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謎の子供2

「そうだ、美香子よ。俺様と契約するのだ」

「契約?」


 子供には不似合いな単語だ。


「契約しないといけないのだ」


 そう言いながら、リヒトはマントの内側から巻物を出した。小さな手で巻物を広げ、美香子には理解出来ない言葉で読み上げ始める。


「ち、ちょっと待って」


 美香子の言葉を無視し、リヒトは続けた。よどみなく読み上げる姿は子供に似つかわしくなく、美香子は何だか恐怖を感じた。


「ちょっと待ったーー!」

「うるさい。まだ途中なのだ」


 リヒトが巻物から顔を上げ、迷惑だという顔をする。リヒトの雰囲気が元に戻り、美香子は少し安心した。


「待ってよ。契約って何なの?」

「契約は契約なのだ」


 説明になっていない。


「いやいや、その契約の中身を聞いているのよ」

「細かうるさい奴め。とにかく契約したらいいのだ」


 リヒトの物言いに美香子は眉毛をピクつかせる。さっきまでの恐怖はすっかり取れ、今は怒りしか感じなかった。


「まずはあんたのその性格をどうにかしなければならないようね」


 またリヒトの両頬を引っ張り、美香子はぐいっと顔を近付け、リヒトを睨み付けた。


「人の話はきちんと聞きなさい」

「はへろ!」

「聞けないのかなー?」


 美香子が少し手に力を込めてやると、リヒトは黙った。おとなしくなったので手を離してやる。


「今度は説明出来るわよね。契約って何?」


 美香子の顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。


「契約は我らとエネルギー源を繋ぐものなのだ。契約しないと我らは力が使えないのだ。だから契約してほしいのだ……」


 しょぼんとしてリヒトは話す。

 エネルギー源というのは電力みたいな物だろうか? 我らということは他にもリヒトのようなキャラクターが? といまいちゲームから離して考えることが出来てないあたり、まだ混乱しているのだろう。そう自分を分析して美香子は頭を振りつつ、考えることを放棄した。


「何か引き返せなくなりそうだから契約はしない」


 美香子はきっぱりと言う。それを聞いて、リヒトはショックを受けた顔をした。

 少し可哀想な気分になったが、得体の知れないものを承知するわけにはいかない。


「あ、でも契約しないと死ぬことになったりする?」


 それなら話は違う。リヒトの存在に困ってはいるが、美香子はリヒトに死んでほしいわけではないのだ。


「大丈夫なのだ。力が出せないだけなのだ……」

「なら、やっぱり契約の必要はないね」


 リヒトは項垂れ、美香子に背中を向けてイスに座り直した。リヒトの丸くなった背中から、悲しさがびしびしと伝わる。

 何だか罪悪感が凄い。

 心臓の辺りを押さえつつ、美香子は視線を逸らした。この背中を見ていたら、契約してもいいと言ってしまいそうだった。

 それから、母親が帰ってくるまでリヒトは黙ったままだったが、母親に説明を受けて風呂に入り、夕飯を食べる頃にはまた元気になっていた。料理をうまいうまいと笑顔で食べ、お腹がいっぱいになったリヒトはソファーで寝てしまった。


「あらあら、こんな所で寝たら風邪をひくわよ」


 母親がリヒトを起こそうとするが、リヒトはモゴモゴと寝言が出るだけで、起きる気配がない。


「美香ちゃんの部屋にお布団を敷いてあるから連れて行ってくれる?」

「はーい」


 子供を一人で寝かせるのも心配なので、リヒトは美香子の部屋に寝かせることになっていた。

 美香子はリヒトを抱き上げ、自分の部屋に連れて行く。


「うーん、子供とはいえ重い」


 リヒトを落とさないように慎重に階段を上り、美香子は自分の部屋に入った。美香子のベッドの横に敷いてある布団に寝かせ、掛布団をリヒトにそっとかけてあげる。


「今日は色々あったな」


 リヒトの寝顔を見ていると、一日の出来事が思い出された。普通なら信じられないようなことだが、その証拠はここで寝ている。安らかな寝顔も、美味しいご飯にはしゃぐ姿も、丸っきりただの子供だった。しかし、リヒトはただの子供ではない。

 この先のことを考えなくてはならないが、すでにキャパオーバーの美香子は疲れていた。


「もう、寝よう」


 寝ている子供に眠気を誘われ、美香子はいつもより早めの就寝となった。

 リヒトの子供らしい行動に美香子は安心しきっていたわけだが、それは甘い考えだった。

 ブツブツと聞こえる声に、寝ていた美香子は起こされる。部屋は真っ暗なはずなのに、ぼんやりと明るい。

 眠い目を無理やり開き、美香子は身体を起こして部屋を見回す。すると、リヒトが契約に使っていた巻物を広げ、それを読み上げていた。巻物がぼんやりと光っている。

 睡眠を邪魔され、美香子のイライラは倍増。異常な状況だというのに、今の美香子にとっては睡眠を邪魔されたことの方が重要だった。


「いいかげんにしろ!」


 怒りのままに美香子はリヒトに枕を投げ付け、枕はリヒトの顔面に当たった。リヒトがそのまま布団に倒れた隙に、巻物を取り上げ、本棚の上に放り投げる。本棚は美香子の身長より高く、リヒトが巻物を取るのは不可能だ。


「何をするのだ!」

「今度やったらあれ破くから」


 巻物を指さしながら、美香子はリヒトに凄んで言う。暗さも手伝ってその迫力はなかなかのものだった。

 リヒトが黙ったので、美香子はベッドに横になりまた眠りに戻る。それ以降、美香子が起こされることはなかった。


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