虎将、再会に首をひねること
のぼるにつれ、どんどん緑が薄くなってゆく。あたりは岩場ばかりとなり、前回の神域と比べて険しい。道のようなところ以外は歩きづらく、むこうのガレ場の崩れからのぞくのは碁石のもとか。
空気は乾燥しているが、爽やかというよりも殺伐、といった剣呑な風にすっきりとし、たかい天は曇りがちで、鳥が輪を描いて旋空している。
これまたえらい所にきてしまったと一行はひと息つき、あとひと踏ん張りと腰をあげ、神山がその頂きがみせ始めた頃、
「シッ」
先頭にいた単福が警告し、耳をそばだてた。
「誰かいるぜ。争ってるな······」
列がとまったのをみて、後詰めをしてくれていた雲長もやってきた。
「······そのようだ。なにやらがなっておるようだが、人はひとりか」
「どうかね。喋るからって人とは限らねえのがここの倣いだからね」
ふたりはうなずくと、ほかの者をその場で待たせ、ふたりだけで様子をみにゆく。
最上部のあがり口から身をふせて奥をのぞく。
「······おいおい、嘘だろ?」
山頂の平らとなったところには、雲長がいた場とおなじく祠堂があり、亭がある。
その前庭ともよべる広場で、ひとりの大男が仁王立ちしていた。
その足元には一頭の獣が転がり、頭上ではその男をねらっているのか、やたら馬鹿でかい鳥が、隙を窺うように旋回していた。男はその鳥にむかってがなっているのだ。
「やいこの野郎ォ! 降りてこいッ!」
「うわ、なにあれ」
琴箭が単福のよこからひょっこり顔をだす。
「姐さん? 来ちゃ駄目じゃねえかよ」
「そんなことよりあれ、あの足下に倒れてるの、妖獣じゃないの?」
彼女のいうとおり。男の足下に倒れているのは身の丈ひとよりも優れ、見た目は虎に似ている。たが力なく投げだされた尾はほそく毛がさきっちょにしか生えておらず、牛のよう。目でも回しているのか、口から泡をふいていた。
上空の怪鳥もやはり丈は人を凌ぎ、鷲のように雄々しい翼をもつが頭がやや大きく、その両端には短いが黒光りする角を生やしている。分厚い嘴をひらくと、赤子のなくような声をあげた。
本当に嫌な声だ。なにも赤ん坊に似てなくてもよかろう。ここの危険な輩はみなあの声で啼くのだろうか。
「あっ、危ないッ!」
怪鳥が急行下し、大男の頭上の死角から襲いくる。
「ぬぅんッッ!」
心配ご無用とばかり、ガッキと音がする。なんと男は豪槍の太柄でその嘴を受けとめてしまったではないか。
そのまま空中に運び去ろうと怪鳥は大騒ぎするが、彼の足下は揺らぎもせず、追撃でひっかきにくる鉤爪をよけなから、ぎゃくにそれを拳固で叩き返している。
「あレ、ほんとにヒトカ?」
そのとき、地に伏していた大きな陰がぴくりと震えた気がした。




