#91 推定謀叛人、いました。
「なあ悠香……あれお前の筋肉でぶっ飛ばしてくんねぇか……?」
「乙女に対して筋肉とは失礼な!やーりーなーおーし!」
「失礼仕りまする……橋本殿、国分の者どもは千代城に籠り、射かける矢もまばらにございます」
ただでさえ亘理元宗の救援に向かわなければならないのに、くっそ迷惑なタイミングで国分家には、速やかな滅亡を宅配……と言いたいとこなのだが……相手は千代城に籠城するつもりらしい。あまりにも効果的すぎる。
ただ、総勢千人という国分勢にしては、妙に、反撃に元気がない。政宗や成実との戦いと比較してはいけないかもしれないが……盾さえ構えていれば全く怖くない程度の矢しか振ってこない。戦車とかいう移動式鉄盾ならなおのこと。戦場なのに安全な職場環境が保たれている。
「白石殿……それがしの見立てでは、国分の者どもは敵を引き付ける程度の働きはせども、命を賭して戦うつもりは無いように見受けられまする……亘理へ急ぐべきではなかろうか」
「しかし、後背の敵を見過ごさせんとするは、後背を突かんとする策にて、見過ごすわけには……」
桑折宗長が、国分勢の行動から時間稼ぎが狙いで、この手に乗らないべきだと主張するが、白石宗実は、挟み撃ちに合うリスクを挙げる。双方とも大きく的外れではないと思う。どっちもあり得る事だ。
となると、相手がだれか、そのキャラや癖から推測したいところだが…
「敵将は、国分政重ないし伊達盛重、同一人物だがこいつで良いんだよな……?」
「はっ、国分家当主と言えば亡き先々代当主、伊達晴宗公が五男、伊達九郎政重様にございます。今回の件もおそらく……」
たいして、武断派という訳でも知将という訳でもないから大丈夫だろ……と言いかけたところで、身震いしてあわてて名乗り出る武将が目に入った。
「橋本殿!!そ、それがしが国分政重にございます!!」
「あれっ!?」
何やら柔らかな声で、似合わない鎧を着こみ、見るからに人畜無害そうな三十代男性(テキトーな表現)が現れる。
てかお前、輝宗派にも政宗派こと伊達王国の面々にもいなかっただろ!それがどうしていつの間に橋本軍に混ざってるんだ?
「待て!お主、いつからここに居た!」
「桑折殿の手勢が包囲を始めた時に加勢したではありませぬか!」
鬼気迫る宗長が叫ぶが、言われてみれば確かに……と何か思い当たる節があったようで、宗長は考え込んでいる。
「……あの時の!黒脛巾組の者に泣きながら抱えられてきた、あの情けない武者か……まさか九郎殿だったとは……あや、よく思えば確かに、九郎殿のこととあらば、それほど不思議ではありませぬな」
「桑折どの~!」
と、一人納得する桑折宗長と、おいおいと泣き始める国分政重……あまりにもキャラが濃すぎて、ほか勢力の忍が偽装するための行動かもしれないとさえ思う。けど、そうかもしれないけどさぁ……
「……まぁ、とりあえず首謀者は政重ではなさそうだな。仮に偽物だとしても、こんなやつなら脅威にならない」
「はじも゛どどの゛~!」
「おい待て!涙ぐらい自分で拭け!俺の服、洗うのどんだけ大変だと思ってんだ!」
こっちでの代用洗剤は大沢育ちのサイカチの実なんだ!汚れは落とせるが大変で仕方ないんだよ!
しかもここ、大沢から一番遠い橋本家領土なんだぞ!大沢に帰るまでの間、お兄さんと呼べる上限ギリギリの大の大人の涙染み込ませた服着ろ!なんて嫌だぞ!
と、地面を擦りながら近寄ってくる政重を回避する。
「でも、だとしたらありゃ一体誰なんだ……?国分の先代幽霊が化けて出てきて指揮でも執ってんのか?」
そう言うと、足元の方で突っ伏していた政重が答える。
「あの城を操っておるのは堀江。堀江長門守にございまする……かの者はそれがしを酷く嫌うあまり、あまつさえ佐竹の鬼めと組んで、それがしを今まさに討たんとしていたのですぅぅぅ……」
……三十代戦国一般男性がその語尾で言ってもかわいくねえ!
しかし、堀江長門守というのは誰だかよくわからないが……佐竹の鬼だと?それは聞き捨てならない。
「佐竹義重が攻めてくる?情報源は」
鬼義重・坂東太郎の侵攻、事実だとしたらまずい。
動員解除した矢先にそれは本当にまずい。
「は、ははぁぁぁ!!!堀江が!堀江長門守がそう!申しておりましたぁぁぁ!」
……
よし、諦めよう。
どうせ、独立でもさせりゃ、佐竹が介入してくる大義名分はなくなるだろ。
その、堀江なんたら、とやらが何を要求しているのか知らないが、こりゃ無理だ。相馬だって普通に強い相手だってのに、俺の指揮下の部隊、何人だと思ってんだ。120人いないんだぞ。
籠城してる無名(俺が知らないだけかもしれないが)の武将だけなら、まだ何とかなるかもしれないが……ただ武人ってだけじゃない、知勇揃ったガチのプロ戦国大名、佐竹義重だぞ?
今までのヤバいと思ったらヨシヒカリだったとか、巻き込み事件の規模がおかしい脳内ガキのDQN政宗とは訳が違うんだ。超・正統派戦国武将。
「……総大将、は白石宗実だっけ?使者でも矢文でもいいから、向こうさんの要求をお伺い立てを頼む」
「は……、はっ!?っよろしいので!?」
宗実は文字通り目を丸くして、問い返す。一方の宗長は、逡巡しているようだが意図は察したようだ。
「兵らの気合が、出鼻から肩透かしとなってしまう事、いささか気がかりではありますが……良手かと」
それは確かにそうだ。他はともかく、連戦連勝の橋本本隊が居ながら、明らかに勝った、とならないのはほぼ初めてだし、無敗の戦車伝説が崩れるのは心配だ。
とはいえ『負けた』と思われなければ良いともいう。文字通りの『転進』だ。
わざとらしい、仰々しい言い方で強調して、その場で思いついたカバーストーリーを二人に伝える。
「……『不幸な行き違いがあり、あわや一触即発であったが、誤解は解かれた。』まぁ、堀江なんたらの出方次第だがな。いいか?」
承知しました、と宗実と宗長の宗コンビ。この建前なら大丈夫だろうとのことだ。
……相手の本音もそうだと嬉しいんだけどな!




