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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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11

祖母は一華が亜希を抱きしめている…ほぼ寝た状態の亜希を一華が上半身だけ抱えた形に成っているのを、喜んで写真を撮った。

徐々に痺れていく腕や足が痛くて、一華は泣きそうになったが、その顔が余計に面白かったのか母親を呼ぶ。

用事が終わったのか、母親はぶつくさと何か言いながら部屋に来た。


「何ですか。お義母さん」


祖母の写真を撮る姿を見てため息を付いた。


「何してるんです」

「可愛いじゃない?…写真撮っているのよ。皆に送りましょ」


嬉しそうに祖母が言う。


「もうすぐ年賀状の用意をしなきゃいけない時期でしょ」


親戚には粗を見せたくない母親は、それもそうかと納得し、祖母も一緒に入る様に促した。

祖母の兄弟に送る用だ。

そして、二、三枚撮ると祖母と代わる。

これは自分や父親の兄弟に送る用だった。


撮影会が終わる頃、一華の手足は限界で、痺れを通り越して無感覚になっていた。

撮っている間大人しかった亜希も、終わると同時に泣き出し祖母が抱きあやす。

やっと解放された一華の体が、感覚を取り戻すと急激に痛みが来た。


足が痛い。

腕が痛い。


そう言って泣く一華を、誰も慰めはしない。

母親は泣く一華を一瞥した後、カメラを持って部屋を出て行った。


「はいはい、痺れたんね…」


立ち上がって亜希を揺らす祖母が軽い口調で言う。


「痛い…痛い!」

「そんな泣いても…」


痛くて泣く一華の声に、更に亜希の声が重なる。

泣き声の大合唱。


だが、いつもなら煩いと言って殴る鬼二匹が今は居ない。

ここぞとばかりに鬱憤を晴らす様に泣いた。

何か分からないが、ずっと胸の中で重かったモノが薄れていく感覚に一華は一層声を張り上げた。

声を上げれば上げる程、スッキリとする。


声をあげて泣くってこんなに気持ち良かったんだ。と、今までも声を我慢せず、大声をあげて泣いていた亜希を羨ましく感じた。


しかし、外に響き渡って居たのか玄関が勢いよく開き、閉まった音がした。

走って来る足音が部屋に向かって来る。


あ、やりすぎた。


思ったのも束の間、怒声と共に平手が頬に飛んでくる。

ピタリと一華の泣き声が止まり、亜希の泣き声だけが響いた。

爆音が半減。


「あんた何考えてんの。うっさいな」


母親が一華の胸倉を掴む。


「調子に乗ってたらあかんで」


倒れ込んだ姿勢の一華の上半身が母親に引き寄せられる。

目の前に鬼の顔をした母親が来て、一華は頷く事しかできなかった。


「その辺で…」


亜希を抱いた祖母が、母親を止める。


「お義母さんが甘やかすからですよ」


そう言うと、胸倉から手を離した。

が、ふと母親の目が「亜希の物」が入っている棚に行く。


一華は背中に汗が流れる気がした。

夏に流す汗とは違う、冷たい汗。


白い布が挟まりはみ出ている引き出しに近付いた母親が、徐に引き出しを引く。

無理やり突っ込まれ乱れた服が、中から解放されたように出た。


「畳んでたのに…」


亜希のあの白いドレスだった。


「誰か…」


母親の誰が開けたか聞く声が止まる。

祖母は不思議そうな顔をして母親を見ているが、一華は分かった。


…見つかった。

恐らく、緑が。


無言で母親が目の前に立つ。

掌に汗が浮き出て、じめっとした。


「ごめ…」


謝ろうと口を開きかけた時、左頬に痛みが走った。

パンッという音もない。

ただ、ゴツッとした音が口の中に響いた。


「いちかぁ!!!」


何度も何度も左に右に硬く握りしめられた拳が、打ち付けられ首がその度に振られた。

謝りたくても謝れない。

口の開く隙さえも与えられず、殴られ続ける。


「あんた!あんたやろ!!」


叫びながら何度も殴り続けた。


「汚してからに!!」


母親の手に掴れたドレスには、緑がちょぴっと付いている。

小さな掠った様な緑が、面積は小さいがその存在を主張するかの様に鮮やかに。


「売れへんやんか!!」


綺麗に保存していたのは売る為だった。

亜希の物だが、一度しか着ていない為売れるはずだったと、喚きながら一華を殴る。


「どうしてくれんの!」


一華は振りかぶる母親の腕から逃げる様に這いずり、両手で頭を抱えた。


「ごめんなさい!ごめん!ごめんま…」

「謝って済むか!」


やっと口が開けられ、謝罪の言葉を頻りに吐くが許されなかった。

殴られた頬が熱く、口の中がヒリヒリする。

口の端が切れたのか、血が出ている様だった。


「ごめんなさい」


泣きながら繰り返す。


「ごめん…ごめんなさい」


助けてくれるはずの祖母が…いつまでも来ない。

母親の背後を…祖母が居た場所を見ると、彼女は居なかった。

亜希と共にいなくなっていた。


殴られ続けている一華が解放されるのは、母親が自身の手が痛くなってからだった。

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