#08 転生者、増えました。
「全員お揃いですね。第一回橋本家評定を始めましょう」
司会役、で合っていると思う一郎丸改め信本が言う。
事前に信本には話す内容は伝えてあるので滞りなく進められる、といいな(願望)。
「まずは第一回ですので、航太さんの右手側から簡単に名乗りをお願いいたします、まずは私、大沢助本が長男、信本でございます」
「同じく助本が次男、武本だ!」
「大沢彦一が嫡男、助本だ」
「紹介に預かった大沢彦一じゃ、よろしくお頼み申す」
大沢一家の名乗りが終わり、隣の茂造さんとお寺の面々に移る。
「河戸茂造だ、新顔の面々、よろしくお願いする!」
「水上和尚を名乗らせて頂き申した。よろしくお願いいたす」
「門口宗全和尚様の側に控えさせてもらう」
「薬師妙山同じく和尚様についておりますので御用があれば何なりと仰せくださいませ」
寺武将勢が終わり、大沢村残りの面々に移る。
「井戸守兵衛、お見知りおきを」
「守兵衛が弟、井戸十兵衛と申します」
「大畑平造で御座います」
「兵造の嫡男、大畑平吾です」
以上で大沢勢は終了、次は新顔だ。
「河島甚兵衛と名乗らせてもらった、河島屋もよしなに頼むぜ」
「甚兵衛の姪、詩といいます、どうぞよろしく……」
「大曲吾六!大曲の地よりはせ参じ申した!何卒よろしくお頼み申す!」
「仙北成武、お仕えする事が叶い参りました。どうぞよろしくお願いする」
「美山舞でございます!今後よろしくお願いします!」
「以上となりますね、では次に人事の発表となります。航太さん、お願いします」
信本が次の人事発表へと進める。あえて現代風の言い方にしてみるという事もお願いした。
「よし、ではまず大沢城の奉行だが僭越ながら俺自ら行う事とした。しかしながら、近いうちに新たに城を奪うつもりである以上、奉行とは何たるかを見せねばならないため、信本、成武、舞の三名を副奉行に任命する。俺についてくるように」
「承知しました」
「はっ!」
「わかりました!」
信本、成武、舞の三人には近い将来城主も務められるくらいにはなってもらいたいので指名した。
「次に農業関連の監督を行う『農奉行』を設置するが、彦一さん、お願いします」
「任されよう」
「助本さんと茂造さんは彦一さんを手伝ってくれ」
「了解!」
「わかった!」
まぁ順当に、長年村長として農業関連の作業に携わって来たからね、そこに助本さんと茂造さんが居れば人手には困らないと思う。
「同じく商業関連の監督を行う『商奉行』だが、甚兵衛に頼む、詩はこれを手伝うようお願いする」
「わかったぜ兄さん!」
「承りました……」
元商人に商業を任せるのも道理、良い収入になる事を期待するが、もう一つ。
「妙山さんも副商奉行として支えてもらいたい。特に薬草関連の知識を生かして大沢での薬草の生産と販売まで行ってもらいたいので必要があれば彦一さんにも相談するようにお願いする」
「お任せください、少し時間を要するとは思いますが必ずや成しましょう」
薬草を領内で作れれば戦時には治療できるようになる可能性が高まり、平時には商品としても使うことができるため、可能な限り用意しておきたいのだ。
「よし次、平造は平吾と共に城の修復をお願いする。できれば櫓を各門に立ててもらえると助かる」
「承知いたしました」
「わかりました」
今回の鎮圧軍は弓を射かけてこなかったから被害なく倒せたものの、本来なら敵方から矢が飛んできてもおかしくないため、櫓で防御しながら射かけられるようにしたい所だ。
「井戸兄弟はまずは大沢と城をつなぐ道を整備、その後は大沢につながる道を人が行き来しやすいように整えてくれ」
「承知した」
「了解しました」
人の流入目当てだ。俺のノートパソコンに入っているゲームでも道を整備すると人口が増加するようになっている。そんなに簡単じゃなかろうが少なくとも今できることはやっておかないといけない。
「次、軍事部の人事だ。武本には村人と新たに集まって来た流市民に弓の訓練を、吾六には槍の訓練と、見込みのある者には騎馬の訓練を頼む。特に騎馬の訓練には必ず大きな音にも驚かないように訓練を入れてくれ」
「わかったぜ!」
「しょ、承知いたした!」
国民皆兵制の導入を密かに目論む俺としては流れ込んだ者を平時は市民として生活してもらうが、攻め入られたときにただ逃げ回る市民ではなく、それぞれで抵抗できる軍隊に育て上げたいというものがある。長曾我部氏の一領具足が若干イメージに近いかもしれない。
騎馬の訓練で大きな音に驚かないようにするというのは言わずもがな、鉄砲の導入などを考えているからだ。できれば野戦砲なんかも手に入るといいんだけれども……流石にまだ早すぎるか。
「最後に和尚さんと宗全には戸沢に誼を通じてもらいたい。小野寺と戦う上で必ず力になってくれるはずだ」
「わかり申した」
「承知!」
戸沢氏は実際に小野寺と対立しているのみならず、鉱山も多く支配し経済的にも協力であることに加え、当代当主は夜叉九郎と名高い戸沢盛安、その統率値、破格の90!
力関係を考えるなら北の安東氏や南の最上氏と結ぶべきだが、どちらも当主は大の策士、何をされたものかわかったものじゃない。後は俺自身が盛安をゲームでよく使うからそれと一緒に戦ってみたいというだけの趣味全開な理由だ。
「では次だ、少々説教じみた風にはなると思うが少し知っておいてもらいたい事を伝える」
「この戦乱の時代、俺は生き抜くのに必要なものがいくつかあると思っているが最近没した名将も引用したこの言葉を重要な事柄のひとつと思っている」
「『天の時は地の利に如かず 地の利は人の和に如かず』、天の時は地の利にかなわない、地の利は人の和にかなわないという意味だ。しかし俺はこのすべてをそろえるよう邁進することこそ戦に限らず事がうまく運ぶ秘訣だと考えている。さらにこの三つが同列に無いのはその得難さが関係すると俺は考える。つまるところ、俺たちはここでいう『人の和』を保つことこそが最も重要だと考える。そのことを常に思い起こしながら各々の任に当たってもらいたい。人の信頼と良い関係は最も得ることが難しいものの一つだからな」
現代社会でも通用する『天地人』の考え方だ。皆が『人の和』を意識して動くのみでも、皆がこの事を知っていれば少なくとも家内でのいがみ合いはなくなると俺は信じている。いずれこのことは大沢の村人、領民にも伝えていけたらと思っている。それこそが結束の秘訣であり、まだ誰も成し得ていない事だろう。ゲームをやっているときによく感じていたことだ。
次の評定の日取りを七日後の同じ時間からと定めて解散となった。各々に是非『人の和』を意識してもらいたいと思いながら、俺は副奉行の信本、成武、舞と共に大沢の村を見に出かけた。この行動が俺の橋本家最序盤の唯一の大事件に繋がるなどこの時は知る由もなく避ける術もなかったのだが……
日暮れ前、甚兵衛が「兄さんみてぇな妙ななりで変な話し方をする奴が例の話を聞きつけて面接を受けさせろと言ってきやがった」と俺に伝えに来た。それだけなら優秀な人材であれば大歓迎、そうでなくとも人口増加となってうれしいお知らせ……なのだが……
「君!その格好!絶対転生して来たでしょ!ねぇそうでしょ!?」
……
俺のリアル戦国シミュレーションゲームライフに早くも不純物が混じりこみやがった。
畜生!ヘルメスめぇぇぇ!!
いきなり登場人物が沢山増えたので橋本家武将一覧を載せてみました。
右側は役割ですー。
参考程度にですがどうぞ~。
大名 橋本 航太 大沢城主 奉行
家臣 大沢 彦一 農奉行
家臣 大沢 助本 農業
家臣 大沢 信本 副奉行
家臣 大沢 武本 弓兵育成
家臣 河戸 茂造 農業
家臣 水上 和尚 外交 → 戸沢氏
家臣 門口 宗全 外交 → 戸沢氏
家臣 薬師 妙山 商業 薬草研究
家臣 井戸 守兵衛 街道整備
家臣 井戸 十兵衛 街道整備
家臣 大畑 平造 修復
家臣 大畑 平吾 修復
家臣 河島 甚兵衛 商奉行
家臣 河島 詩 商業
家臣 大曲 吾六 槍兵育成 騎兵育成
家臣 仙北 成武 副奉行
家臣 美山 舞 副奉行