!?」
「遂には自分で自分を上玉とか言い出したか……」
「え、何でそんな可哀想なものを見る目をするんです? 違うんですか? 前のバトルの時、あの変な男がそう言っていましたけど?」
「まあ、確かに言っていたかもだけどよぉ……」
結局、その後何を言ってもシラスは俺の後を付いて来て、やむなしに行動を共にする事になってしまった。マジで一体何なんだ? 何で俺みたいな強面のおっさんを? ……まさかとは思うが、その気があるのか? 一応、揺さぶってみるか。
「お前、俺の事を非常食とか思ってないよな?」
「ギクッ!」
「よし、帰れ」
あったよ、食う気が。




