第六話 権力者
「(^ー^* )フフ♪」
つい先ほどの『広機』の連中へ行った夕日観戦ツアーを思い出す。
あのイケメン兄ちゃんが空から降ってくる描写がこちらの世界へ来た時の俺を彷彿とさせ、懐かしさが込み上げて来て俺は自嘲気味に一人ふと笑う。
俺が地球からこの世界へやってきて、もうどれくらいの月日が流れただろうか……。
路次 航。それが、俺の本当の名前だ。
こちらでは呼びやすいように『ロジー』の名で通しているが、文字通り『路』を『次』物流のプロ――つまり、あちらの世界でも『ロジ』スティクスに関わってきた俺にとって、この異世界での生業は、ある意味で運命だったのかもしれない。
そして、この能力も、きっと……。
そんな過去を思い出しつつ俺は店内に併設された転移陣の部屋へと足を踏み入れる。
そしてポケットから一欠けらの木片を出しそれを地面へ落とした途端、魔法陣は淡い金色の光を放ち始め、
吸い込まれるように俺の身体を包み込んでいった。
見慣れた店舗から一瞬で景色が変わる。
転移が完了し、今、俺は殺風景な小屋の中にいた。
外は既に夜の帳が落ち、小屋の中はしんと静まり返り薄暗かった。
ここは、本日の最後の配送場所である、お貴族様の屋敷内だ。
当然、誰もが立ち入ることの出来る場所ではない。しかし、ここの貴族は俺にとって古くからの馴染みの顧客であり……また、別の意味での「顧客」でもある。
そのため、俺がいつ転移してきてもいいようにと、専用の場所がわざわざ提供されていた。
場所は敷地内ではあるものの、居住エリアとは離れた場所にある一軒の小屋。
そこには「転移陣」が設置されており、俺はそこへ直接転移してくる「体」になっている。
転移陣とは、魔法陣に魔力を流し込むことで、あらかじめ設置された入り口と出口を瞬時に行き来できる、いわゆるワープ装置のようなものだ。
しかし、誰もが自由に使えるわけではない。
国や有力貴族が厳重に管理しており、使用するには魔法陣に供給する魔力量や性質、土地との相性といった複雑な条件をクリアする必要がある。
転移陣自体の希少性も極めて高く、警備も情報管理も徹底されていた。
俺はその小屋に常駐している騎士に、軽く挨拶を交わす。
「お疲れ様です。カイル様、今日はあなたが当番でしたか。」
「おお、ロジー殿。よくぞ参られた。本日来る事は、我が主より伺っている。さあ、案内しよう。」
「ありがとうございます。……ああ、そうだ。こちら、お口に合うかわかりませんが。先日、王都へ出向いた折に購入した人気の菓子です。ぜひ奥方様と召し上がってください」
「いつもすまないな。貴殿の手土産目当てで、ここの常駐番は騎士団でも人気なのだよ。はっはっはっはっは!!!」
ここの騎士たちとはすでに顔馴染みだが、利用時の手土産だけは欠かさない。
元の世界でサラリーマンをしていた頃から、これは基本中の基本だった。
円滑なリレーションシップを築く為の、ちょっとしたビジネスマナーという奴だな。
その積み重ねもあり、堅物揃いの騎士達も多少は心を許してくれる様になった。
中には軽口を叩き合える者出来て、屋敷外で飲み仲間として付き合う者もいる。
薄暗い邸宅の中を案内され、今回の依頼主の元へと歩を進める。
「閣下。ロジー殿をお連れ致しました。」
「入れ。」
返ってきたのは、まだ貫禄がつく前、どこか幼さを残した声だった。
しかし、その短い言葉には、並の大人を沈黙させるだけの威厳が満ちている。
部屋へ通されるとこの屋敷の主であり、この地の最高権力者である若き領主「フリート・ヴァレ・パロメ・メニオン」が部屋の奥、豪奢な執務机に座っていた。




