第34話 調理開始
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『氷砕きの料理人』
分類:領主 レア度:R コスト:青2 タイプ:人間、料理人
攻撃力2/防御力2
【突撃】【吸収】
攻撃した【領主】が【凍結】を持つ場合、その【凍結】を-1し、他の【領主】を【凍結2】にしても良い。
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シラスが招いたのは長い水色の髪を束ねた、冷たい雰囲気を持つ女料理人であった。白と青を基調とした調理服が、尚更にそんなオーラを助長している。
「『氷砕きの料理人』は【突撃】を持っていますので、このターンに【領主】へ攻撃を仕掛ける事ができます。目標は――貴方の『強制鎮座の保管庫』です」
「元はお前のだろ!?」
フミタオシのツッコミも空しく、調理場より氷の包丁を拝借した『氷砕きの料理人』が、指定された『強制鎮座の保管庫』へ攻撃を仕掛ける。破壊するには至らないが、元よりシラスの狙いは他にあった。
「ここで『氷の調理場』の効果を発動。【料理人】が攻撃を仕掛けた時、その対象を【凍結1】にします。『強制鎮座の保管庫』は既に【凍結1】の状態ですので、これに1をプラス――するところですが、ここで更に『氷砕きの料理人』の効果が発動」
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『強制鎮座の保管庫』
分類:領主 レア度:UC コスト:青2 タイプ:ゴーレム
攻撃力0/防御力4⇒2
【門番】【凍結2⇒1】
この【領主】は相手の【領土】に召喚される。
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『カエル森のキングトード』
分類:領主 レア度:UC コスト:緑3無2 タイプ:トード
攻撃力4/防御力5
【跳躍】【凍結2】(new!)
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「攻撃で増やした【凍結】のカウントを、倍付けで殿様カエルさんの方に移します。1体だけ仲間外れは寂しいですからね」
「殿様じゃなくてキングだし、そもそも寂しくも――って、ま・た・あ・し・ど・め、かぁよぉぉぉ!?」
「見方によってはそうかもですね。あ、攻撃時にダメージ分の回復をする【吸収】もあるので、それも適用されます。悪しからず」
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シラス ライフポイント3⇒5
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【凍結】がなくなるのを待っても駄目、新たに【領主】を出しても駄目、駄目駄目駄目――フミタオシは完全にシラスの術中に嵌り、抜け出せない状態となっていた。しかも、このターンのシラスには【税】に余力がある。つまり、まだフミタオシにターンは回って来ない。
「ええっと~、まだ私の【税】が2も残っているので……これを使いましょうか。『氷菓子の切り落とし』を発動します」
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『氷菓子の切り落とし』
分類:戦略 レア度:UC コスト:青1無1
フィールド上の【凍結】になっている【領主】の数だけ、相手【カードマスター】にダメージを与える。
自陣に【料理人】が居る場合、1枚ドローする。
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フミタオシが有する【凍結】した【領主】達、その氷部分の端っこが『氷砕きの料理人』の手によって両断され、直後に彼の方へと放出される。計3つの氷のつぶては、フミタオシの顔面、腹部、股間へと吸い込まれ、直撃と共に鈍い音を奏でるのであった。
「ぐぅぅぅあああッ!?」
「うわ、いたそ。貴方が悶え苦しんでいるこの間に、私はカードを1枚ドローしますね」
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フミタオシ ライフポイン11⇒8
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フィールド上に居る【凍結】した【領主】の数だけダメージを与える『氷菓子の切り落とし』は、それだけに留まらずシラスの手札の補充も行っていた。しかし、今のフミタオシにそんな事を気に掛ける余裕はなく、氷の三連撃が生じさせた痛みに耐える事で精一杯のようである。
「~~~ッ……!」
「あれ、まだ我慢している最中です? 私、ターンを終えちゃいますよ?」
「て、てめ……!」
「あ、起き上がりましたか。うーん、フミタオシさんって何度もここを利用している割に、痛みに強い感じじゃないですね? ひょっとして、痛いのに慣れてなかったりします?」
「ッ! へ、へへっ、何を世迷言を……そんな訳ないじゃんかよ~? 演出よ、演出。こうでもしないと、盛り上がりに欠けるだろ? そういうお前はどうなんだよぉ~~~?」
未だ激痛が全身を走っている最中だが、フミタオシはある事を実行しようとしていた。ここで話に乗り、シラスの時間を消費させる。相手がアホであれば4度目のペナルティが発生し、バトルどころではなくなると、何ともみみっちい作戦を立てたのだ。もちろん、時間の事はシラスも意識している……が。
「私ですか? う~ん、そうですね~……折角の機会なので、リアルダメージとやらがどの程度のものなのか、ちょっと体験してみるとしましょう」
「……は?」
が、むしろシラスはそのペナルティを自ら受けようとしていた。こんな機会は滅多にないから、ちょっとした記念に、そんな風に何とも軽いノリだ。
「いえ、痛みを受けるにしても、貴方如きにダメージを食らわされるのは癪じゃないですか。なら、ペナルティの方で試してみようかな、と」
「へ、へへっ……馬鹿なのか、お前?」
「むっ、馬鹿とは失礼な――」
そして、その時はやって来る。無敵の肉体は一切ダメージを負っておらず、体のどこも欠損していない。だと言うのに確かにこの時、シラスは四肢が千切れるような痛みを体験していた。加えて頭部には、容赦なくハンマーを叩き込まれたかの如き衝撃が――直後にガクンと崩れ落ちそうになるシラス。そんな彼女を前にフミタオシは、最早笑いを我慢できる状態になかった。
「へ、へはははははははッ! へはっはっは~~~! おいおい、本当に馬鹿なのかよ、アンタ!? 自らペナルティを食らいにいくとか、正気の沙汰じゃないぜぇ!? しかもそれ、4度目のだぞ、4度目! 男のチキン野郎でさえ、3度目のペナルティで死にそうになっていたんだ! 今お前を襲ったのは、間違いなくそれ以上の痛み! とても耐えられるもんじゃないぜぇぇぇ!? へへへへはっはっはぁ~~~!」
「……ふう。確かに、これは結構効きますね。思わず倒れてしまうところでした。まる」
「へはははははは――は、はぁ?」
ご機嫌な高笑い中のフミタオシであったが、思わずそれを止めてしまう。向かいへと視線を戻した彼の視界には、すっかりと元の状態に戻ったシラスの姿が映っていたのだ。汗のひとつもかかず、呑気に首を鳴らしている。
「じゃ、これでターンエンドで――」
「――ま、待て待て待て、待てよおぉい!?」
「何ですか? 流石に痛みは食らい飽きたので、もうターンを回しますよ?」
「いや、ちがっ、って、ええっ!?」
目の前の光景が信じられず、軽い錯乱状態に陥ってしまうフミタオシ。一方のシラスは何とも涼しい顔をしており、先の痛みの事など、もう全く気にしていないようだった。
「早くしてくれます? さっきの痛みでお腹が空いてしまったので、そろそろ最終調理工程に入りたいんです。それとも……貴方もペナルティを味わっておきます?」
――グゴゴゴゴゴッ!
「ひっ!」
圧のある無表情、切れ味のある台詞、そしてそれらバックで鳴り響くシラスの腹の音に、思わずフミタオシは怯んでしまうのであった。




