#68 部隊、整列しました。
「鮭延隊!整列!」
戦国時代のさらに地方、時代は少し前だが房総半島が東路の果てとか呼ばれていたなら前人未踏の秘境と云うのだろう羽陽出身の最上の足軽たちがたどたどしく並んでいく姿はさながら園庭で整列の練習をする幼稚園児といった所だが、それでもお釣りが来るほどに素早く数え上げられる。
「四百……三十七か。おいお前ら本当に戦ったのか?南門と合わせて1500人の強攻を受けてこの損害っていくら何でも少なすぎないか?」
「こ、この私もこれほどまでに多くの兵が生き残っているとは想像もつかなかったな……かなりの鉄砲弾と弓を撃ち込まれようものであろうのに……」
我らが鮭こと秀綱も信じられないと言った様子だ。
確かに城に籠っていたとはいえこんなにも多くの兵が生き残るものなのか?それとも……?
「まさかとは思うがあの出鱈目設計の一戦車が本当に全弾弾き返したってことか?」
「それは……ひょっとするとそうかもしれません。駆筒は初めから終わりまで常にかの武蔵坊弁慶にも勝る仁王立ちで敵を押しとどめて居りましたから……撃ち手もかすり傷一つ無く……」
あぁ……戦車がバランスブレイカー過ぎたのか。しかもなんか味方内でも『鉄の戦車』、『仁王』、『宋人の盾』といろんな呼び方で大人気だ。
因みに最後の『宋人の盾』というのは矛盾の故事成語に出てくる『さいきょーのたて(笑)』っていう意味らしい……
つまり一戦車の装甲に『さいきょーのほこ(笑)』で攻撃すれば矛盾問題が解決することになる。残念ながらまだ『宋人の矛』と呼ばれる武器は見つかっていないので検証ができないが……
でも一戦車の装甲って盛安に頼んでちょっと鍛えて貰っただけという鍛造装甲なんだよなーそうすると電磁装甲とか劣化ウラン装甲とかどうなって来るんだろうか?そんな俺の居た時代はレーザー耐性とかも考えなきゃいけなかったから純粋に固いだけじゃダメだったんだけどな。
「良し!解散!」
櫓の上から声を張って数え終わった事を報せると城内にばらけていく兵達。
肝心のその数だが「だいたい勘」で数えていたという義光や輝宗の勘はあながち間違っては無かったようで、結構生き残っていた。
一番損害が大きかったのはやはり橋本軍で途中で増えたのにも関わらず来た時には2000人程だったのに今は1000人弱にまで減っていた。城攻め二回+野戦+城内で騎馬鉄砲に万歳突撃という事を考えると半減なのだから良い方なのかもしれないが……
対し山形城防衛隊の最上、伊達(輝宗)軍はというと2000人が1300人に。損耗率35%と言うとあれだが、一万人のうちの主力部隊と戦い、これを撃退したと考えるとざっと主力軍を6000人としても軽く一人に付き十人は道連れにしたという意味の分からない数字が出る。
なおこの損害のほとんどが東側から回りこんで来た政宗に対する肉壁になっていた鬼庭隊に集中している。流石イージスシステム、俺達が戻るまでだいぶ長い事それで踏みとどまっていたらしい。
実際は全然戦闘に参加しなかった隊とか逃げたり生還したりした兵も居るだろうからもっと少ないのだろうが、話半分としても1対5、これなら足軽全員、どこかのバトル物漫画の主人公に就職できるだろう。
だからバトル物でも取り扱うベンチャーでも創めようという訳じゃあない。これでようやく戦略ゲームのターンがやって来たという事だ。
山形城の広間に戻ると丁度、義光と輝宗、それに守棟などの主要メンバーがそろって今後の方針について話し合っていたようだ。
「あっ航太さん。丁度いい所に来ました。このまま政宗軍を追撃するべきか一旦、領内を立て直すべきか今、皆さんと話し合っていた所でして……お味方の残っている兵数から決めようという事になったのです」
信本が軽くここまでの流れを説明する。その説明によるとどうも武闘派の武将と知性派の武将との間で意見が割れたようだった。
守棟や基信といった知性派はここまでの戦いで疲弊しきった民を休ませるべきと主張。特に最低限の修復だけ済ませたら軍団総出で国内を再建すべきと言う。
それに対し満延や左月斎等、どこぞの突撃一筋な爽快なまでのバカを彷彿とさせる武闘派の武将は「見敵殲滅」と言って退かない。左月斎なんかは下手に政宗の頭のネジの飛び方を知っているせいで「ここで潰さねば次は南蛮の兵を連れてきますぞ!!!!」と妙にリアリティのある危険性を指摘しているため強く否定できないらしい。
……正直に言おう。俺もそう思う。政宗なら冗談抜きで東シナ海に跋扈しているポルトガル商人の皮を被った海賊もどきを傭兵として雇いかねない。かなり時間はかかるだろうが。
だがそれ以上に、俺はこういう大きな戦いのあとの重要性をゲームを通じて知っている。どこまで通用するかはわからないが、歴史上でも良く発生しているから見当はずれではないのだろう。
「朗報だ。今の俺達の兵力は合計2300人、かなり多めに残った上に一戦車は全車両健在。十分に戦う事も可能だが……」
実はこのまま戦うには深刻な問題が幾つかある。
「その一戦車だが残念ながら一度補給に戻らないと厳しそうだ。というのも撃ったものを拾って使い回していた弾が実はもうそんなに残ってない。加えて俺の隊がかなりの被害を受けて、もう1000人も居ない。ならば内政かというとそんな暇もないんだ」
俺達には戦車やその他の未来チートがあるとはいえ、地の国力で米沢から事実上、葛西大崎までを古くから支配する伊達家にはとてもじゃないが勝てない。未来時代であっても肝心の兵の作成のための資源が無ければ前史時代の棍棒兵にタコ殴りにされても反撃出来ずに終了、という事になってしまうのと同じだ。
しかし政宗と戦っていて気が付いた所がある。
恐らくまだ政宗は戦いを俯瞰できていないのだろう。俺だってゲーム慣れしていなければそんな考え方は出来なかったと思う。
それどころかもしかすると城の位置関係も怪しげな一直線の地図でも使っているのかも知れない。そうなって来ると城を押さえて敵方の士気を削ぐという戦法を取るのかも知れないが、これまたゲームのように全ての城を網羅出来ている地図というのは少ないだろう。つまり、必ず漏れが生じてくる。
そしてまたもやゲーム知識だがほぼ唯一のルールがある、大国と小国で唯一、近代まで共通だったルールがある。
『人は簡単には戻ってこない』というものだ……。




