表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
1/28

1.はじまり

ふと、気がついたら知らない街にいた。


石造りの道はところどころ凸凹としており、時折遠くを通る馬車は文字通り跳ねるように通り過ぎていく。建物もコンクリートではなく、どこか中世を感じるような作りをしている。街行く人々は簡素な作りの服を来ており、時には鎧をきて剣を腰に下げたり、若い見た目の人が大きな杖を持っていたりと現代ではあまり見ない格好のものばかりだ。


そもそもどうして私はこんなところにいるのだろう?

()()()()()()()()()()いつも通り安らかな眠りに落ちて、またお腹が減ったら起きるだけだったはずなのに。


私は眠ることが大好きだった。中学卒業と同時に両親が強盗で殺され、その遺産を狙ってくる煩わしい親族や、勝手に同情して可哀想な子供だと囃し立てる周囲から何もかもをシャットダウンできるのだ。

両親の残してくれた家でそれらすべてを拒絶すれば、やがて興味を失ったかのように現れなくなった。だがその時にはすでに私は眠ることの虜になっていた。柔らかな布団に包まれて、微睡みの中で何も考えずに過ごすことが、何よりの幸せだった。


幸いにも?両親の遺産は多く、私は高校にも行かずにただ眠るだけの生活が過ごせていた。むしろ多少豪勢な生活をしてもまだお金は残りそうなほどだった。

そんなわけで、私はただ怠惰で、眠ることが大好きなだけの十六歳。そのはずだったのに。



「これはつまり…異世界転移?」


殺される前、父は異世界モノのファンタジー小説を読み漁っていた。食事の時間でも本を読もうとして、よく母に怒られていた。そんな父が時折話す単語に、今の状況は似通っていた。


周囲をきょろきょろと見ていると、自分がどこか路地の出入り口にいたことに気がついた。邪魔になるかもしれないので、少し横にずれて現在の自分の持ち物を確認する。

持っているものは、いま着ている普段着のワンピースと靴…知らない間に身に着けていた黒いショルダーバック。ショルダーバックを開けて中身を確認すると、そこには何も入っていなかった。…と言うより、真っ暗な闇が広がっていた。


これ、手を入れたら腕がなくなるとかそうゆうやつか…?疑問に思いながらも、バックに腕を入れてみる。すると、手先に紙のような感触を感じ取れた。出してみるとそれは文字通り紙で、誰かからの手紙のようだった。



”業務連絡。

転移者の有する金銭、またその価値のあるとしたものを転移先の金銭に交換できる物と変換済み。

転移先の言語をインストール済み。

転移先の能力をインストール済み。注意、これは転移者の潜在的な能力に比例する。”



「…業務連絡かあ。」


どうやらこの場所で金銭に交換できる何かを持っているらしい。この紙と同じようにバックに入っているのだろうか?

気になることは色々ある。どうして異世界転移なんてしているのか、誰がこんなことをしたのかとか。でも、そんなこと考えてもしょうがないし、私がやりたいことに変わりはない。

私は眠りたいだけなのだ。温かい布団があって、静かな時間が過ごせればそれでいい。


なってしまったことには変わりないし、と私は足を踏み出す。まずはお金を手に入れよう。この世界の言語がインストール済みらしいが、この国?の言葉がどこまで理解できるのかわからない。今後のためにも挑戦は必要だろう。


街を歩いていると、すれ違う人たちの会話が聞こえてくる。どこぞの誰が病気をしたとか、結婚した、出産した、と聞いている限りではおかしなところはない。そんなことを聞きながら歩いていると、気になる言葉が出てきた。冒険者、だ。

私が知る冒険者とは何でも屋のような職業と聞いていたような気がする。この世界の冒険者達がどんな組織に加入し、どんな運営をされているのか気になる。まあそこで働きたくはないのだけれども。


しばらく歩くと門が見えてきた。どうやら街の出入り口の方へと歩いていたようだ。そこでは多くの人が待ち合わせや売買、出入りの待機などをしていた。入ってくる人たちは多少の言葉を交わすと何か見せるわけでもなく通り過ぎていく。どうやら出入りに書類や道具などは必要ないらしい。


「…そこまで管理できるほどの技術はない、のかな?でも不法入国、とか言われなさそうで安心か。」


鎧を纏う大柄な男や、多くの荷物を載せた荷車をつれている商人風の男、おそらく普通の娘たちも特に何かを見せてはいない。だが時折別の場所に連れて行かれている人もいるようだし、怪しそうな人だけ詳しく話を聞くのかもしれない。

入った人の情報を書き留めている様子もないし、ほとんど出入りは自由ということだ。


もとの世界と同じかは分からないが、このままこの街の玄関口で換金所などがないか探すのがいいだろう。相場などわからないが、これまでの経験から相手に悪意があるかどうかは感じ取れる。多少損をするのは構わないが、騙されるのは気分が悪いし避けるべきだろう。


「そういえば、金銭に交換できるものってなんだ…?」


人だかりの中を歩き、出店で売られている食べ物や店を確認していると宝石店を見つけたところでバックの中にある物を確認していなかったことを思い出した。また通る人の邪魔にならないように端により、バックに手を入れてみる。換金できるもの、と思っていると何かが指先に触れる。周りに見られないようにそっと取り出す。そこには手のひらからはみ出るほどの大きさの綺麗な石を持っていた。

これ以外にも何かあるかと空いている方の手をバックに入れる。まだ指先に何かが触れるため、他にも換金できそうなものはありそうだ。綺麗な石をバックに戻し、先程みつけた宝石店で売ってみるとしようか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ