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~ラスト・マイル・アサシン~ その配送師、国の臓腑を駆け抜ける   作者: 秤乃 うさぎ


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第八話 依頼

この国でアイスクリームの製造販売も、俺が経営する系列会社が手がける事業の一つだ。

この世界では冷凍技術が未発達なため、冷蔵・冷凍の魔道具は極めて高価であり、一般には普及していない。


そこで俺は、この『零距離接点ゼロ・ノード』を駆使して各地から厳選した原料を集め、自社工場で製造。

更に、北方の誰も立ち入る事の無い極寒地に建設した専用倉庫で一括保管している。

維持費ランニングコストを自然の冷気で賄い、配送時間をゼロに短縮。

また魔道具に頼らないこの「低温物流網(コールドチェーン)」こそが、俺の独占市場ブルーオーシャンを支えている。


勿論、この『零距離接点ゼロ・ノード』の先にある個人倉庫で保管しているのは、アイスのような嗜好品だけではない。

鮮度が命の生鮮食品、更には極低温でなければ性質を維持できない魔道具用の希少金属や、熱に弱い特殊な鉱物。


この世界では輸送中に劣化してしまう「デリケートな戦略物資」も、俺の管理下ではその価値を損なうことはない。

言わば、ここは世界で最も安全で、最も理想的な「超低温・高セキュリティ倉庫」なのだ。

そして運送業と倉庫業は表裏一体。


「運ぶ」だけが仕事ではない。

「預かる」という行為には、運送と同等かそれ以上のマージンが乗る。

俺の倉庫に眠る品々は、この国で最も価値があり、同時に最も危険な「富」そのものだ。


領主であるパロメは深々と頭を下げた顔を上げてニヤリ笑うと、おもむろに口からスプーンを離した。

と同時に、青年の無邪気な笑顔は消え失せ、この街の最高権力者としての顔へと切り替わる。


「……さてっと。腹も心も満たされたし、そろそろ本題の話に移ろうか。今回のお前への依頼についてだ。

隣国「カストゲス」の首領である、『ダーダスト・ミゴ』……聞いた事、あるだろ?」

「あぁ…噂程度にはな。」


俺の会社は、物流とは単なる物だけの移動ではない。

国から国へ、人から人へと物流網を張り巡らせる俺たちは、荷物と同時に膨大な「情報」を運んでいるのだ。

国境を越えるたびに集積される、現場の噂やその国の情勢、物流路線の異変、そしてその土地の権力に纏わる噂など…。


運送業とは、すなわち国の血液だ。

物流が滞れば、その国は衰退の道を辿る。

軍事において兵站が最優先事項であるのも同じ理由だ。

どんなに屈強な兵士も、補給が途絶えればただの肉塊と化し戦う事は出来ないのだ。


そして――。

その広大な血管網を巡り、溢れ出す情報が、最後には俺という「心臓」へと流れ込んでくる……。


「『ダーダスト・ミゴ』……隣国の紛争地を統一しようとしている、あの独裁者か?」

「……そうだ。さすがに情報通だな」

「しかしあそこはまだ情勢が不安定だ。俺の会社も直接出入りしていないし、旨味もない。それで、そいつがどうした?」

「実はな……」


そう前置きし、パロメは隣国カストゲスのきな臭い情勢について語り始めた。

「カストゲス」この王国「アイア・ア・シルクス王国」通称『シルクス王国』と隣接する小国だ。


国とは言ってもここ数十年、内紛や政争明け暮れており国家としてまともに機能している時期はほとんどなかった。

そのカストゲスが、ここ数十年でようやく一部の勢力が統一を果たしそうだと言う。


独裁者の誕生による急速な安定化――。その勢いを駆り、連中は隣国…そうこの「アイア・ア・シルクス王国」干渉を強め始めていた。

それはつまり、対外侵略の兆候であり、統一直後の強固な権力基盤を背景に外部敵対化による内部統制。

独裁者が国家を統一した直後に最も恐れるのは、外敵ではなく「内側からの瓦解」だ。


昨日まで敵同士だった派閥や、長年の内紛で疲弊した国民の目を、外側へ向けさせる。

これ以上の「目晦めくらまし」はない。


シルクス王国とカストゲス。

両国は国境を接してはいるが、その間には広大な緩衝地帯が存在していた。

そのため、長年直接的な軍事的衝突は起きていなかった。


しかしそれは平穏とは言い難い状況でもあった。

カストゲス国内で内紛を繰り返す事で敗走した者たちが、その緩衝地帯を抜けてシルクスへと流れ込んでいたからだ。

彼らは国境を越え、犯罪者紛いの行状を繰り返す。

そのたびにシルクス王国の軍が出動し、鎮圧にあたる。


そして今、事態は新たな盤面を迎えている。

数十年の内紛を統一した独裁者、ダーダスト・ミゴ。

彼が握った強固な権力基盤は、国内の不満を外へと向けさせるプロパガンダとして機能し始めた。


「この状況でミゴは、不当に捕らわれている『仲間達』を救出する為、と称してその憎しみをこのシルクス王国へ目をむけさせようとしている。」

「仲間達を救出……だと? 殺し合いの果てに自ら追い出した連中を、今さらそんな綺麗な言葉で呼び直すか」


ロジーは半ば呆れながら鼻で笑う。


「被害者面をして民衆の憎悪を煽り、それを正義にする……。独裁者が民衆を操る典型的なプロパガンダだ。国内の不満の矛先を外部へ向け、かつて排除した筈の連中に『大義名分』と言う使い捨ての駒に変える。実に効率的で、腹立たしいほど理にかなっている、そして民衆はこの閉じた国の情報しか与えられないから容易に信じてしまう……それも盲目的にな。」


パロメの言葉で、ミゴという男の輪郭がより鮮明になった。

ただの独裁者ではない。

彼は『歴史』や『関係性』すらも都合よく加工して配送する、悪質な運び屋だ。


「かつて排斥した連中を、今は『不当に捕らえられた英雄』として持ち上げることで、シルクス王国を悪役に仕立て上げる。国民は『仲間を救う』という高潔な大義に酔い、ミゴを崇拝し、俺たちの国を憎むようになる……。そのシナリオ通りにことが運べば、緩衝地帯に集まっている連中も、ただの盗賊から『義勇軍』という看板にすり替わる訳だ。」


「勝手なもんだな。」

「……あぁ。おまえへの今回の依頼は………奴の『暗殺』だ」



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