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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
山海魔経
258/403

【四章完】時はめぐりて壮士志を得、琴箭、凰の背にてしばしのまどろみをうること


「ちょいと御免よ」


 通りを行く人々はその馬の背につまれた荷物にギョッとして身を固める。だがその主、単福は暗い表情のまま、それらを一顧だにすることなく進んでいく。

 馬の背にはひとり、男がうつ伏せに載せられている。馬の揺れなしではぴくりとも動かない。


 そのまま里の墓地へときた単福は、おなじく馬の背にくくりつけてきた(すき)で、ザクザクと土を掘り返しはじめた。


 あすこにいるのは(きん)。彼が父とも頼む恩人を殺した仇。

 琴箭らとはぐれて以降、しらみ潰しに里を巡った。そして天の助けもあってか、なんとか見つけ出した。野郎、天師道の徒だのは真っ赤な嘘で、たんに罪科を免れんとしてのことであった。


 おかげで余分な苛責もなくやれた。


 もちろん正々堂々とした果たし合いにおいて討ったのだ。まあ、相手方はこっそりふたりほど雇ってはいたが、こちらに恥じ入るところは一切ない。



「ふうっ······」


 情けをもって埋葬だけはすませた単福は、恩人の墓に供える(まげ)元を布でくるんで胴巻きにいれる。


「······すんだ······すんだぜ、旦那。姐さんたちも。願いが叶うことを願ってるぜ。俺はひと足先に帰らせてもらうよ」







 そして月日は過ぎゆき、二十年後。


 荊州、新野城内。

 大胆にも往来で大言壮語な詩に節をつけ練り歩く男の姿があった。


「もし、そこの御方」


 横合いから呼び止められみると、ひとりの貴人とおぼしき長身の男が、拱手の礼をとってこちらをみつめている。背後にはさらに長身の、横にもガッチリとした偉丈夫がふたり控えていた。貴人は慎みをもって訊ねる。


「貴方はひょっとして、伏龍先生か鳳雛先生ではありませぬかな?」


 単福はその態度に、こちらもあらためて威儀を正しながら応える。


「失礼ながら人違いでござる、劉玄徳様。拙者は単福。一介の流れ者にすぎませぬ」


 玄徳はすこし落胆したようであったが、さりとて彼の涼やかな面に智の閃きを感じたか、単福を酒亭に誘った。

 天下について様々な論を交えて後、単福はおのが身分と本名を明かし、玄徳に仕えることとなる。

 その際、関雲長の推薦があったことはささやかな秘事である。







 なんと優美な時であったろう。

 自分たちはいま、聖君しか乗ることの出来ぬ背に乗って大空を舞っているのだ。子供の頃に描いた夢が(うつつ)になったようで、琴箭はゆったりと移りゆく山河に見惚れた。


 さすがは伝説の霊鳥。常世と現し世の狭間を渡るのに、厄介な窓という仕組みなぞ必要としなかった。

 その妙なる美声をひと声発せば、目前の虚空が揺らぎ、それを突っ切ると、もうそこは琴箭らの見慣れた山並みの風景だった。季節の頃も春のはじめといった風で、どうやらきちんと戻ってこられたらしい。してみるとこの鳳凰は、山海経のうちに模写された、いわば複製の方ではなく、なんと実在する正真正銘のホンモノということになるのではなかろうか。


「ありがとうございました、鳳凰様。あの······叔均様にも御礼をお伝え下さいまし。叶うことなれば直にお礼に伺いたいのですが、でももう············」


 鳳凰はやわらかく笑むように首を傾げてみせた。どうも所作が女性的なので、この方は『凰』とお呼びするのが正しいのだろう。


《良いでしょう、伝えておきます。そしてこの度のこと、私からも礼をいいます。私たちの住処を守ってくれてどうもありがとう》


「いえあのっ······功があるとしたら月塊なので、私はなにも······っ」


《──ですが貴女たちという存在があらばこそ、あの場で彼は仙と成ることができた。礼をいうに値することです》


琴箭と梅春は恐縮し、そろって頭を下げる。



 じつにゆったりと翔んでいるように思われたが、そうこうするうちにもどんどん風景は過ぎてゆく。こんな夢のときもそうながくは続かないのだろう。

 向かうさき、洛陽隅の懐かしき我が家には、いまも侍女がふたりほど世話をしに残ってくれているはずだが、はたしてどうなっていることやら。


 よければもうしばらく共にいてくれない?


 そう梅春を誘ってみようかな。フワフワの羽毛に頬をあずけ、まどろみながら、琴箭はそんなことを思った。



お読みくださいまして、まことに、まことにありがとうございました。

そしてお疲れ様でございました。

これにて第四章・山海魔経、完結となります。


今章は最後の最後でずいぶん間があいてしまいまして申し訳ありませんでした。


本っ当に、今回は勉強になりました······

焦ってアイツの投入タイミングがはやくなりすぎたとか、実際の資料を活かすのがこんなに難しいのかとか、ラストのまとまりが、とか色々······

でもやっぱり、中途でぱったり止まってしまったのが一番の反省点。



さて。


琴箭はようやくたち直り、月塊は念願の昇仙をはたすも······といったところで今回は幕となりました。


もうここで終わりでもいいかな、とかチラッと思ったりもして。

ですが「月琴伝」はもともと、あと二章を予定しておりました。

いろいろ考えましたが、やはり今回も【完結】とはいたしません。


今度があるとしたら、次こそしっかりとまとまってからお目にかけたいと存じます。



今回も頑張ってくれた琴箭と月塊とともに、見捨てずにお付き合い頂いた皆様にあらための感謝を。


ありがとうございました。




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