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「保坂君、大石さん来てるわよ」

「そうなんだ……ごめん先生。まだ友だちと話す気分じゃなくて」

「分かった。代わりに受け取っておくわ。もし話せるようになったら、お礼を行っておいてね。ここ最近、保坂君に毎日ノートとプリントを持ってきてくれてるのよ」

保健の先生がカーテンを開けてくると察すると、僕は慌てて手元のノートを毛布の下に隠した。大人たちには、僕は今、父親を亡くして気力が無くなって寝てばかりいると思わせなければならない。

「保坂!」

先生がベッドの仕切りのカーテンをほんの少し開くと、保健室の外からこちらを覗き込んでいるショートカットが目に入った。

「大石」

「ごめんね、話しかけちゃって。まだ一人になりたいよね。でも、顔見られて安心した」

「ああいや……。こちらこそずっとお礼言えてなくてごめん。ノートとプリント、書き込みまでしてくれて助かってる。ありがとう」

「え、そんな。いいのいいの。気にしないで!」

 大石のクリッとした目が四方にキョロキョロと忙しなく動いた。

「私だけじゃなくて、タケルたちもみんな保坂に会いたがってるから。待ってるからね!」

「うん。……サンキュー」

 また来るね、と大石は元気よく手を振って帰っていった。

 あの大石美月が僕のためにノートを取ってくれて、毎日届けてくれる。父さんを亡くす前の僕だったら、飛び上がって喜んだだろうに。僕の頭はもう、別のことでいっぱいだったのだ。

 あの時—父さんの密葬の日。刑事さん二人が、母さんと何人かの親戚のおじさんたちと早で話していたこと。姉ちゃんが邪魔をしなければもっと聞けていたのだけど、僕が正確に聞き取れたのは「トウモロコシのヒゲのような」という言葉。おそらく、父さんが殺された現場に落ちていたんだろう。しかし、なぜそんなものが? しかも「ヒゲのような」と言っているということは、あくまでトウモロコシのものではなく、成分が似ているだけということなんだろうか。正直、見当がつかない。

だから今日は、父さんが犯人に殺された場所へ一人で行ってみることにした。

「保坂君、一人はダメよ。犯人が捕まるまでの間はみんな集団下校になってるのに。ましてや保坂君は被害者の家族—」

「先生ごめん。どうしても気分が悪くて。今すぐ家に帰って薬を飲んで、自分のベッドに寝たいんだ。」

「お母さんのお迎えは」

「僕の家すぐそこなの知ってるでしょ。大丈夫」

みんながまだ午後の授業を受けている13時ごろ、僕は保健室を飛び出した。


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