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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
石胎箴緯
302/403

桃霞、司隷にあそんで天仙を捜すこと②


 わけがわからないが、いまはお師匠様からいいつかったお遣いを果たすのが先だ。桃霞はすこし考えると、はたと気づいた。


「あっちの方が、お年寄り」


 近くに昇るものよりは、もうすこし先にある気配のほうがより薄い。麻姑様はお師匠様に匹敵するかそれ以上をいきたお方だ。そんな女人(ひと)が正体を潜めているのだから、こんな留めも知らぬ者よりもはるかに巧くやるだろう。

 つまり、より弱いほうが当たりなのだ。

 だてに天仙境へと昇ったのではない。桃霞はすこし利口になった自分に満足しながら、弘農郡へと入った。



 目的の人物は、おもうよりはやく見つかった。

 弘農城、殿内。三人の人物がなにやら話しあっている。そのなかのひとりが、彼女の捜す天仙・麻姑が姿を化身した者で間違いないようだ。さすがに巧く化けているが、野生の嗅覚をかねそなえる桃霞の鼻までをごまかすことは出来ない。



「みつけた······」



 殿内がみおろせる庭木の太枝に身を潜めながら、桃霞は虎の眼をもどしながら呟いた。

 お尻のほうから出来るだけ静かに地上へとおりると、懐から例の折り紙をとりだす。


「ここ、弘農の城。とどけて、お師匠に」


 ふっと掌にのせた白紙の鳥を空へとむけると、鳥はまるで生きているかのようにふるっ、と翼を震わせて風にのり、青みを増しつつある空へ吸いこまれるように消えていった。






 男は微かなその気配に気づいて、空へと目をむける。そこには何も見えなかったが、男には、いや麻姑にはわかっていた。


 気づかれたか。だが、だとしても······


「もう秋がくるか。はやいな」

 何気なく呟いたその一語の意味をはかりかねたか、のこるふたりの男はたがいに顔を見合わせるのだった。







 天仙境。

 華夏堂の庭で愛らしく咲きほこる花々の様子を眺めてまわっていた太玄女のもとに、桃霞のはなった使令が舞い戻った。

 折り紙の小鳥は天仙境をつつむ風の渦にも器用にのり、はるか上空から滑空してスッ、と太玄女の掌におさまった。


「お師匠様」

「そのようだ。あの娘がうまくやったらしい」


 太玄女が指先でわずかにふれると、折り紙はほどけて一枚の紙片にもどった。


「ふむ······弘農か。おもったとおりじゃな」



太玄女はふわりと羽衣を呼びよせると、優雅な所作で袖をとおした。


「お師匠様、我々もお供を」

「案ずるな、相手は麻姑ぞ。仰々しくしてお偉方に目をつけられると困るでな」


 侍女らを諭すと、足元へ飛来した大鵬にのった太玄女は、そのまま地上をめざして降っていったのだった。



応援していただいた皆様、読んでくださった皆様へ、あらためてまして。

ありがとうございます!


表現を微修正しました。


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