約束を果たす者
約束を守れそうにないと心の中で思う忍の心を見透かすように、理香子が指摘する。
「姉さんのことで、あなたが笑顔で帰ってくる約束を守れそうにないと思うのは分かるわ」
「それもある。でももしもの時身を捨てるべきなのは、今までみんなに嘘を付いていた僕なんだ」
「そんなのあなたの勝手よ。あなたは嘘を付いていたかもしれないけどみんな別に何とも思ってないわ」
「だからといってそれだけで性別の詐称が許される物なのか分からない」
「そうだとしてもそれはあなたの責任じゃないわ」
「まあ、政府が関わっているからな。でも、引き受けたのは僕だ」
「そのおかげであなたを切り札にできた。あなたが神奈と一卵性双生児というのは偶然だったけど」
「そんな偶然は普通あり得ないんだけどな。まあ起こってしまった物はしょうがないというか」
「確率がどれだけ小さくてもゼロでなければ起こり得る。『悪魔の証明』とでもいうべきね」
「たとえ今見れなくてもどこかに『居る』という可能性がある以上『居ない』という保証はない、か」
「一卵性双生児の男女はあなたより前に例はあるけど、それでもきわめて稀なのは散々いった通りね」
自分のような『一卵性双生児の男女』が稀なケースであることは、
忍は散々聞いていた。
しかし、流れ的にはここで補足しないといけない状況だったのでお互いいいっこなしだった。
「創作には良くあるけど、設定ミスだとばかり思っていたわ」
生徒の一人は誰もが感じる感想をいった。
「人の肉体的な性別は性染色体で決まるから。稀にXY女性なんてのも生まれるらしいけど……」
かすみはそれに答える。
「アンドロゲン不応症って奴ね。何かは分からないと思うけど、その該当者はもう女性といえる状況よ」
実際、アンドロゲン不応症の患者はその多くが女性として過ごしていくらしい。
精巣は停滞して摘出の必要があるし、まあ妥当なんじゃないかと思う。
「人体の神秘ってことですね」
生徒の一人が感心したようにいった。
「物理的にはあり得ないけど、実際YYだけの人って生まれてこれるのかな?」
「Y染色体って案外致死遺伝子なのかもね。むろんアルビノみたいな感じで両方揃わないと起こらない」
そういった後、まあとばかりにかすみは続ける。
「倫理的にヤバいから実験していないし、実際どうなのかは神のみぞ知るってことね」
それに忍が突っ込む。
「もしも同性同士の生殖があったとしたら、男性同士だとYYになる可能性があるな」




