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あなたが語る真実とは?  作者: 雲居瑞香
選帝侯会議編
9/41

【9】










 それからヒルトラウトとギルベルトは、顔を合わせれば立ち話くらいはするようになった。二人とも落ち着いた性格なので、話しやすいと言うのもある。


 ある日、兄のルートヴィヒがヒルトラウトを尋ねてきた。

「なんだかお久しぶりね、お兄様」

「俺も宮殿には上がっていたんだがな。職場が違うからなぁ」

 宮殿が広いので、会わないことの方が多いのだ。同じところにはいるのだが。

 久々に家族の顔を見ると、何となく安心する。寛大なヒルトラウトの主人であるエルシェは、兄が尋ねてきたと言うと部屋を一つ貸してくれた。小さな客間だけど。

「調子はどうだ?」

「結構楽しくやっているわ」

 主人は寛大で優しく、ユーモアのある女性だし、一緒に来ている護衛たちも親切にしてくれる。同じく帝都で雇われた侍女たちとも、何とかうまくやっているし。

 だが、わりと付き合いが長くなってきて、気になることも出てきた。

「家の方はどう?」

「変わりないな。お前がいなくて華やぎにかけるくらいだ」

「ふーん」

 気のないヒルトラウトの返事に、ルートヴィヒが苦笑する。


「嘘だと思ってるだろ。ホントだからな」


 やっぱり女の子がいるのといないのでは華やぎが違うぞー、とルートヴィヒはなかなか親父くさいことを言う。顔立ちも結構良くて、結構優秀なのになぜモテないかと言うと、こういうところが駄目なのだと思うヒルトラウトである。

「それはまあいいわ。お兄様、何かあったの?」

「いや……お前、どうしてるかなって」

 どうやら純粋に様子を見に来たらしい。ルートヴィヒはコーヒーを一口すする。

「……それで、選帝侯会議の様子は?」

「知ってるでしょ。選帝侯会議の結果を知るのは選帝侯だけだわ」

「……まあ、そうなんだけど……」

 ルートヴィヒは口ごもり、言いづらそうに言った。

「……選帝侯のアイスナー辺境伯とよく話をしているそうじゃないか」

「……そっちが目的?」

 ヒルトラウトはため息をついて自分もコーヒーカップを持ち上げた。ごまかすようにコーヒーを飲んでから言った。


「まあ、そうね」


 話をしているのは事実なので、否定することはしない。全体的にどうでもよい話をしていることが多いが。選帝侯会議の話をするわけにもいかないので、どうしても日常会話になるのである。

「アイスナー辺境伯は七年前に奥方を亡くしていたな。後妻と言う形になるが、いいかもしれないと父と母が言っていた」

 この頃、ヒルトラウトは宮殿でお泊りが続いていて実家に帰っていなかったので、両親がそんなことを言っていたとは初めて知った。ヒルトラウトは十八歳なので二十七歳のアイスナー辺境伯とは九歳差になるが、貴族では珍しい年の差ではない。


「まあ、後妻になるのは気にしないけど、私なんかが嫁いだりしたら、辺境伯が可愛そうじゃない?」


 確か、亡くなった奥方はとても美しい人だったはずだ。政略結婚だけど。

「いやまあ、お前確かに変わってるけど、その辺のお嬢さんよりは性根がまともだろ。まあ、推理小説のトリックを試すのはどうかと思うけど」

「まだ根に持ってるのね……」

 まあ、あれがヒルトラウトがエルシェに仕えるために宮殿に上がる前の、最後の強烈な記憶なのだろう。

「ところで、これが本気で本題だったら怒るよ」

「ああ……まあ、母上からの本題はこれなんだけど。俺からはもう一件。お前、クラウスヴェイク大公に仕えてて変なこととかないか?」

「仕えてる侍女たちは変わった子ばっかりだけど」

 まともに見えるヘレナだってちょっと変わっている。そうでもなければ、あの年まで嫁ぎ損ねたりしないだろう。

「類は友を呼ぶってやつか……そうか。ないならいいんだ」

「私が気づいてないだけかもしれないけど」

「お前が気づかないなら、今のところはまだ安全だろう」

 などとルートヴィヒは笑ったが、ヒルトラウトはかつて自分の妹と婚約者ができていることに気付かなかった女だ。直感は信用できない。


「……せめて参考までに、何を警戒してるのか教えてくれない?」


 こんな意味深なことを言われると気になる。せめて何が起こりそうなのか聞いておきたかった。

「……まあ、前回の時もあったことなんだけど。選帝侯会議、こう着状態だろ」

「うん」

 まったく進展がない。ヒルトラウトたちには会議内容を知る由もないが、何か動きがあれば知らされるはずなのでそれがないと言うことは、動きがないと言うことなのだ。

「しびれを切らして、選帝侯を入れ替えようと言う動きがある」

「……まあ、記録を見る限り毎回起こることよね……」

 一応、ヒルトラウトも選帝侯に仕えると言うことで一通りの記録は調べてある。もともと文字を読むのは好きな方なので、いくつか文献を読んだが、選帝侯会議はどれもこれも、長い。そして、そうなると誰かが裏工作に走る。今回も同じことが起ころうとしている。


「お前だったら誰を入れ替える?」

「手始めにエルシェ様と、アイスナー辺境伯かしら」


 エルシェは大公になったばかり、ギルベルトはアイスナー辺境伯領に引きこもっていることで知られる。自分の陣営に選帝侯を取り込もうと思ったら、まず、ここに踏み込むだろう。

「さすがに物理的に入れ替えようとしているのか、脅そうとしているのかはわからん」

「まあ、注意していればいいってことよね」

 あっけらかんとしてヒルトラウトが言った。ヒルトラウト個人の力ではどうしようもない面があるし、気を付けているのといないのでは違うだろう。エルシェの側にはクラウスヴェイクからの護衛もいる。ギルベルトは知らん。

 ひとまず話を終えて外に出る。宮殿の回廊を歩いていると、あまり見たくない者が見えた。ヒルトラウトはルートヴィヒの腕をつかむ。

「なんだ?」

「あそこ」

 ヒルトラウトが進行方向を示す。そこには、少女たちの集団があった。雰囲気からして、楽しい話をしているわけではなさそうだ。


「あなたのような人が堂々と宮殿に上がってくることが、この国のためにならないとどうしてわかりませんの?」

「ずうずうしいのよ。今は帝国中から人が集まってきているわ。わたくしたちがみんなあなたのようだと思われたら困るの」

 わかる? と少女たち。やはり、一人を囲んでいじめているようだ。ヒルトラウトはルートヴィヒと目を見合わせる。


「ねえお兄様。お願いがあるのだけど」


 わざと大きめの声で言うと、ルートヴィヒはちょっとびくっとしたが「お、おお! 何だ」と乗ってくれる。ちょっとわざとらしかったが、乗ってくれたのでよしとする。

「帝都においしいマドレーヌを出すお店があってね、食べたいのだけど」

「あー、じゃあ、今度買ってくるから、お忍びで行くとかするなよ」

「わかったわ。約束ね!」

 大げさに会話していると、その声に気付いたらしい少女たちはさっと散って行った。いじめ現場が見つかるのを恐れたのだろう。その場所には、おそらく、いじめられていたであろう少女だけが残った。


「あなた大丈夫?」


 ヒルトラウトが率先して声をかける。アッシュブロンドの髪をした小柄な少女だ、伏し目がちにあげられた瞳は淡い緑をしていた。かわいらしい子だ。

「どこか怪我とかはない?」

 ヒルトラウトの問いに答えようとしているのか、口は開閉するのだが声は出ない。ヒルトラウトは「ああ」とうなずいた。

「あなた、声が出ないの?」

 尋ねると、こくりとうなずかれた。耳は聞こえている様子。でも、口はきけないらしい。ヒルトラウトは手帳とペンを取り出した。

「お前、持ち歩いてるのか?」

「いつ何時、メモをする瞬間があるかわからないもの」

 あっけらかんとしてヒルトラウトはルートヴィヒに答えた。ヒルトラウトは手帳とペンを少女に渡す。少女はちらっとヒルトラウトを見て、それから受け取る。白紙のページにペンを走らせた。


『ありがとうございます。わたしは、ギーゼラ・イングリッド・ヴァン・ブランシュと申します』


 丁寧な言葉だった。文字だったけど。ヒルトラウトは文章を読んでふんふんうなずく。

「どういたしまして。ギーゼラね。私はヒルトラウト・アマーリア・フォン・ヴァイデンライヒ。こっちは兄のルートヴィヒ。よろしくね」

 ヒルトラウトが微笑みかけると、ギーゼラはおどおどとうなずいた。ひとまず意思疎通は可能な様子なので、ヒルトラウトはルートヴィヒを振り返る。

「お兄様。ギーゼラさんを送って行ってあげなよ」

「仕事中だ! まあ、馬車までなら」

 確かに、馬車に乗ってさえすればもう誰もちょっかいをかけてこないだろう。ヒルトラウトは手を振って見送る。

「お兄様、約束、忘れないでね!」

「あれ、本気なのか!」

 振り返ったルートヴィヒが叫んだ。当たり前だ。みんなの前で約束したのだから守ってもらわねば。


 ギーゼラが兄妹の顔を見比べて戸惑った表情を浮かべていたが、ルートヴィヒにせかされてそのまま歩いていった。少し、兄に任せて大丈夫が不安になってしまったのは秘密だ。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ヘタレでビビリですが、ルートヴィヒは良いお兄様。


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