#32 包囲、開始しました。
「敵軍、退きつつあります!このまま追い討ちをかけましょう!」
感覚、敵が半分ぐらいになったか?既に小野寺方の逃走者が目立つようになって来た頃には流石に馬鹿の義道君と言えど退却し始めた。
「城から攻撃されない所まで追撃!その後は陣に戻れ!」
「はっ!」
初戦は快勝。だがここからの動きが一番重要だ。次で失敗すれば今回の作戦そのものも失敗するだろう。
陣に戻って来て大方揃っている事を確認し、次の行動を指示する。
「皆揃ったな。まず旗印を沼館城から持ち手が居るかのように茂みや物陰から見えるように立ててくれ。伝令!今の話をそのまま夜叉九郎に伝えてくれ」
「承知いたしました!」
「殿、その後はいかがいたしましょう?」
「この本陣で再集合する。その後の事はそこで伝える。各員!作業にかかれ!」
作戦の最重要部分でもある第二段階に取り掛かる。不完全ながら包囲を始めた……『ように見せる』工作である。旗優秀。
城周辺に旗を並べて練度の低い兵や傷兵を少し立たせるだけでも敵方からしたら包囲されているように見える……と思う。
もしかしたら道為あたりは気づいちゃう可能性はある。ので急遽、戦力外一歩手前の兵を立たせることにする。
それにしても道為ではなくとも義道のお守として誰か名将が出てくる事ぐらいは予測できても良かった。道為対策を全くしてないぞ!大丈夫か……これ、よりにもよって知将が出てきちゃったからな……
後は俺の運を信じるしかないな……
壊滅的に運がないけど。
「殿、大方仕掛け終え申した。御命令を下され」
成武が報告する。
「ご苦労。部隊の損耗率と士気、疲労度合をこの時計で五分を目安に報告してくれ」
「ソン……今何と?」
「あー各大隊どれだけ被害が出ているかを報せてくれ。それと傷兵は少ないなら被害として数えてくれ」
なんとか率なんて単語ないからわからないか。
けども五分、という方は大沢で腕時計を見せながら説明したのでわかったようだ。
懐中時計とかもう一個バラしても大丈夫な時計ってあったかな?工場で生産させたい。
と言っても産業革命すら起きていない戦国日本。ヨーロッパ諸国すら帆船の世界、設計は整備士俺ができるから良いとしても時計の細かいパーツを作る方法なんてあるのか?
それと工場作ったはいいが果たして俺の目論見は上手くいくだろうか?
「殿、被害は全軍で50人ほど、そのうち傷兵が20人。いずれも槍兵で御座います」
「50?少なくはないか?」
挟撃したとはいえ1000人の部隊にその半分で突っ込んで敵勢を半減させたんだぞ。いくら何でも被害が少ないだろ。
「私もそう存じますが間違いないようでございます」
マジか……チートヒーラー強ぇ。
即死じゃなければ死なないどころか高速回復もついているからか。
「わかった。それなら茂造の部隊を傷兵のうち、歩ける人と一緒に立てた旗の所で見張りをしているように伝えてくれ」
「見張り……と言いますと包囲するおつもりで?流石に兵が足りないかと……」
成武の言う通り、確かに500人だと包囲する兵数には足りないだろう。だからこそ失敗は許されない。
「次だ。旗印を一切持たずに沼館城の東側へ向かう!絶対に沼館城の兵に気づかれないようにしなければならないぞ!」
「っ!承知いたしました!」
結局、前の戦いとやる事は同じで『隠れて奇襲』だ。
ただ今回は城を奪う事が主目的ではない上に城は今、減ったとはいえ小野寺の兵で溢れ返っている。ここに乗り込んでも一人ずつタコ殴りにされるだけなので城には向かわず東側に回り込む。
南から西側に橋本家、北側に盛安の包囲軍。すると東側だけ包囲できていないが計画通りだ。
全方向を包囲すると敵は決死の攻撃をしてくるが、わざと一方向あけておくことで敵をそこから逃がすという計略の一つだ。
しかし三方向包囲してなおかつ攻撃部隊を余らせるには兵数が全く足りなかった。だから旗だけ置いて部隊が居るかのように見せかけるという手を使っている。
計略が上手く行って欲しい所だが、どうなるか……
「見張り厳とせよ!それと草からはみ出ないように気を付けろよ!」
匍匐前進がここまで頼りになるものだと感じた事は無かった。そしてシュールだ。
東に向かい始めて半分ほどの所、かなり時間がかかっているが隠れる所が畑横の溝か長めの草しかなかったから匍匐前進で進んでいるから仕方がない。
ここまで敵の動きはない。籠城する気だろうか?となると敵の援軍が来るな。それまでに城から飛び出して来てくれないだろうか……
「正面に追洲流の旗印!」
願ったり叶ったり……じゃなーい!こちらの動きがバレてたのか!?それともたまたま?どっちにしても何たる運の悪さ!
たまたまここへ来ているだけでまだ発見されていない事に賭ける。しかないだろう。
「伏せたまま武器を持て!今は動くなよ」
小野寺の兵がこちらへ近づいてくる。ただまっすぐではないのでもしかしたら見えていないのか……?
あ、こっちに走って来た。これは見つかったな。まずい!
「起き上がれ!来るぞ!」
草原から総勢四百人の兵が現れる。突然現れた部隊に敵方は動揺しているのか動きを止めている。しかし旗印をつけていないためか攻撃はしてこない。ならば先手必勝……
「殿!大築地織部の者と名乗る兵が攻撃を待って欲しいと仰せですがいかがいたしましょう?」
大築地織部!つまり秀道の部隊!という事は見逃してもらえる可能性もあるか!?
「ここに連れてきてくれ。もう少し詳しく聞こう」
「承知!」
少し待つと大築地の兵……じゃないな。見覚えがあるぞこの人物。
「小清水蔵忠、御目通り叶い感謝いたします」
秀道の家臣で蔵忠と呼ばれた人物だ。結局ゲームにも登場していなかったので相当マイナーか記録に残らなかった人物なのだろう。
「社交辞令はいいから要件を言ってくれ。まさか加勢する気になったなんて事じゃないよな?」
まさか、と言っては居るもののそれ以外に大築地の武将がコンタクトを取って来る理由が思い当たらない。
「その通りでございます。織部様は橋本殿から聞き及んだ策に乗り成すべき事を済ませた故、御加勢すると仰せでございます」
朝日を背に受けていた名も無き名将、小野寺秀道。
どのくらいの兵力を率いているかわからないが加勢してくれるというのは大きく有利に傾く。沼館城の内情を知るだけでなく、寝返ってない事にして敵をおびき出す手引きをすることもできるだろう。
「……そうか、それならば秀道殿にも一度会おう。両軍の間に来てもらうよう言ってくれ」
「承りました。では」
秀道の軍の元へまっすぐに帰る蔵忠。それにしても秀道は何故この部隊が俺の部隊だとわかった?
「大築地織部秀道、参上仕った。若造よ、再び会おう日がこんなにも早う来るとは思うて居らなんだぞ」
前に会った時よりも心なしか少し元気そうな秀道。
「秀道殿、お久しぶりです。しかしどうやって俺の部隊だと知ったんだ?」
敬語脱落病が重症化していく……想像以上に無礼講が飛び交う戦国の気に常に浸されているからだからか?
「旗印を掲げておらぬ妙兵は航太殿であろうと考えただけじゃ。先の戦も橋本の兵は次々と旗印を持ち替え、赤尾津と羽川の若造を離間したそうじゃな?故に橋本の若造の手勢は旗印にて見るのは誤りじゃろうと考えておったからじゃ」
おう、大曲の戦いはそこまで有名になってたのか。これじゃ同じ手はもう使えないな。
「大当たりだな。その事を家臣も知ってたから蔵忠が俺たちを見つけただけで誰だかわかったんだな」
「そうじゃな、それでじゃ若造、儂は如何に動けば良いかの?」
「俺達と同じように東に向かって貰えるとありがたい。前に伝えた通りの作戦だからな」
秀道には前に沼館城で会った時に作戦を伝えてあるから話が早くて助かる。
「そうじゃな、抜かりはないが……籠城する義道の小僧を西野道俊殿が後詰に来るそうじゃ。これを破らぬことには……」
「午の方より敵!見慣れぬ旗印に追洲流有り!沼館の後詰です!」
今言っていた西野道俊か、西野が援軍に来る辺りは盛安が沼館城を攻めた阿気野の戦いとそっくりだな。包囲は既に始まっているという違いはあるけどな。
確かその時の援軍は……軽く千人は居たような……!?
「秀道、俺の軍の方に来てくれ!流石に加勢がないと辛いぞ!」
最悪のタイミングで敵襲来!結局遭遇戦だ!急げ!




