目玉焼きにしよう
「うをおお!おはよおお!」
なんだよ、朝からうるせえな。
「おおおお!おはよおお!」
「うるせぇ!」
ようやく日が昇り始めた早朝からわめいている奴がいたので、近くにあった石ころを軽くぶつけてやると、ほぎゃ!と間抜けな声がして静かになった。
「朝からうるさくしてんじゃねーよ。」
もう一眠りようかと目を閉じる、ラグとニアがこそこそと話をしているのが聞こえてきた。
「あんた、なんだいこれ?」
「わかんねぇ。朝に散歩してたら見つけたんだよ。」
「随分と大きいねぇ。」
「目玉焼きにしよーぜ!これだけ大きいなら腹いっぱいになるしな!」
「そうだねぇ。」
「…何の話だ、おい。」
また怪しげなものでも拾ってきたんじゃねーだろうな。前に怪しげなキノコ拾ってきて1週間腹痛でうめいてたの忘れたのかあいつ。
嫌々ながら体を起こして二人の方を見ると、地面に置かれた何かを置いて話を続けている。
「目玉焼きよりオムレツとかのほうがいいんじゃないのかい?」
「いや、目玉焼きだ。これは目玉焼きで決まりだ。」
「いや、聞けよお前ら。」
近寄ってしゃがみこんでいる二人を覗き込む。
「オムレツがだめならお菓子とか。」
「だから目玉焼きだって…。」
「おい、お前ら何物騒なこといってやがる!」
二人が話題にしているものに気づき、思わず大声で怒鳴ってしまう。
「ん…。どうしたんですか?」
「何の騒ぎだ?」
まだ眠っていたサフィーナとグィンガンもその声に驚いて起きてしまった。
「おい、朝からうるせーぞ、オレグ!」
お前が言うな、アホ。
「ちょっと、何するんだい!」
ニアが抗議してくるが、無視してラグとニアが眺めていたものを取り上げる。
「ラグ。お前これどこで拾ってきた。」
「あ?さっき見つけた洞窟の中で見つけてきたんだよ。俺のだぞ、お前には目玉焼きやらねーぞ!」
「何言ってんだ馬鹿たれ!目玉焼きにしようなんてアホなこと言うな!」
「えっと…!?これ!!」
「いったいどこで!」
サフィーナとグィンガンは知ってるみたいだな。
「お前らこれ目玉焼きなんかにしたら殺されるぞ…。」
ぶーぶーと不満を言い続ける二人の脳天にげんこつをくらわして黙らせる。
「なら黒龍に食われるか?」
「「へ?」」
ラグとニアが首をかしげる。やっぱり知らなかったのか。俺は黒曜石のように輝く巨大な卵を優しく撫でた。
「黒龍ってドラゴンか!」
ラグが目を輝かせて聞いてくるので頷く。
「そうだよ。龍種の中でも特に位が高くて、龍のまとめ役の種族だな。ほとんどが龍の都にいて人のいるところには出てこないはずなんだけどなー。」
「すげえ!俺みたいだな。」
何言ってんだこいつ。
「そんな貴重な龍の卵をどうしてラグが見つけたんだい?」
ニアが卵を凝視したまま聞いてくる。お前まだ料理するつもりなのか。
「知らねーよ。洞窟の中に置いてあったんだ。」
「…。」
サフィーナが無言で見つめる。
「嘘じゃねーよ!信じられないなら一緒に見に行こうぜ!」
ラグが慌てふためいて提案する。
「…そうだな。卵を返しにいかないといけねーし。お前ら準備しろー。」
「うぃーす。」
みんないそいそと準備を始める。
「オムレツ…。」
ニア、お前はいい加減あきらめろ。
「あれー?この変だと思ったんだけどな。」
ラグの案内で洞窟とやらを目指しているが、一向に到着しない。
「本当は嘘なんじゃないのか?」
グィンガンが苛立たしげにラグに聞く。どうやら朝早く起こされたことを恨んでるらしい。
「あ!あそこだ、あそこ!」
「無視すんな!」
ラグがいきなり駆け出す。ラグが向かった方向を見ると、大きな滝がある川が見えてきた。
「わぁ、すっごく大きいですね。」
滝壺まで到着すると、サフィーナが上を向きながらつぶやく。確かにでかい滝だ。何十メートルも上から水が流れ落ちており、轟音が周囲に響き渡っている。
「…それにしても野営してたところからだいぶ歩いたよ。ラグはそんなに遠くまで散歩してるのかい?」
ニアが聞いてきたので「そうだ」と頷く。
「あいつ、毎朝1人で修行してんだよ。かっこつけで見られたくないからめちゃくちゃ遠くまで1人で行ってやってんだ。」
「…へぇ。」
「なんか…少し見直しました。」
ニアとサフィーナがラグのほうを見る。
「おぉぉぉぉお!滝でけええ!」
しかし、水にぬれながら滝壺ではしゃいでるラグの姿を見て無言になった。
「それで卵はどこにあったんだよ。」
いい加減、早く卵をもとあった場所に戻さねーと大変なことになるぞ。
「滝壺の裏に洞窟があるんだよ。」
ラグがひょいひょいと石を伝って先に行く。それを追っていくと、確かに滝壺の裏にぽっかりと大きな穴が開いていた。
ギャオオオオオオオ!!
おいおい、洞窟の中からやばい声がするじゃねーか。
「「「「「…。」」」」」
全員が黙り込む。
「…俺外で待ってる。」
ラグが回れ右をして逃げようとしたので腹に一発入れる。
「ぐふう!」
倒れこんだので、その足を持って引きずる。
「お前が勝手に卵持ってきたんだからお前が返すのが筋だろうが。」
ニアたちには洞窟の入り口で待っているように指示して、「いやああああ!」と悲鳴を上げるラグを引きずりながら洞窟の中を進んでいく。
結構長いな。しかも暗くて何があるかわかんねーし。
ピチョンピチョンと天井から水滴が落ちる音のほかは俺の足音とラグが引きずられる音しかしない。
「なんだ、なんもいねーな。」
「お前らか、私の娘を盗んだのは!!!」
「ぐうぅ!」
突然前方から声が聞こえ、爆風が体を襲う。
「うぎゃああああ!」
風を防ぐために脚を離してしまい、ラグの体が壁に突っ込んだ。
「まさか…こんなところで黒龍様にお会いできるとはね。」
ゆっくりと背中の大剣を抜いて、戦闘の体制をとる。
「…殺してやるぞ、人間ども!」
とんでもない咆哮とともに、その口から黒い炎が吹き上がる。真っ赤な瞳を持つ伝説ともいわれる黒龍は、どうやらめちゃくちゃに怒っているらしかった。




