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13セレナ王国


まだ夜の名残が残る港に、朝の光が差し込んでいく頃、ジュリアはセレナ王国の港に着いた。

人がいない港にレオンが先に降り立つと、ジュリアも彼に続いた。


「ジュリア様、私たちがお助けできるのはここまでです。ネフェルタリから逃げたことは極秘です。できるだけセレネの王宮のものにもバレないように、ロナウド様に会ってください」


「…わかったわ」


その方法はまだ見当もつかなかったが、時間がないことだけは明白だった。

ジュリアは深く頷いて、船の上の男たちに一歩近づいた。


「レガロ卿が私を逃がしたことで、危ない目に遭わないことを願っているわ。ここまで私を助けてくれたこと、本当に感謝しています。どうかよろしく伝えてください」


男たちは静かに頷き、言葉を交わすことなく、急いで来た道を引き返していった。

その背中が遠くなっていくのを見届けると、港にはジュリアとレオンだけが残された。




ーーー




セレナ王宮近くに到着した時には、すでに朝日が昇り始め、柔らかな光が王都を照らしていた。

朝の冷気がまだ残る空気の中で、ジュリアとレオンは王宮の近くに広がる賑やかな市場に足を踏み入れた。


セレナ王国は交易が盛んな国であり、さまざまな文化が交わる都市として名高い。

市場に足を踏み入れると、活気に満ち、商人たちが色とりどりの商品を並べていた。

布地、香辛料、金細工、宝石、そして異国の珍しい品々。

そのどれもがジュリアの目を引き、魅力的に映った。


ジュリアは何度もこの王都を訪れたことがあったが、セレナの市場の賑わいに改めて圧倒されていた。

広場では、様々な文化が交じり合った服装をしている。

高くそびえる建物も、北方でよくみられる白亜の壁に、東方の陶器やタイルで装飾されている。

ネフェルタリとは全く違う風景に、周りを見渡しながら、レオンと共に市場の一角にある店へと入っていった。


店に入ると、朝早いと言うのに、客がちらほら座っていた。

外からは人々の行き交う音や、雑踏の声が聞こえてくる。

二人はテーブルの合間を縫って、一番奥の席に座ると、セレナ王国でよく飲まれるハッカスという実のジュースを頼んだ。

セレナ王国の通貨に不慣れなレオンのため、レガロ卿からもらった通貨で、ジュリアが代わりにお金を渡す。

ウェイターが席を離れると、ジュリアは低い声でレオンに告げた。


「外では私のことを姫だと呼ばないこと。言葉遣いも、くれぐれも気をつけて」


レオンは小さく頷く。

昨日起きた出来事がまだ心の中で整理できず、幾つも疑問が湧き上がってくる。

レオンを問いただしたいが、誰が聞いているか分からない状況ですべきことでないことをジュリアは冷静に分析していた。

今はとにかくロナウドに連絡を取らなければならない。

ジュリアはその方法を考えながら、目の前に広がる賑やかな市場の様子をぼんやりと見つめていた。


ロナウドはよく下町に降りてくる人物なので、会うこと自体は難しくないとジュリアは考えた。

民にロナウドを見たか聞き込みをする手もあるが、レオンはネフェルタリ語しか話せないため、その役目はジュリアに回ることになる。

目立つことを避けなければならない、そう考えながらハッカスのジュースを一口飲むと、その酸っぱさが口の中で広がり、徐々に爽やかな感覚に変わっていった。


ロナウドのことを考えながら、ジュリアはふと、彼が必ず現れる場所を思い出した。

それは町にある広場や、商人や旅人たちが集まる賑やかな場所だった。

ロナウドは、常に人が集まるところに姿を現す人物で、どんな状況でも巧みにその場の空気に溶け込んでいく。

まるで人々を引き寄せる磁石のように、彼はどんな人ともすぐに打ち解け、その場の雰囲気を掌握する。

言葉巧みに人々を操り、時には女性たちを魅了して引き寄せることもあった。


「あ…」


そこでジュリアは思い出した。

必ずロナウドに会える場所を。

しかし、そこに足を踏み入れることは危険な賭けでもあった。




ーーー




レオンの忠告も聞かず、ジュリアが足を踏み入れたのは、花街の中でも特に名の知れた高級妓楼だった。

昼間から灯りが煌めき、豪華な装飾が施された建物に圧倒されながらも、ジュリアはその重い扉を開けた。

内部には香り立つ花が置かれ、艶やかな衣装を纏った娘たちが忙しなく行き来している。

一人の女が鋭い目つきでジュリアを見つめた。

身に着けている衣服からして、どうやらこの店の女主人のようだ。

派手な服装をまとい、濃い化粧が施されたその顔が、ジュリアの前に立ちはだかる。


「なんだい、あんた?」


ジュリアは少しだけ息を整え、毅然と答える。


「父の店が倒産し、身寄りがないのです。ここで働かせてください」


女主人は一瞬、眉をひそめ、目の前の若い娘がどんな意図で来たのか考えているようだった。

娘を買い取ることは珍しくないが、娘が自ら来るというのは非常に稀なことだった。


「ここで働くと言っても、あんた。ここはセレナ王国一の高級妓楼だよ。王族や貴族様を相手にするんだ。ここで求められるのは、美貌だけじゃない。教養も、身のこなしも、言葉遣いも…何もかもが完璧でなければならない場所だ。そんな簡単に、あんたみたいな若い娘を受け入れるわけにはいかないんだよ」


ジュリアは少しも動じることなく、その言葉を受け入れ、女主人の厳しい視線を耐え抜く。

女主人は何度もジュリアを見つめ、しばらく黙った後、ゆっくりと歩み寄り、ジュリアのフードを取った。

一瞬女主人は固まる。


「…へぇ…」


そのうち微笑をたたえ、ジュリアの周りを周り、品定めをした。

ジュリアはその視線に耐えながら、無意識に背筋を伸ばした。


「水仕事なんかした手じゃないね。ずっと大切にされてきた手だ」


扇を広げ、ジュリアの顔を引き上げると、細かく観察し始めた。


「金髪に緑目か。高貴な血筋でも入っているのかい?顔立ちも整ってる。自分の価値がよく分かっているようだね。あんた何ができる?読み書きや楽器、詩は?」


あごを持ち上げられた状態で、ジュリアは少し困惑しながらも答える。


「読み書きはできます。楽器は一つも。詩は分かりません」


女主人はその答えに、少し考え込んだ表情を浮かべた。

そして、ジュリアの顔をじっと見つめながら、扇をパチンと閉じた。


「気が変わった。あんた、うちの娼婦の手伝いをしな。私が育ててあげよう。名は?」


ジュリアと言いかけて、彼女は口を閉じた。

周りの娘たちが通るたびに、娘らの服にデザインされた花が目に入る。

その花に一瞬心が揺れ、ジュリアは口を開いた。


「サリー」

ジュリア ー ネフェルタリ王国の王女。この物語の主人公

レオン ー ジュリアの護衛。ネフェルタリ王国最強の男

シリウス ー ジュリアの幼馴染。アルナム卿の孫

ウィリアム ー ネフェルタリ王国の現国王。ジュリアの兄

ロナウド ー セレナ王国の末王子

アルシーア伯 ー ジュリアの叔父

リリー ー ジュリアの侍女

アルナム卿 ー 宰相。政治の中心地を治めるアルナム領領主

オーベン卿 ー 交易の拠点として栄えるオーベン領の領主

ベルク卿 ー 穀倉地帯を持つベルク領の領主

レガロ卿 ー 土木技術が優れるレガロ領の領主

トネール卿 ー 騎士たちを率いるトネール領の領主

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