カラスのハクア
「どうしてここにいるの、フーカ?」
目をきょとんとさせながら、ハクアはたずねます。
もうなにがなんだか分かりません。
いったいどうやって、フーカはハクアを見つけたのでしょう。
いえ、それよりも……
「ハクアがいなくなって、あたしずっとおいかけたんだよ? でも、とちゅうでわからなくなちゃって……。でね、ちかくの町でみんなに聞いたの。まっ白なカラスをみなかった? って。そしたらね、白いハトの女の子が『こっちへとんでいったよ』って泣きながらおしえてくれて……」
白いハトの女の子。
ハクアはすぐにきづきました。
きっとクーのことです。
でも、泣きながらだなんて……。
そのすがたを思いかべると、むねがチクリといたみます。
いえ、それだけではありません。
逃げだしたじぶんのことを、いっしょうけんめいに追いかけてきてくれたフーカを思うと、嬉しいやらありがたいやら、もうしわけないやら情けないやら、いろんな気持ちがつぎからつぎにうかんできました。
「……いっしょにかえろうよ、ハクア。きっとみんなしんぱいしてるよ?」
「でも、ぼくなんかといっしょにいたら、またほかの子たちにイジメられちゃうよ。カラスでもハトでもないぼくは、ひとりぼっちでいるしか……」
そう言いかけた時、ハクアのほっぺたがパシリとはたかれます。
びっくりして目を丸めていると、
「バカ! そんなこといわないで! ハクアが何色かなんてかんけいないよ! だってハクアはハクアだもん! あたしはハクアといっしょに遊んで楽しかったから、ハクアと友だちになったの! それでいいでしょ!」
「ぼくはぼく……」
ハクアは夕べの話を思いだしました。
たしか、同じようなことを聞いたようなきがするのです。
あの時は眠たくて、よく分からなかったユリの言葉。
でも……
「これでわかったでしょ、ハクア? わたしが伝えようとしたこと。そして、あなたがずっと考えつづけていたことへの答えが」
ふと声がして見上げると、真っ白なユリが穏やかな笑顔を向けていました。
「……うん。なんとなくだけど、わかった気がする」
ハクアは弱々しく、でもたしかにこくりとうなずきます。
それを見たユリもまた、優しくほほえみながらうなずきました。
「ありがとう、ユリさん。ぼく、フーカといっしょに山にかえるよ。……本当はまだこわいけど、それでもこれからはがんばれる気がする」
「ええ、それがいいわ。忘れないでね、どんなときでもあなたはあなた。ハクアのことをだいじに思ってくれるだれかが、いつもそばにいてくれるって」
「うん!」
今度はつよくうなずいて、
「それじゃあ、かえろうかハクア!」
「じゃあね、ハクア。またあそびにおいで。次は“みんな”でいっしょに」
さわさわと葉っぱをふって見おくるユリにあいさつすると、ハクアとフーカは晴れわたった青空へと、ちからいっぱい羽ばたきました。
*
「ねぇ、あれ見てよ!」
山へと帰るとちゅうのこと。
クーとであったまちの上をとんでいると、とつぜんフーカが声をあげます。
「ほら、あそこだよ! あの公園!」
そこはクーといっしょに、クーのおとうさんたちを見つけた公園でした。
つい昨日のことなのに、なんだかた遠い昔のことのように感じます。
なんとなくむねをざわざわさせながら、フーカのさす方向へと目をむけると、
「……あ!」
こうえんのまんなかにある、大きなふんすいのすぐそばで、白くて小さなハトの子が1羽、こっちにむかって羽をふっているのが見えました。
「クー!」
「ありがと、クーちゃん! きみのいうとおりに飛んだら、ハクアのこと見つけられたよー!」
フーカの声が聞こえたのでしょう。
クーはうれしそうになんどもぴょこぴょこジャンプをしてみせました。
「ありがとう、クー! ぼくはもうだいじょうぶだからねー!」
ハクアもまけじと声をはりあげます。
そして、ちからいっぱいに羽をふってあいさつしました。
「あはは! みてよハクア! クーちゃんも羽をぱたぱたさせてるよ!」
小さな羽をなんどもなんどもふりかえしてくれるクーに、ハクアもせいいっぱいこたえます。
そうやって、クーのすがたがまめつぶくらいに小さくなって見えなくなるまで、ハクアとフーカはずっと羽をふりつづけたのでした。
「ねぇ、フーカ」
「なあに、ハクア?」
気付けばもう山のふもとです。
みなれた景色がいちめんに広がっています。
あと少しでおうちに帰れる。
そう思うとうれしいけど、でもみんなに心配をかけたことがうしろめたくて、ちょっぴりこわい気持ちもありました。
「お父さんたち、やっぱりおこってるかな……」
「そりゃあ、ちょっとはおこってるんじゃないかなぁ」
「そうだよね……」
「でも、それいじょうに喜んでくれると思うよ? だから、ちゃんとあやまって、ただいまって言えばいいんだよ!」
「うん。……ねぇ、フーカ?」
「なあに、ハクア」
「ぼくね、もっとつよくなる。このからだのこと、なんて言われたってかまわない。だって、フーカがおしえてくれたもん。ぼくはぼくだって」
ハクアのことばを、フーカはじっとしずかに聞いています。
「でもね、もしかしたら、またそうしようもなくかなしくなって、ダメになっちゃうこともあるかもしれない。そんな時は……」
ちょっとだけ、考えるようにだまりこんだハクア。
その続きを言うより先に、
「その時は、あたしが何度だって言ってあげる。『気にしなくていいよ、ハクアはハクア! あたしの大好きなお友だちだもん』って!」
にっこり笑ってフーカは言います。
それを聞いたハクアもまた、にっこりと笑いました。
どこまでもつづく青い空。
白と黒、2羽のカラスはまっすぐにふるさとの山へと飛んでいきます。
もうハクアはつらくなんてありません。
だって、もう見つけたから。
カラスのハクアがいきる、ほんとうのいばしょを。
お読みいただきましてありがとうございました。
はじめての童話でしたので、言葉遣いや構成など、お見苦しい点もあったかもしれません。
でも、願わくばこの作品を読んでくださったお子様が、なにかひとつでも感じられることがあったなら。
作者としてはこの上ないよろこびでございます。
それでは、ご縁がありましたらまたどこかで――