66
美術館の人々を解放できると言うと、考古学者は半信半疑だったが、ものは試しと準備を整えた。
美術館の職員も立ち会い、真偽の確認をする。女神は、紳士とイヌにかけられた魔法の解除を始めた。
女神の触れたイヌのショーケースが、空気に溶けるように消えていく。すべて消え去ったとき、イヌの時間が動き出した。周囲の変化に気づいたイヌは、辺りを見回して、怯えた。
それでも、紳士のそばから離れようとしない。二人がどんな関係かは明らかだ。早く会わせようと、女神は紳士にかけられた魔法を解除する。
一歩踏み出した紳士は、周囲の変化に固まった。理解が及ばないのか戸惑うばかりだが、鳴き叫び飛びついてきたイヌを、優しく抱き止める。
「どうした、そんなに興奮して。さっき留守番させたばかりだろう。
しかし、お前も一緒か。ここはどこだ、あんたたちは誰なんだ……?」
この場の誰もが、時を超えて目覚めた二人を、息を呑んで見守っていた。
二人を休憩できる部屋に案内して、話をした。いきなりすべての事実を突き付けるのはためらわれるので、ショックの大きいであろう事実は隠した。
「……私たちが、魔王に封印を? 確かに、そんなおとぎ話はある。遠出をしたり夜更かしをする子どもをしつけるために、魔王にさらわれるぞと言って聞かせる話だ。本当に魔王が実在するとは、それも何の価値もない私やこの子を狙うとは、信じる方がどうかしている。
これからどうなるにしても、この子だけは面倒を見てあげてくれないか。唯一の家族だ」
紳士は、すっかりくつろぐイヌを、愛おしくなでた。
とりあえず美術館で過ごしてもらうことになった。美術館の上、王国に報告が行くと考古学者は言う。
「大事になるでしょう。さすがは女神の鉄球です。
そして、そちらの方が誰なのか、予想はつきますが追求はしないでおきます」
考古学者は、笑った。あからさまに女神だった。
「それとは別に、聞かせてください。どうやって魔法をといたんですか?」
女神が説明すると、考古学者は残念そうだった。
「素晴らしい技術です。とても真似できそうにない。
しかし、そうですか。あの魔法には、そんな秘密が……」
何か含みのある言葉だった。




