#67 厨二病、接触しました。
大回転作戦。
シューティングゲームでマップ全体を大きく回って敵の弾を避ける事を大回転避けとか呼んでいたのを思い出し、ぼそっと提案したら何故か通ってしまった作戦だ。
作戦は大まかに三段階に分かれていた。
まず、橋本家の常套手段となりつつある森林内行軍で東の森から政宗軍の補給、撤退ルートとなってるであろう上山城へ続く須川沿いの平地の成沢城と泉出城のすぐ隣へ部隊を付ける。
どちらかの城を落としたら八柏館に居る筈の防衛隊を倒しつつ、終わり次第すぐに長谷堂城へ向かい包囲軍を排除して志村隊を解放する。
最後に、慌てて補給線を取り戻しに来るだろう政宗軍を後ろから追い立ててそのまま上山、あわよくば米沢までお帰り頂こうという作戦……だったのだが、政宗が正確にこっちの戦力を把握して居たり、政宗軍の後方部隊の防御が厚かったりしたらその段階で失敗。勝ち目が無くなるものだった。
そんな致命的欠陥を抱えた作戦はもちろん他にも問題は抱えていた。そして今回は『政宗が裏に回った俺達の軍が城を落とす前に戦い始めた場合』のパターンに当たってたみたいだ。
しかし楯岡満茂の提案のお陰で城と『悠香付き』部隊での政宗軍の挟み撃ちに成功。当初の予定とは違って政宗軍を潰走させる必要が出てきたが、一応有利な状態に持ち込めた。ここまで来たら後は戦うしかない。
レーザー乱射と鬨の声だけで南門を取り囲んでいた政宗軍を追い払うと城から白石宗実の伝令が現れ、政宗本隊が本丸を襲っていると知らせる。やはり後方の察しの良い武将が下手に戦って数を減らすよりも山形城を素早く落とした方がいいと判断を下し、全力攻勢に出たのだろう。
だが本丸が落とされていないなら俺達の有利は動かない。
急いで部隊を本丸へと向かわせ……そして遂に相対する……。
「フハハハハハ!!お前があの橋本家の『雷神』か!!俺の名は伊達藤次郎政宗!!新たな日の本の王だ!!」
「すごい厨二病!!!」
脇から飛んでくる悠香の雰囲気破壊発言。でも確かに厨二病という概念に縛られない政宗故に出来る事だろうがそれだけにとても痛々しい。
そしてこいつ征夷大将軍やら天皇やらすっ飛ばして『新日本の王』とか自称してるのか。だから『竹に雀』だけじゃなく天皇家の『十六余菊』も掲げてたんだな。
「さぁ勝負だ橋本航太!!まず手始めにこの俺が奥州の覇者であると見せてやろう!!」
盛り上がっている政宗だが、どうも調子が良いのは政宗だけのようだ。よく見ると政宗の部隊にはどこかに置いてきたのか歩兵が一人も居らず、数さえ俺達の隊の半分も居ないように見える。
「騎馬鉄砲!!今度こそ『雷神』を討ち取れ!!『神殺し』で下剋上を極めるのだ!!」
騎馬鉄砲!本当に実用化しているとは正直思っても無かったがそれでも命中率は悪いからよほどの事が無い限り当たらない。
そこで当たるのが俺の運なんだがな!
「航太!?」
隣から聞き慣れてきた悠香の悲鳴が聞こえるが、制服の襟首で首がつながった経験をした俺だ。未来の『念のため防弾仕様』に絶対の信頼を置きつつその悠香野戦病院で万全を期している。悠香の意義はそれ以上に味方兵の損耗削減ってのが大きいんだけどな。
「未来の技術を甘く見るもんじゃないな悠香君、一瞬痛かっただけだ」
言いながら俺と同じように鉄砲弾が命中した低い運の持ち主の味方兵を見回す。防弾仕様の服ではないので流石にそれなりに傷を負ってはいるが悠香に近い味方から順に再び立ち上がってきた。
「よし問題なさそうだな、敵将は討ち取るな!以上!攻撃開始!!」
悠香の治癒スキルでの回復力を後ろ盾に、距離を詰める俺達。敵軍は全員騎兵、こちらは全員徒歩とはいえ数と城内という地勢で優る俺達は政宗を撤退に追い込むことに成功したのだった……
「一度この俺を追い返しただけでこの戦いに勝ったと思うなよ!!俺こそが正統な日の本の王だと今度こそ示してやる!!」
そんな悪役染みたセリフを吐きながら逃げていく政宗と残りの騎兵たち。しかし今の俺にはそんな事はどうでもいい。そんな事よりも驚愕すべき事実に驚きと感動を感じていた。
近くに居た政宗は逃げ際に後ろを振り返りながら捨て台詞を言っていた。この時初めて政宗の顔をはっきり確認できたのだが……
「殿……ってこれは間に合わなかったようですね……」
政宗隊の来た道を辿って後を追っていた小次郎と小十郎麾下の部隊は後から出発しただけでなく足軽故に速度が遅く、百余騎にまで減ってしまった政宗の騎兵隊と政宗が破った東門で遭遇した。
「あぁ、だが俺は決して諦めないぞ小十郎!一旦米沢まで退き、軍を整え、すぐに攻め入る!そして必ず勝つ!」
「民あってこその伊達という事を忘れてはなりませんよ、殿」
「この俺がその程度の事も出来ない筈ないだろう!既に根回しもしてある」
「そうですね……小次郎殿にもそろそろ一仕事して貰いましょう」
一人状況が呑み込めない当事者の小次郎だったが兄政宗の頭の中ではその図面がはっきりと描かれていた。
その政宗の瞳は片や全てを飲み込まんとする漆黒の色を湛えるとともに右目は政宗の『光』を凝縮した金色に輝いているのであった……




