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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
山海魔経
236/403

琴箭、ひとり霧中へと消ゆること


二本あります。


 もどかしい。

 いくら歩調をはやめようとも、なかなか中山域への入口はみえてこなかった。

 琴箭は先程からまとわりつく蒸し蒸しとした霧にげんなりとして、額にわいた汗を袖で拭った。


 おもえば狌狌(しょうじょう)らの郷、招揺の郷から雲長様のいた神山まで、こうも時がかかったであろうか。翼徳様のいた漆呉山まではどうか。

 まずここまではかからなかっただろうと体感が告げている。まったくはた迷惑ではあるが、萊萊のいう常世の拡がりを肌で実感できるおもいである。


 そんななかで、肉体だけはほとんど疲れもせぬというのはありがたくもあり、妨害とすらいえた。いくら足を動かしても進めている実感がうすいという状況は、ほとほと気力の喪失を助長するようである。どうにも悪しき循環に陥ってしまっている。

 一方これも仙への道の修養だというのならさもありなん。だが、気力の衰退は集中力の衰退となり、結果としてあらわれるのは──



「迷った?」



 いくぶん呆れた調子になってしまったのは否めない。琴箭はしゃがみこむ萊萊を見下ろして声を落とした。


「ごめんヨ、琴箭。でも、ウチ······ウチ······中山域に入ルのは初めてデ、西山域なラあちこち皆と回ったんだけド、けド······」


萊萊は、単福に託された守り袋につけ直し、蔦紐(つたひも)を輪っかにして通した頭を抱え、力なくしょげ返っている。

 その様に琴箭は思いなおし、歩み寄るとそっと抱きしめて頭を撫でてやった。


「ごめん、貴女も疲れてるんだもんね。仕方ないわ」

「うぅ、ごめんヨ琴箭。ウチ、役たたズ」

「とにかく! こうして座り込んでいても目的地には着かないわ。こういう時にいるのは我慢じゃなく、深呼吸と休憩よ」



 ふたりはならんで座ると、新鮮な水気だけはたっぷりとある大気を吸っては吐いてして、すっかり肺の中のものを入れ替えた。蒸すとはいえ風のないわけではなく、それがはこぶほんの微々たる涼感が、ふたりにほんのささやかな慰めとなった。


「にしてもさっきから霧が多い。いくら南方のそれとはいえ、すこし過ぎやしないかしら······」

 琴箭のつぶやきに、萊萊はしずかに頭をあげて辺りに漂う霧をみつめた。


 たしかに変だ。さっきもいった通り自分はこの先は不案内。が、仲間たちの話はちゃんと憶えている。その限りでも、こうも霧深い場所であっただろうか。


 そのときだ。さすがは妖獣たる萊萊の瞳が、霧の向こうを微かに動く陰をとらえた。じぃぃいっと焦点を合わせて、それでも足らず腰まであげてみて、やっとそれの正体に気づく。


「······萊萊?」


「なんてこっタ、あレは······神獣」



七月の投稿ペースについて、です。


残念ながら、まだアレやコレやが片付けられておりません。

ですのでおそらく、しばらくは今のまま、ということになると存じます。


微修正いたしました。

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