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「聖女から本を借りてきたから、読み聞かせて」
フルルは俺にそう言ったが、俺もほとんどの字を読めない。
「じゃあ、侍女に頼もっか」
忙しいだろうに、侍女は快く引き受けてくれた。
国家に仕える女将軍の話だった。戦いの中に生きる彼女の壮絶な人生と、戦友や王子、敵将までをも巻き込むラブロマンスが描かれている。
「恋愛ってやつか……」
フルルは難しい顔をしている。
「二人は恋愛をしたことがあるの?」
そういうのとは縁がない人生だった。
「わ、私も」
「聖女はどうなのかな。聖女ー!」
フルルは聖女の部屋に駆け込んだ。
「……あるわけない」
「なんだよー。誰も経験ないのかー。
じゃあ聖女、私と恋愛してみる?」
フルルは聖女に顔を近づけた。フルルの外見は大したものなので、様になっている。
「し、しない! からかわないで! 出てって!」
侍女を残して、フルルと俺は追い出された。
「本気だったんだけどな。怒らせたかな」
フルルは反省していた。
侍女が戻ってきた。
「フルルさん。聖女様ともう一度話をした方がいいと思います。お二人には仲良くなってほしいです」
「うん……」
フルルは、とぼとぼと歩いていく。体を隠して、こっそり部屋を覗いた。
「聖女、怒ってる……?」
辛そうな聖女は、首を横に振る。
「怒鳴ってごめんなさい」
「私こそごめんね。まだ友だちって思っててもいい?」
「……うん」
聖女は、悲しそうなフルルにうなずいた。
「私、変だよね。聖女は私たち、オートマタを知ってる?」
「オートマタ?」
「人間の形をした作りもののこと。お母様と私たち姉妹の他には、数えられるくらいしか意思を持ったオートマタはいない。会う機会もほとんどなくて、ずっとお母様と城に二人きりだった。
城に、人間が捕らえられたことがある。こっそり会って、話をした。私に外の世界を教えてくれた。もっと外の世界と人間を知りたくなったから、ここにいる。
みんなと違いすぎて、時々思う。私はここにいてはいけないんじゃないかって」
聖女はフルルの手を取った。
「友だちになってくれて、ありがとう。本当は、嬉しい。私も変な人間だから、私を嫌いになるかもしれないけど、それまで友だちでいてくれる?」
「いーや、私の方が変だから、先に嫌いになると思う」
「私の方が変」
しょうもない言い争いをした二人は、笑い合った。




