表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
石胎箴緯
271/403

赤霄、月塊の探索にもほくそ笑むこと


 いきなり溝尾(みぞおち)に一撃くった形となった邂逅(かいこう)から一夜があけた。


 月塊の察知したとおり、この長安には人非ざるものらが潜伏していた。しかも仙人と妖が両方いて、あろうことか組してなんぞ企んでいるとは。まったく思いのほか、異常事態であるといえるのではないか。


「ほっとくわけにゃいかねェ······って言いてぇところだが」


 かりに奴らが人の世に善からぬことを企んでいたとして、だ。止められるのか? 俺に············

 今の、とはいわない。あのお付きの者──赤霄(せきしょう)とかいうのにしたって、妖としては、ちょっとお目にかかれぬほどの大立者だ。仙妖とか呼ばれていたから、れっきとした仙格の持ち主なのかもしれない。さらにその上には、あの麻姑(まこ)とかいう天仙までいる。


 月塊は舌打ちすると、えいやっと起きあがる。とにかく奴らがなにを画策しているのか、それを確かめねばなるまい。




 皮肉なことに、いまの長安では妖のこのむ場をさがすのに苦労はしない。

 目をつけた者は大胆にも昼の日中、辻をまわって死霊を喰らっていた。酔ったような足どりなのは、濃すぎる邪気のなか喰いすぎたせいだろう。


「ちえっ、こんな臭ェなかによくいやがるぜ」


 月塊が鼻をつまみながら遠巻きにみつめているのは、あの夜、赤霄のもとに集まっていた手下の妖の一体だった。どうやら幽鬼の一派らしい。ああして本性さらけ出していればともかく、まともにしていれば人には見分けがつかぬだろう。群衆に紛れこむには中々うまい選である。

 仲間のなかでも食い気ばしった奴らしく、独りでウロついていたればこそ、こうして尾行もかなうというものだ。



 妖はフラフラと大城門をでてしばし歩き、郊外の古邸の前で足をとめた。そこでさすがにこのままではまずいと思ったか、ぶるぶると二、三度頭をふって酔いを追いやると、土壁の門から家内へ入っていった。


「なるほど。ここが野郎どものヤサってわけかい」


 あたりをひと通り見渡した月塊は、背後に陣どる山の木陰から忍耐づよく監視することにした。



 これがなかなかに神経によくない仕事だった。なにせあの中にいるであろう赤霄は、こちらが追っているかもしれぬことをわかっている。当然手下にも指示は出ていようから、警戒の度合いはけっして低くはなかろう。囲まれたらそこで終わりだ。

 月塊はじりじりと焦れる時を忍んでまった。


 ありがたいことに、つぎの動きをみるまでには、それ程長くはかからなかった。

 二日ほどして、邸の前にひとりの将が従えた数人の兵──これは本物の──が馬に乗ってのりつけると、中に入っていった。ややあって、その者らと、それを見送るようにさらにふたりの者が邸の奥より現れる。


「! 野郎だ!」


 月塊は身を乗りだした。

 たしかに間違いない。邸の主人らしき人物の横に立っているのは、あの赤霄(せきしょう)だ。


「ってこたぁ、あっちのが······」


 あの夜、天仙の麻姑が術かなにかで化けていた男か。

 すわ目を眇めてみるが、さすがに見破れるわけはない。あのときは一瞬であったし。おまけに人間の、それも(ヒゲ)をはやした男の顔なんぞ皆おなじにみえる。

 だが。いや待て?


「······あの人間、なんか見覚えがあるな」


 そう、そうだ、あの時。涼州軍が進退極まったあの日、軍議で──



 男は、やってきたひとかどの将らしき人物に臣下の礼をとっているようだった。そうして将が馬にのって去るまで見送って、また邸にはいってゆく。


「······ふん。じゃ、次はあの主か、去った将のほうを当たれってことか──っと······」


 いけない。手下どもが出てきて邸の四方を囲むように守りにたった。これ以上ここにいたら気取られるやもしれぬ。


 月塊はやむなく邸の監視をあきらめ、かわりに去った将のほうを追うことにきめ、静かにその場を後にした。




 後を追うこと数日。将は弘農へとはいった。そこで月塊は、その将が、この弘農に居座る軍の親玉、張済の甥、張繍(ちょうしゅう)であると知った。






「······如何した、(しょう)よ」


 無駄口とはいわぬまでも、かるい冗談で気を利かせるくらいはする赤霄が、いつになくおし黙っている。それを(いぶ)かって邸の主は問うた。こちらはいつものからかう調子だ。


「······いえなに、どうもここを勘づかれた様子で」


「······二将の手の者か、それとも蔡琴箭のか」


「いえ。今はそのどちらでもない、まあ言ってみればオマケですが。とにかく知られました。なかなかしつこい奴のようで」


 主は髭をなでながら一寸考えた。


「二将へ()ると思うか」


「おそらくそれはないかと。拠るならばまず朝廷側でありましょう」


「ならば、今はよい。泳がせておけ」


「······しかし狩れるならばそうしておくに越したことはない······」

赤霄はあらためて居ずまいをただし、主に請う。


「ようございますか、賈文和様」


 窓からはいる光を背に受けて、賈 詡はニヤリと口元をゆがめた。

「まかせよう」



次回は土曜日に更新いたします。


誤字を修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ