琴箭、ひとり霧中へと消ゆること
二本あります。
もどかしい。
いくら歩調をはやめようとも、なかなか中山域への入口はみえてこなかった。
琴箭は先程からまとわりつく蒸し蒸しとした霧にげんなりとして、額にわいた汗を袖で拭った。
おもえば狌狌らの郷、招揺の郷から雲長様のいた神山まで、こうも時がかかったであろうか。翼徳様のいた漆呉山まではどうか。
まずここまではかからなかっただろうと体感が告げている。まったくはた迷惑ではあるが、萊萊のいう常世の拡がりを肌で実感できるおもいである。
そんななかで、肉体だけはほとんど疲れもせぬというのはありがたくもあり、妨害とすらいえた。いくら足を動かしても進めている実感がうすいという状況は、ほとほと気力の喪失を助長するようである。どうにも悪しき循環に陥ってしまっている。
一方これも仙への道の修養だというのならさもありなん。だが、気力の衰退は集中力の衰退となり、結果としてあらわれるのは──
「迷った?」
いくぶん呆れた調子になってしまったのは否めない。琴箭はしゃがみこむ萊萊を見下ろして声を落とした。
「ごめんヨ、琴箭。でも、ウチ······ウチ······中山域に入ルのは初めてデ、西山域なラあちこち皆と回ったんだけド、けド······」
萊萊は、単福に託された守り袋につけ直し、蔦紐を輪っかにして通した頭を抱え、力なくしょげ返っている。
その様に琴箭は思いなおし、歩み寄るとそっと抱きしめて頭を撫でてやった。
「ごめん、貴女も疲れてるんだもんね。仕方ないわ」
「うぅ、ごめんヨ琴箭。ウチ、役たたズ」
「とにかく! こうして座り込んでいても目的地には着かないわ。こういう時にいるのは我慢じゃなく、深呼吸と休憩よ」
ふたりはならんで座ると、新鮮な水気だけはたっぷりとある大気を吸っては吐いてして、すっかり肺の中のものを入れ替えた。蒸すとはいえ風のないわけではなく、それがはこぶほんの微々たる涼感が、ふたりにほんのささやかな慰めとなった。
「にしてもさっきから霧が多い。いくら南方のそれとはいえ、すこし過ぎやしないかしら······」
琴箭のつぶやきに、萊萊はしずかに頭をあげて辺りに漂う霧をみつめた。
たしかに変だ。さっきもいった通り自分はこの先は不案内。が、仲間たちの話はちゃんと憶えている。その限りでも、こうも霧深い場所であっただろうか。
そのときだ。さすがは妖獣たる萊萊の瞳が、霧の向こうを微かに動く陰をとらえた。じぃぃいっと焦点を合わせて、それでも足らず腰まであげてみて、やっとそれの正体に気づく。
「······萊萊?」
「なんてこっタ、あレは······神獣」
七月の投稿ペースについて、です。
残念ながら、まだアレやコレやが片付けられておりません。
ですのでおそらく、しばらくは今のまま、ということになると存じます。
微修正いたしました。




