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高橋狂四郎
高橋狂四郎は猫ではない。名前もまだない。
猫にしか見えないが、彼は高橋狂四郎という名前の動物である。
この世に高橋狂四郎という動物は一匹しかいないので、誰もが彼のことを「狂ちゃん」と呼んでいた。
高橋狂四郎は森を二足歩行で歩いていた。手には日本刀を持っている。
高橋狂四郎と猫を見分けるのは難しい。違うのは直立歩行するということと、いつでも日本刀を持っていること、あとは人間の言葉を喋るということぐらいなので。
しかも人間の言葉は喋るがいっぺんには5文字しか喋れないので、ますます猫と見分けるのは難しかった。
ためしに『古池や 蛙飛び込む 水の音』を高橋狂四郎に言わせてみるといい。
「ふるいけやっ」と高橋狂四郎は言った。
暫く黙る。
「かわずとびっ」と高橋狂四郎は10秒後に言った。
また暫く黙る。
「こむっ」と高橋狂四郎は言った。
こむが現れた。
手にはアイスクリームを持っている。
高橋狂四郎は日本刀を抜いた。
そして、言った。
「みずのおとっ」
こむは家へ帰って行った。
高橋狂四郎は抜いた日本刀を空にかざして歌舞伎役者のポーズをとった。
そして、言った。
「ま。」




