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~ラスト・マイル・アサシン~ その配送師、国の臓腑を駆け抜ける   作者: 秤乃 うさぎ


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第九話 バックヤードのお仕事

「おまえへの今回の依頼は、奴の………『暗殺』だ」




『暗殺』




俺の表の顔は、物流と倉庫業を束ね、各地でアイスクリームを売る実業家。

そして街の『鼓動』を読み、情報を手繰り寄せる情報屋としての顔も持つ。


だが裏の顔は、その血管を強制的に断ち切る『暗殺者』だ。

誰にも察知されず、ただ静かに標的の息の根を止める。

国という巨大な生命体の中で、血管そのものを焼き切る――それが、俺のもう一つの「ロジスティクス」なのだ。


「奴が消えれば再び連中は勝手に国内で敵を見つけて、内紛を再開するだろうさ」


パロメは肩をすくめ、自嘲気味に笑った。

その瞳には、領主としての冷徹な計算と、民を背負う者特有の重圧が混ざり合っている。


「おまえも相当だな……しかしよくそこまでの情報を手に入れられたな。」

「…ふふっ。俺にもそれなりの『網』張っていてね。……ま、簡単な事だ。あっち(カストゲス)からの敗走兵が例の森を抜けてこちらに入り込んだ奴らがいてな。そいつらを捕まえていつもの如く拷問にかけて口を割らせただけさ。」


パロメの顔から無邪気さは消え失せていた。

先ほどまでアイスをねだっていた男とは別人のような、領主特有の冷徹な仮面が張り付いている。

例の森、そう…シルクス王国とカストゲスとの国境付近には、広大な緩衝地帯が広がりそこは魔獣が跋扈している森林地帯がある。


「……ただの緩衝地帯じゃない。魔獣が跋扈する天然の防壁、『不還ふかん黒森こくりん』……か」


不還ふかん黒森こくりん』は、踏み込んだ者は二度と帰還する事は不可能と昔から言われている事からそう呼ばれているが、実際には、森を通り抜けて生還する者も皆無ではない。

しかし、この森には抗いようのない恐ろしい「法則」がある。

一度足を踏み入れた者が、恐怖に駆られて引き返そうとした途端、その者の位置感覚は瞬時に狂い、前後不覚へと陥るらしい。

正気を失い、終わりのない森を彷徨い続けた果てに、彼らはそのまま彷徨い続けるか魔獣の胃袋へと消えていくと伝承では伝えられている。

つまり片道切符みたいなものだ。


「命からがら森を抜けた早々に捕まり拷問されるとは…どちらが地獄なのかわからないな。」


俺がそう皮肉を吐き捨てると、パロメは静かに窓の外、広がる領地の景色へと視線を移した。


「ふっ……俺はただ、火種がこちらに飛んでこない様にしているだけさ。俺の民、王国の民を傷つかせないようにな」


その言葉には、一切の迷いがなかった。


「……領主の流儀か」


俺はミゴ排除後の世界をシミュレーションする。

ミゴという「大義」を失った瞬間、カストゲスという国家は再びバラバラの派閥へと分解し、エネルギーのすべてを国内の権力争いへと回帰させるだろう。

そうなれば、シルクス王国を脅かす「義勇軍」という名の侵略軍も、指揮官を失ったただの烏合の衆と化す。


「……とは言えだ。依頼を受けるか判断する時間をくれ。」

「……あぁ、任せる。俺もお前のその慎重さには何度も救われているからな。自分で向こうの情勢を確認した方が仕事も確実だろう」


パロメはそう言って、深く腰を掛け直した。

彼にとっても、俺が単なる『暗殺者』ではなく、独自ルートでの情報の真偽を確かめる「目と耳」を持っている事は、この取引において大きな安心材料なのだろう。


一方からの情報を鵜呑みにする程、子供じゃない。

俺は依頼を受ける際に己の目と耳で判断する事を欠かさない。


「裏取り」――それは暗殺者としての、そして物流のプロとしての俺の流儀だ。

パロメの「正義」が、本当にシルクス王国の為なのか、それともパロメ個人の権力欲を満たす為の政治的カードなのか。

それを見極めるまでは、剣を抜く事はない。


「じゃあな。依頼の件は、裏取りをした上で改めて連絡する」


ロジーは立ち上がりこの場を後にしようとする。

背を向けたロジーに、パロメが軽い調子で声をかけた。


「あぁ、頼んだ。その時はアイスを忘れるなよ」

「は? アイスは月一の契約だろ」


俺が呆れて言い返すと、パロメはこれ見よがしにふんぞり返った。


「俺はこの国の為に頭を使って疲れてるんだ! 疲れたら甘いものが欲しくなるのは当然だろ!!」


まるで子供のような理屈だ。

しかし、その顔には「してやったり」とばかりに、にんまりと笑みが浮かんでいる。

――こいつ、本当に食えない男だ。


人を殺すという極めて重い依頼を突きつけておきながら、直後に平然と笑える神経。

権力者という人種は、どこか決定的な所が狂っているのか、あるいはそれほどまでに図太いのか。

暗殺依頼と血生臭い陰謀を前に、アイスの要求で空気を逸らしてみせるその姿に、俺は改めて権力者というものの底知れなさを感じていた。

冷徹に暗殺を命じ、その直後に甘いものを要求して笑うパロメ。

大義名分を掲げて隣国を追い詰め、民を扇動するミゴ。


二人とも、駒(人間)を動かし、自分の盤上の都合で命をやり取りしている点では変わりない。

パロメが「領主としての正義」を盾にしているように、ミゴもまた「救助」という名の正義を掲げている。

どちらが「正しい」かを決めることではなく、どちらの「盤面」がより邪魔かを判断するだけの事かもしれない。

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