大脱走②
グィンガンの部屋は2階だったみたいで、風魔法を使って難なく地面に着地する。下は庭園になっていて、突っ切ると、入口のホールまで行けるようになっている。しかし、ホールへの入り口には自警団が待ち構えていた。
「ぎゃああ!オレグ!はやく来いーー!」
声の方に視線を向けると、ラグが自警団の奴らから逃げ回っている。グィンガンはニアとサフィーナを後ろに隠して障壁を張り、魔法から身を守っていた。
「何やってんだ、アホ!そんな大声出したら敵が集まってくるだろうが!」
「ぎゃああああ!」
「聞けよ!」
ラグがぎゃあぎゃあとわめくおかげで、どんどんと敵が集まってくる。
「くそ!行くぞ!」
攻撃を避けながらラグに近づき、首根っこを掴む。
「グィンガン!ホールまで行くぞ、着いてこい!」
「分かった!」
俺も障壁を張り、ホール入口を守る敵の陣形に突撃する。
「サフィーナ!何とかしろ!」
「え?変身してもいいんですか?」
「緊急事態だ、許す!」
「は、はい!」
サフィーナが持つ琥珀の牙が光り、その姿が美女へと変わる。
「な!なんだ、おい!サフィーナが変身した!おい、オレグ!オレグ!」
「後で説明するから少し黙ってろ!」
「ぎゃあ!」
首根っこを掴んで引きずっているラグがまたうるさくなりだしたのでげんこつで黙らせる。
「どいてください!!!」
「ひぃぃい!」
サフィーナの声を聞いた自警団は腰砕けになったようにふにゃふにゃとその場にへたり込む。
「突っ込むぞ、グィンガン!」
「分かった!」
倒れこむ自警団の奴らの間を縫ってホールに突入すると「お待ちしておりましたわ」と聖女様が杖を構えてにっこり笑っていた。
「おいおい、聖女様に俺たちに構ってる暇があるのか?随分暇なんだな。」
「いくらオレグ様といっても魔族を匿うのは許されません。どうかその男を引き渡してください。」
「は!そんなの俺には関係ねー…。」
「動くな。」
聖女がぼそりとつぶやくと同時にキーーーーンと甲高い音がした。
「なんだい、これ!動けないじゃないか!」
「ほんとです!」
ニアとサフィーナが焦っている。どうやら聖女様の呪縛魔法が発動したようだ。でも俺は動けるぞ?
「聖女様よー、まだまだ修行が足りないみてーだな。」
「あ!」
首筋をたたいて、気絶させるかと動き出そうとしたが「待て!動けばこいつを殺すぞ!」とメガネのガキが出てきた。
「ぎゃあああ!死ぬぅぅ!」
メガネのガキに魔法の杖を突きつけられていたのは涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになったラグだった。
「オレグ様、おとなしくしてください。さぁ、魔族よ。この者たちを傷つけられたくなかったら早くこちらに来る…。」
「ぎゃああああ!やめろぉぉぉお!」
「こちらに…!」
「うぎゃああああ!」
「…。」
聖女が黙る。
「…おい、ラグ。聖女様の見せ場だ。少し静かにしてやれ。」
「ぎゃあああああ!」
だめだ、だまらねーぞこいつ。ホールに妙な空気が流れる。
「っ!うるさい!少し黙ってろ!」
あまりのうるささに嫌になったのか、メガネのガキが杖でラグを殴ろうとする。
「よっしゃあ!隙あり!」
「うぐぅ!」
メガネの拘束が緩んだうちに、ラグがメガネのみぞおちにひじ打ちをする。攻撃されることに慣れていないのか、うめいてうずくまるメガネ。
「甘いぞ、少年!オレグ直伝!かかと落とし!」
「ぐああ!」
ラグのかかとがメガネの脳天を直撃した。俺はお前に教えて覚えはねーぞ。勝手に真似すんな。
「なぜあなたは動けるのです!」
聖女が混乱してわめいている。
「そんな呪縛魔法、俺に聞くわけねーだろ!俺の動きを止められるのは見た目も性格もいいかわいこちゃんだけだ!お前みたいに見かけだけじゃなくてな!」
「なんですってぇ!」
おい、馬鹿。火に油を注ぐな。だいたい、お前が動けるのは後ろでグィンガンが解除魔法唱えてくれてたからだろーが。
「偽物のあなたなんかにそんなこと言われる筋合いはないわ!!」
聖女の聖力がどんどん密度を増しているのが分かる。やばい、これでかいのが来るぞ。
「オレグ様以外の者は生かしておく理由はありません!」
物騒なこと言うなよ、聖女だろお前。
「うるせー!お前、さてはグィンガンのことが好きなんだな!」
「は!?」
「あ?」
またラグがアホなこと言い出した。
「グィンガンをよこせって言うのもさては一目ぼれだろ!ふざけんな、俺の方がかっこいいだろう!」
「あなた、何を言ってるんですか!?」
聖女が信じられないといった顔でラグに返す。
「聖女である私が魔族に恋するなど!頭がおかしいのではありませんか!」
「んだと、コラー!」
「あなたのような愚かな人間には魔族がお似合いです!魔族は人間を害するもの。あなたも魔族とともに我々人間を害するものです!この場で消えなさい!」
聖女がためていた力がその杖に収束する。やばい、くるぞこれ!
「オレグ!魔力が回復した、行くぞ!」
グィンガンがぱちんと指を鳴らす。また地面に徐々に黒い穴が広がっていく。
「逃がしませんわ!」
「あ!」
その穴に飛び込もうとしていたサフィーナに聖女が呪縛魔法を発動する。
「サフィーナ!」
「くそ!先に行け!」
駆け寄ろうとするニアを先に行かせる。魔法を解こうにも、たよりのグィンガンは転移魔法で手一杯だ。俺も解除魔法は得意じゃない。これは抱えて逃げるしかねーな!
「逃がしません!!!」
しかし、聖女が大規模神聖魔法を発動した。
「ちぃ!」
俺は転移魔法を維持し続けるグィンガンに障壁を張る。
「きゃああ!」
神聖魔法にさらされているサフィーナが甲高い悲鳴を上げた。
くそ!めんどくせーことに!ここまで大規模な神聖魔法だと俺もまともに動けない。このままじゃサフィーナがやられちまう。
「うがああああ!オレグ!!!!」
動いたのはまさかのラグだった。自分の体が傷つき、血を流しているにも関わらず、苦しむサフィーナに近づき、その体を抱える。
「受け取れぇええ!」
「っ!お前!」
全力の力で放り投げたサフィーナを受け取る。
「うぐぅ!」
しかし、それで力尽きたのかラグはその場に倒れこんでしまった。
「ラグ!!!!」
「先に行けぇ!!」
顔だけをこちらに向けたラグが怒鳴ってくる。
「行けるか、馬鹿野郎!!今助ける!」
サフィーナを穴に放り込み、近づこうとするが魔法に阻まれてしまう。
「グィンガン!早く行け!」
「やめろ、グィンガン!穴閉じたら殺す!」
ラグがグィンガンを説得しようとしている。
「しかし!」
グィンガンはそうすればいいのか判断できず混乱しているようだ。
「グィンガン!間違えるな!このパーティーのリーダーは俺だ!オレグじゃない!行けぇええ!」
「くっ!くそぉ!必ず助けにくる!」
「!グィンガン、お前ぇ!」
俺の足元に黒い穴が広がり、体が落ちていくのが分かる。
「ラグ!!」
最後のラグを顔を見ると、口パクで何か言ってやがった。
「金残しとけよ。」
クソ馬鹿野郎が!!!




