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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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44/51

Track.43

 昼休み。


 二十年ぶりの学食は、記憶より少し狭くて、思っていたよりもにぎやかだった。

 揚げ物とカレーと味噌汁が混ざった、大学独特の匂い。ゴリとあずまと並んで定食を食いながら、俺は適当に相槌を打って会話をつないだ。


 思い出せないことのほうが多い。


 それでも、こうして席について、くだらない話をして笑っていると、身体のどこかが「これだ」と言っている。


 俺——やっぱり、大学生活をちゃんと楽しんでたんだな。


 


 昼食を終え、ゴリと東と一緒に次の講義がある棟へ向かう。

 午前中で少しずつ勘は戻ってきたものの、まだ完全ではない。

 校舎の位置関係も、移動の流れも、身体が先に思い出しているだけで、頭の中では相変わらず霧がかかっているみたいだった。

 


 講義開始までは、まだ少し時間があった。


 そのときだった。


「一ノ瀬氏~~!」


 聞き覚えのある、少し甲高い声が廊下に響く。


 振り返ると、リュックを片肩に引っかけた細身の男が、こっちへ手を振りながら近づいてきていた。


 石山 浩司(いしやま こうじ)。ヤマジだ。


 ひょろっとした体格。少し猫背。メガネの奥の目は妙に生き生きしていて、いかにも文化系オタクという雰囲気を隠そうともしない。

 大学の廊下に立っているだけなのに、こいつだけ微妙に空気のジャンルが違う。


「お前、重役出勤かよ」


「いやあ、午前から来てたとか、マジメすぎやん一ノ瀬氏w」


 ヤマジは無駄に真顔をつくり、ビシッと敬礼する。


「漏れは、二限まで自宅待機余裕ですた。キリッ」


 相変わらずだ。

 この、オタク感たっぷりの喋り方。気の抜けた姿勢。リュックの横から微妙に飛び出している雑誌だか冊子だか分からない紙束。

 つい最近――。一週間ほど前にも会っているはずなのに、大学の中でこうして顔を見ると、妙にほっとした。


「なにその顔。そんなに漏れに会いたかったん? 照れるお」

 ヤマジはわざとらしく肩をすぼめ、もじもじと身体を揺らしてみせた。


「いや別に」

「ちょw 即否定ワロス」

 ヤマジはわざとらしく肩を落としてみせる。


 そんな芝居がかった反応に、ゴリが「ハハハ⤴」と笑い、東が「相変わらず濃いな」と苦笑する。

 ヤマジは二人にも軽く会釈してから、俺の横に並んだ。



 「てか一ノ瀬氏、アイドルのほうはどうなん?」


 その声が少しだけ小さくなる。

 俺も一瞬、周囲を見た。

 ゴリと東にはまだ話していない。というか、話すつもりもない。ヤマジにだけは打ち明けて、口止めしてある。


 理由は単純だ。


 ルクスプロのアイドルは、うちの大学でも大人気だから。


 前に、うちの文学部の女子がテレビに出たことがある。それはルクスプロのバラエティ番組の街頭ドッキリ企画だった。

 街頭インタビューで「好きなタイプはPRISM(プリズム)のトニオくんです」と答えていた、その女子の後ろに——本人が、そっと立ったのだ。


 しかも、その子が「トニオくんは歌が上手くて、声がセクシーで……」なんて魅力を語っているところで、

 「ねえ、それって……どんな声?」

 と、耳元で甘く低い声を落とした。


 女子は、ぎゃーーーっ!と漫画みたいに飛び上がったあと、その場でひっくり返りそうになっていた。

 そこをトニオ中崎本人が支えて、「大丈夫……?」でトドメ。


 スタジオは大絶叫。女子のリアクションも面白すぎたし、トニオくんのかっこよさも突き抜けていて、あれは完全に神回だった。


 当然、学内でも大騒ぎになった。

 テレビに出たその子は一躍有名人。

 うちの大学の文学部にトニオと接触した女子がいる、というだけでちょっとした事件だったし、誰かが録画していたVHSもやたら回ってきた。


 ……俺だって、いまだにしっかり覚えているくらいには印象が強い。


 そんなルクスプロに、俺が入ったなんてバレたらどうなるか。

 別に、俺自身のサインを欲しがる女子はいないだろう。


 だが——


 「PRISMの誰々のサインもらえない?」

 「DUELって実際どうなの?」

 「朝倉レン見た?」

 「今度会わせて!」


 そういう伝手扱いは、普通にあり得る。


 少し面倒……

 いや、絶対に面倒だ。


 だからこの話は、親友のヤマジにしかしていない。


 

「……アイドルなあ。地獄だよ」

 俺は小さく答えた。


「ちょw どういう意味で?」

「主にダンスとダンスとダンスだな。

 筋肉痛もシャレにならん。朝、起き上がれなかった」

「ヤバすぎワロタw」

「太もも、ふくらはぎ、腹、背中。全部痛い」

「一ノ瀬氏らしすぎて、くっそワロww」


 ヤマジは歩きながら、無駄にメガネをくいっと押し上げた。


「まあ、安心汁。一ノ瀬氏がルクス入りした件、俺の口から漏れることはないお」

「ああ、頼むぞ」

「マジで。女子に知られたら、一ノ瀬氏、お目当てのルクスメンへの窓口扱いされそうな悪寒オカーン

「だろ?」

「当然ジャマイカ」

 

 ヤマジは無駄に親指を立てた。

 

「漏れでも頼むは。トニオ氏のサイン」


「お前もかよ」

 

 こうして、二十年ぶりの大学生活は、思った以上に騒がしく始まった。

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