師匠
「はぁぁぁぁっと!!」
庭園に響き渡る凛とした声と、空気を切り裂く鋭い風の音。
私——元・オビイース星の最高にイケてる魔術師(現:ルーチェ王国第1王女、4歳)は、パタパタと小さな足を動かして訓練場へと急いでいた。
(クソッ、前世の俺なら炎魔法一発で山くらい吹き飛ばせたってのに、今の魔力は半分……! しかもタイムリミットはあと16年! 魔法だけに頼らず、父上の剣術もマスターして魔剣士として魔王の野郎をぶちのめす!
そんな意気込みで訓練場の影から覗き込むと、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「くっ……! やるな、アリス!」
「甘いです、国王様! 踏み込みが浅い!」
カンッ! と甲高い金属音が響く。
父上——この国の騎士団長をも束ねる最強の剣士が、汗を流しながら剣を交えていた。
その対戦相手は……なんと、私と同い年か、へたしたら年下に見える小さな女の子だった!
輝く銀髪をツインテールにし、体よりも大きな木剣をブンブンと振り回している。
父上は本気で汗をかき、その攻撃をギリギリで受け止めているじゃないか!
(な、なんだあの少女は!? というか父上! 大人の、しかも国王ともあろうお方が、あんなちっちゃい女の子相手に本気で剣を振るうなんて……っ!)
前世の俺——いや、今の私の中の「正義のヒーロー魂(と、男としてのプライド)」が激しく燃え上がった。
「弱い子イジメはダメーーーッ!!!」
私は影から飛び出すと、幼い少女と父上の間に割り込み、両腕を大きく広げて女の子を庇うように立ちはだかった!
「父上! いくら訓練でも、こんな可愛い女の子相手に本気で叩きのめそうとするなんて、男として……じゃなくて、王として最低です!」
(どうだ! 完璧な乱入! これでこの子は私に惚れる……あ、ダメだ俺いま女だったわ! でも格好いいだろ!!)
自分の中でバッチリ決まったドヤ顔を決める私。
……しかし。
周囲を包んだのは、静寂だった。
「「………………」」
父上と、庇ったはずの銀髪の女の子がポカンと口を開けて私を見つめている。
そして次の瞬間——
「「あははははははは!!!」」
二人はお腹を抱えて爆笑し始めたのだった。
「なっ……!? なぜ笑うのですか父上! 私は真剣に——」
「く、首を突っ込んでくるとは思わなかったよ、ルシア(私の名前)! ぶははっ!」
「ぷっ……あはは! 『弱い子いじめ』ですって? 私が……!?」
銀髪の少女は木剣を地面に突き刺し、涙を拭きながら私を見下ろしてきた。
なんだその余裕そうな笑顔は!?
「ルシア、勘違いさせてすまなかったね」
父上は笑いすぎで目元を拭いながら、私の頭をポンポンと叩いた。
「彼女はアリス。隣国の『剣聖』の娘でね。弱いどころか……この城で私に次ぐ剣の天才であり、今日からお前の『剣術の家庭教師』になっていただくお方だ」
「……は?」
「よろしくね、お姫様♪ 4歳にして私にタンカを切るなんて、いい度胸ね。今日からスパルタで鍛えてあげるわ!」
(嘘だろおぉぉぉぉぉ!!? こいつ俺より年下に見えるぞ!? スパルタって何!? 師匠!?)
脳内で魔王の『ヌハハハハ!』という笑い声が聞こえた気がした。
私の魔王討伐への道は、前途多難すぎる——!!




