李傕、東への門を閉ざすこと
三部あります
「ええい、まったくどういうつもりだ!」
未央宮、執務室。
李傕は苛立たしげに叫び、文机を蹴りとばした。
「この儂をさしおいて張済に詔を発するだと!? いったい何を考えておられるのだ、陛下は!」
「おそれながら」
この急報をつたえた本人、楊定はみじろぎもせずいった。
「そう案ぜらるることもないかと。陛下は純粋に閣下と郭将軍がふたたび手をとりあうことをお望みなのでは? 張将軍の意図もあらかじめ伝えられておったわけですし」
「なにを悠長なことを! これで張済の奴まで堂々と兵を率いてここへ入ってきてしまうではないか!」
李傕はおなじく喚びつけておいた謀士らへとふり向いた。
「お主らはどうみる。意見を申してみよ!」
「は」と謀士らは顔をあげた。
彼らは机上になげだされた竹簡をとりあげ、こぞって目を落とす。
「漢の天子たる朕が、漢の驃騎将軍たる張済に令をくだす。ただちに長安へはいり、李傕、郭汜二将を仲裁せよ。ゆめゆめ遅れるなかれ。心して朕と朕の民を安んずるべし、ですか······
まず、この報はどこからいでたものでございますかな」
「某からだが」
楊定の返事に、彼らはジロリと視線をむける。
「某の配下づたいに帝室の内官が伝えてきた。よりによって詔の中身が漏れるようでは、奴らも一枚岩ではないとみえる」
「なるほど」と謀士のひとりはうなずいて、しばし考えをまとめる時を稼いでから李傕にむきなおった。
「これは少々まずかろうと存じます」
「申してみよ」
「は。まず密詔というのが気に入りませぬ。たんに命をくだすだけならば、わざわざこのような仰々しい手間を割くこともございますまい。そしてここ」
と、彼は密詔が写された木簡のある行をなぞった。
「閣下と郭将軍をわざわざ名指しているところ。さらに御心を安んじるべし、とあるところからも、なにやら含みが感じられまする」
「同意にござる。忘れてはなりませぬ、陛下の後ろにはずる賢い朝臣どもがいるのです。もしあらかじめ帝室と張将軍との間に密約でもあらば、これは閣下と郭将軍を除けという号令に他なりませぬぞ」
やはりそう解くか、と楊定こと泰阿は心中で侮蔑の色を濃くした。
他者を蹴落とさんとする者は、つねとして他者に蹴落とされることを恐る。自己を守るためにいらぬ勘ぐりを働かせてしまうものよな。
謀士らの意見は李傕の意見と一致していたらしく、意を得たりと彼は大声で命をくだす。
「これより東方への備えを厚くせよ! 張済が都へ入ることを許すな!」
ハッ、と侍立していた武将は礼をし、軍門へ指令をつたえるべく、あわてて駆けだしていった。
まさに奸知を好む者は、奸知によって滅ぶ。泰阿のいうとおり、他者を容れぬ者、李傕は、その疑心の深さゆえにみずから罠にはまるのだった。
李傕側だけ軍師の候補が······
人によると、このときまだ李儒はいきていた(腹違いの兄である少帝を董卓の命で毒殺し、献帝にうらまれたが李傕らのとりなしによって助かった)らしいので、になうなら彼なのでしょうが······でも李儒ではちょっと賢すぎるので展開上都合が······ゴニョゴニョ。




