第32話 凍り付くカエル森
「フミタオシのクソがこらぁぁぁ! 今度こそ死ねやぁぁぁッ!」
「ルーキー相手にハンデ貰って恥ずかしくないんか我ぇッ!?」
「嬢ちゃん遠慮はいらねぇ! 派手に爆発させて散らせてやれぇぇぇ!」
いつの間にか増えていた観客達。しかも、何やら罵倒の矛先はフミタオシに集中しており、相当に恨みを買っていないと出ないような叫びがそこかしこで上がっていた。
「おお? こいつら、一体どこから来たんだ? 俺らが入って来た入口からじゃないよな?」
「彼らはカードマスターじゃないからね、また違う入口からやって来たのよ。にしても、この短時間でこれだけ集まるのも珍しいわね? あのフミタオシって奴、何かしでかしたんじゃないかしら? まあ、想像はつくけど」
「確かになぁ」
敵意100パーセントの罵倒に耳を傾けると、その理由はグラサンにも何となく予想できた。どうやらあのフミタオシという男はレベル2、レベル3の間で行ったり来たりを何度も繰り返しているらしく、レベル2に戻って来ては自分よりも弱い者を狙っては、この裏闘技場で命を賭けさせているようなのだ。彼の手によって散っていった者は数知れず、かと言ってルール違反をしている訳でもない為に、特にお咎め受ける事もなく――だが、お上や観客に目を付けられていない訳でもなかったようだ。
フミタオシのプレイスタイルは、パワーカードで弱者をいたぶるだけのものであり、激闘の果てに血を見る事を目的とした観客達にとっては、そこまで面白いものではなかった。そこに技術の介入は殆どなく、またフミタオシ自身からも命を賭けている、という気概が全く感じられない。彼らが真に欲しているのは、全身全霊でカードで殺し合う命のやり取りであり、一方的に弱者を追い詰めるだけのワンサイドゲームなどではないのだ。そんな弱者ばかり狙う厄介者が、ハンデ戦という初めての試みを引き受けた。これは今日、何かが起こるんじゃないか? と、そんな期待を込めての集客なのである。
「まあ、これもある意味ヒールの役割を全うしてんのかね?」
「そうね。けど、物事には限度というものがあるわ。チマミレはこの闘技場の統括者として、最後にフミタオシを面白おかしく使う気なのよ。シラスに負けたらそのまま命を散らして、勝ったとしても私の飼い犬にさせる――どっちに転んでも、トータルでは自分が得をするつもりね」
「うへぇ、怖い女だ」
グラサン達が状況確認をしている間にも、ゲームは動いていく。2ターン目、話題沸騰中のフミタオシの手番が回って来たのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2ターン目
フミタオシ ライフポイント11 手札5
『緑の領土レベル1(緑1)』=『カエル森のトード(1/2)凍結2』
シラス ライフポイント3 手札6
『青の領土レベル1(青1)』=空
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「俺様のターン、ドロー!」
「おやおや、随分と人気者のようですね。羨ましい限りです」
「チッ、済ました顔をしたがって。このターン攻撃を防いだところで、お前がピンチだって事には変わりねぇんだぜぇ? 俺様は『生湿るカエル森』を設置する、へへへっ……!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『生湿るカエル森』
分類:領土 レア度:R
レベル1 緑1
レベル2 緑2
この【領土】の【領主】が【トード】である時、1ターンに1度緑の【税】1を消費し、無の【税】2を生み出す事ができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フミタオシが新たに出した【領土】は、水分を多く含んだ深き森であった。その名の通りカエルが好みそうな環境である。
「ほう、Rカードをお持ちですか。やりますね」
「ハッ、そんなに驚く事か? このくらいで驚いているようじゃ、上ではやっていけないぜ? ここから緑2の【税】を使い、『成長するカエル森』を発動する!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『成長するカエル森』
分類:戦略 レア度:UC コスト:緑2
名前に【カエル森】がある【領土】を対象に、そのレベルを1上げる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「このカードの効果により、さっき出した『生湿るカエル森』が一気にレベル2にまで成長する! この恐ろしさの意味が分かるかぁ~~~!?」
「ハァ、まあ……えっと、ターンを貰っても?」
「……チッ、ターンエンド」
自身のターンが終了した事で、『カエル森のトード』が【凍結1】へそのカウントを減らす。順当に進んでいけば、次の自分のターンを終えた瞬間に氷は消えてなくなるが、それまで攻撃はできない。何ともやり辛い展開だ。しかし、今のフミタオシはそれ以上に、何をしても態度が変わらないシラスにやり辛さを覚え始めていた。
本来であれば1ターンに1度しかできない、【領土】のレベルアップを2度も行う。これは以降のターン、フミタオシが相手よりも潤沢な【税】を使える事を意味している。先ほど出した『生湿るカエル森』の効果と併せれば、シラスより2も多くの【税】が使える事になるのだ。この爆発的な有利性の前に、大抵の相手は焦りを覚え、ミスを誘発してしまう――筈だったのだが、どうにも今回は違っていた。
(ふん、まあいい。俺様のデッキは潤沢な【税】から大型のモンスターを召喚し、そこから更なるコストの踏み倒しを狙う超パワーデッキ。昨日今日活躍し始めたルーキーの軟弱なデッキじゃ、欠片も対応なんてできないぜぇ~~~?)
自分がやる事は単純明快、その事を冷静に頭で整理し直し、心に再び余裕を持たせるフミタオシ。
「私のターンです。ドロー、『青の領土』をレベルアップして、またドロー……そうですね、このカードを使いましょう。青の【税】を2つ使います」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『強制鎮座の保管庫』
分類:領主 レア度:UC コスト:青2 タイプ:ゴーレム
攻撃力0/防御力4
【門番】【凍結3】
この【領主】は相手の【領土】に召喚される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シラスが召喚したのは白く巨大な箱、ではなく保管庫であった。登場した時点で完全に凍り付いており、全く動こうとする気配がない。しかし、それ以上に特徴的だったのは――召喚されたのがシラスの『青の領土』ではなく、フミタオシの『生湿るカエル森』であった事だ。
「なっ……!? てめ、俺様の領土に!」
「私からささやかながらのプレゼントです。コスト2にしてはそこそこのスタッツ、また【門番】持ちと優秀ですよ。あ、私はこれでターンエンドで」
「クッ……!」
意図せぬ【領主】をプレゼントされ、フミタオシが顔をしかめる。
(クソ、『生湿るカエル森』の効果は、そこに居る【領主】のタイプが【トード】でないと意味を成さねぇ……! 召喚と同時に【凍結】しているから、こいつで自爆特攻もできないじゃないか……!)
それもその筈、狙っていた戦術がまんまと潰されのだ。また、理由はそれ以外にもあった。
(なるほどな、シラスのデッキは相手の出方をコントロールし、フィールドを支配するタイプか。出せる【領主】の数に限りのあるこのゲームじゃ、その枠を不要物で埋められるのはキツイわな。俺とメイド達ならその都度【継承】していけるが、フミタオシのような単純に大型を並べる事を狙ったコンセプトじゃ、ぶっちゃけ相性が悪い。あとはフミタオシが、こういった場面を想定したカードを入れているかどうかだが、今は――)
――そんな事よりも酒がうめぇ。グラサンは心からそう思った。




